サポーター体験記303

希少な練馬大根を作り続ける農家の6代目、渡戸章さん90歳

取材日令和5年12月18日
更新日令和6年1月25日

全国的にもその名が知られている練馬大根ですが、今や生産している農家は区内でも数えるほど。幻とも言われた練馬大根を代々作り続ける渡戸章さんは、伝統的な野菜を後世に残すべく奮闘されている農家の6代目です。今年90歳になった渡戸さんの練馬大根作り、そして農業に注ぐ熱い思いをお聞きしてきました。

渡戸 章(わたど あきら)さん

※以下、文中敬称略。

渡戸農園 所在地:練馬区平和台4-8

平和台で260年続く渡戸農園

―――渡戸さんは6代目とのことですが、練馬大根はいつから作っていましたか。

渡戸「260年前から平和台で代々農家を営んでいて、私で6代目です。練馬大根は初代から作っています。白首大根とも呼ばれ、このあたりでは江戸時代から盛んに生産されていました。しかし、一時は絶滅しかけ、生産や収穫の難しさから年々生産する農家が減っていき、今では練馬大根を取り扱う数少ない農家の一軒となってしまいました」

―――現在、渡戸さんの畑で練馬大根はどれくらい作っていますか。

渡戸「8アールの畑で約3000本を露地栽培しています。そのうち1000本を学校の給食用に提供し、残りの2000本はたくあん漬けに加工して練馬区に納めています」

―――生産からたくあん漬けの加工まで、全て行っているのですね。

渡戸「そうです。練馬大根を『たち編み』と呼ばれる練馬特有の技法で11~12本ずつロープに吊るし、10日から20日かけてしっかり乾燥させ、水分が抜けたらたくあん漬けにして出荷しています。黄色く染めた練馬大根のたくあんもありますが、伝統的な方法を踏襲し、そのままの色で作っています」

渡戸農園では毎年12月中旬頃になると、練馬大根を干す伝統的な吊るし方「たち編み」の光景が見られます

―――渡戸さんの畑は練馬大根の他に、どのようなものを育てていますか?

渡戸「トマト、キュウリ、ナス、トウモロコシ、ゴーヤや小松菜などを作っています。特に小松菜は年に7回収穫しています。昔はなかったような野菜も時代に合わせて作ることにしています」

畑ではさまざまな野菜を作っているため、毎日の手入れが欠かせません
渡戸さんの野菜は、敷地内の直売所「すずしろ」で購入できます。取材中も、地元の方が新鮮な野菜を買いに来ていました

絶滅から復活へ。練馬の農家と練馬大根の歩み

―――先ほど練馬大根が絶滅しかけたとおっしゃっていましたが、詳しく教えてください。

渡戸「昭和の初め頃、大干ばつとモザイク病の蔓延が重なって練馬大根の生産量が減少したんです。戦時中には統制経済による米や麦の栽培への切り替えなどの影響でさらに落ち込み、幻とまで言われるようになりました」

―――現在、練馬大根は復活したということでしょうか?

渡戸「絶滅が危惧されたとき、運よく種を保存していた人がいたんです。35年前、その種を元に復活させよう、種を途絶えさないように取り組もう、というプロジェクトを練馬区から提案されました。代々練馬大根を育ててきた農家として、よしやろう!とプロジェクトに協力しました。今は練馬区の栽培委託農家として、練馬大根の生産を担っています」

―――練馬大根の歴史は紆余曲折あったのですね。練馬大根を作っている農家は現在何軒くらいあるのですか?

渡戸「生産農家は、今では20軒くらいです。練馬大根は育てるにも収穫するにも手間がかかるんです。8月下旬から9月中旬に種を蒔いて、収穫までに約80~100日もかかり、長いものは1mにもなるので引き抜くのはとても大変です。その上、病気にもかかりやすい。練馬大根を作るのをやめてしまい、キャベツを生産する農家が増えていきました」

練馬大根の畑で取材を行っている様子

―――スーパーでも練馬大根はあまり見かけません。生産量の関係でしょうか?

渡戸「練馬大根は長さがあり、形が不揃いなので、スーパーでは売り場に並べやすい長さと形の青首大根が販売されています。また、昔は白米に合わせるおかずといったら漬物でしたが、今はいろいろな種類のおかずがあるため、練馬大根を使ったたくあん漬けの生産量も落ち込みました。食卓の需要の変化も大きいと思います」

365日、休まず畑へ!

―――渡戸さんは何歳くらいから畑に出られていたのですか?

渡戸「二十歳になる前にはもう畑で作業していましたね。私は8人兄弟の長男として生まれたので、自然と畑を継ぐものだと思っていました。今でも夏は4時半~5時、冬は5時~6時には畑に行って、陽が沈むまで作業をしています。365日休まず働いています」

―――休みたいと思うことはないのですか?

渡戸「農作業は『今日はやめて明日に持ちこそう』なんてできない仕事。毎日手入れしないと野菜の商品価値が落ちてしまいます。なんでこんなに働かなきゃいけないんだろうと思うこともあるけど、これは運命だと思っています。代々続いている農家を止めるわけにはいきませんから、覚悟を決めなければできない仕事です」

―――後継者はいらっしゃるのですか?

渡戸「脱サラした息子が7代目を継いでくれました。自分が若い頃は遊びに出かけても父が毎日畑で作業してくれていました。父がそうしてくれていたように、今は自分が毎日畑に出て息子をサポートするようにしています」

練馬大根の収穫体験をするサポーター。やっとの思いで抜けたときの喜びはひとしお!
練馬大根をひょいと引き抜く渡戸さん。プロの技にサポーター一同脱帽!

―――背筋もピンとされて、とても90歳には見えません。渡戸さんの元気の秘訣を教えてください。

渡戸「食べ物の好き嫌いはなく、何でも食べます。酒量はあまり減っていないけどね(笑)。あとは、体のここが痛いとか、あれこれ気にしないで動き続けること。じっとしているより、動いているほうが楽しいし。できるだけ自然体で過ごすようにしているだけです」

―――区内の子どもたちが練馬大根や農業に触れ合う機会も作っていると聞いています。

渡戸「近隣小学校の練馬大根の収穫体験を受け入れたり、羽沢の練馬区立こどもの森に農業指導に行ったりしています。子どもたちが農業に触れる機会を作ることは、とても大切なことだと思ったので引き受けました」

農業に対する熱い思いを語る渡戸さん

伝統を継承するかたわら、生産者として数々の野菜を日々作り続ける渡戸さん。90歳になる渡戸さんのお元気な姿を見て、我々もその元気を分けてもらった取材でした。

サポーターの取材後記

草笛のけん

御年90歳の渡戸章さんのお人柄、全身から感ずるエネルギーやユーモアを交えた話術であっという間の取材時間でした。人が避けたがる農業や練馬大根作りに誇りを持ち、明るく前向きに仕事される渡戸さんから「元気」をいただき気持ち良い取材ができました。練馬大根にまつわるエピソードも面白かった。簡単にできると思った大根抜きの難しさも体験できて良かった。7cmも身長が縮んだと言われる渡戸さんが腰を落とし、ひょいと抜かれる姿に感動しました。「腹八分 くよくよするな 無理するな オシャレ忘れず 毎日働け」という知人の長寿訓を思い出しました。

とっとり君

練馬と言えば大根がすぐに思いつく。260年前の江戸時代から続く伝統を守られている渡戸さんからその歴史を聞いて、なるほどと思った。それにしては、「練馬」と置き換えると何故に「ダサい」というイメージに結びつくのか不思議でならない。大根が「大根足」とか「大根役者」を連想するからなのか。そんなことはどうでもよくて、「練馬」と「練馬大根」にもっと光を当てたいと、切に思う今日この頃である。

トマト

渡戸さんは6代目の農家で現在90歳。現在は少量多品目の野菜栽培で小松菜やキュウリなど40種類の野菜と練馬大根を栽培しています。練馬大根の復活プロジェクトにも関わり、現在も毎年作り続けています。練馬大根畑では近隣小学校の4校の子どもたちの収穫体験を受け入れ、また、練馬区立こどもの森では農園で子どもたちの農作業をサポートし、農業とのふれあい体験は子どもたちにとても人気のようです。
農業は職業なので、やるのは当たり前と言いながら、抜きにくい練馬大根をすっと抜いてしまう渡戸さん。また、話の合間に出てくる昔話など、ついつい引き込まれ夢中になってしまいます。生きているのは楽しい、ということを感じさせてくれる渡戸さん。願わくば私もそうなりたいですが、なかなか難しい…。どうぞいつまでもお元気で。


PDF形式のファイルを開くには、Adobe Acrobat Reader が必要です。お持ちでない方は、Adobe社から無償でダウンロードできます。