サポーター体験記294

人と猫が共生できるまちを目指す、練馬の「地域猫活動」

取材日令和5年6月27日
更新日令和5年8月25日

「地域猫」という言葉をご存知でしょうか。地域で管理されている、飼い主のいない猫のことです。野良猫によるさまざまな被害を地域の問題として解決するため、地域猫としてコントロールし、人との共生を目指していくのが「地域猫活動」です。練馬区と地域住民とボランティアの三者が協力して行っている、練馬の地域猫活動について、練馬区健康部生活衛生課とNPO法人ねりまねこの亀山さんにお話を伺いました。

練馬区健康部(練馬区保健所)/NPO法人ねりまねこ

※以下、文中敬称略。

練馬区健康部 生活衛生課 管理係 主任/罇 正弘(もたい まさひろ)さん・桑田 寿々(くわた すず)さん
NPO法人ねりまねこ 副理事長/亀山 嘉代(かめやま かよ)さん
NPO法人ねりまねこ ホームページ:https://nerimaneko.jimdofree.com/
NPO法人ねりまねこ ブログ:https://ameblo.jp/nerimaneko/

野良猫に対する苦情を、地域の問題として解決する

左から、NPO法人ねりまねこの亀山さん、生活衛生課の桑田さん、罇(もたい)さん

−−−練馬区で行っている「地域猫活動」とはどんな活動ですか。「保護猫活動」とは違うのでしょうか?

罇「飼い主のいない猫と人が共生できるまちづくりを目指し、行政・地域住民・ボランティアの三者が協力しながら、野良猫が増えないように管理していくのが地域猫活動です。一方、保護猫活動は、野良猫を保護して飼い主になってくれる人を探す保護譲渡活動のことを指します」

−−−地域猫活動は、具体的にはどのようなことをしているのですか?

罇「野良猫に関して、地域住民から『鳴き声や糞尿に悩まされている』『庭が荒らされる』『子猫を産んだ』といった苦情や相談が来たら、その都度対応しています。まずは住民の方にご協力いただきながら、どんな猫がどこにいるのか情報収集を行い、捕獲器を設置させてもらいます。猫を捕まえたら動物病院に連れて行き、去勢・不妊手術を施したら元の場所に戻してエサとトイレを適正に管理していきます。これをTNR(Trap・Neuter・Return=トラップ・ニューター・リターン)と言いますが、あくまでも、野良猫が原因で起こる地域の問題を解決するというスタンスの活動です」

亀山「手術後の猫は耳先をV字にカットしますので、見ればすぐに手術済みだとわかります」

サポーターによる取材の様子

練馬区の地域猫活動はスタートから14年

−−−さまざまな自治体で取り組んでいると思いますが、地域猫活動はいつ頃から始まったのですか?

亀山「野良猫はどれだけ殺処分してもキリがありません。次々と子どもを産み、 “殺す”だけの繰り返しが永遠に終わらない。これを何とかしたいと、今から20年ほど前、地域猫活動を提唱したのが、当時、横浜市の保健所の職員だった獣医師。これが日本で最初の地域猫活動と言われています」

−−−練馬区の地域猫活動の経緯を教えてください。

罇「練馬区で地域猫活動を開始したのは平成21年(2009年)6月。それまでは野良猫に関する苦情が1年に350〜400件ほどあり、多くの区民が野良猫に悩まされていました。平成19年(2007年)に公募区民や町会関係者、獣医師、大学教授などによる『練馬区飼い主のいない猫対策検討会』を数回開催し、事業要綱や活動の基本方針などを制定しました」

地域猫活動を支えるボランティア

ボランティア証を携行し、ビブス(左)や腕章を着けて活動しています

−−−実際に活動をしているのはどんな人なのですか?

罇「練馬区が認定する地域猫推進ボランティアの方々です。区のガイドラインに基づき、去勢・不妊手術を受けさせたり、トイレや餌場の管理、地域へのPRを行ったりします。1年ごとに更新する登録制で、現在の登録者数は200名ほど。担当地域はボランティアグループごとに限定されており、現在、区内の約170地域でそれぞれ活動しています」

−−−地域猫のボランティア活動として、練馬区ならではの特徴はありますか?

罇「ボランティアの活動範囲を明確に区切っていることです。ボランティアみんなで区内全域の猫問題に対処するのではなく、それぞれの居住エリアに合わせた担当地域を決め、その範囲だけの活動に限定しています。地域が限定細分化されていることで、ボランティア1人ひとりの負荷を軽くし、“猫の便利屋”にされることのないよう努めています」

亀山「自治体によっては地域猫活動を愛護団体に任せているところもありますが、練馬区は人口が多いですし、1つの団体で解決できるほど簡単なものではないんです。“地域の問題は地域住民で解決する”という考えが基本になっています」

練馬区の地域猫推進ボランティア連絡会の様子

−−−地域猫活動の成果は出ているのでしょうか?

罇「活動を始めてからの推移を見てみると、管理している地域猫の頭数は減り、清掃事務所で引き取る猫の路上死数は1/3ほどに減少。地域住民からの苦情も減っているので、成果が出ていると考えています。ボランティアによる継続的な活動のおかげです」

亀山「放し飼いから完全室内飼いにしたり、必ず去勢・不妊手術を受けさせたり、といった飼育者の意識の変化も大きいでしょうね。また、ボランティア登録をしていなくても、『自分で餌をやっている猫くらいは手術を受けさせよう』と実施している方も増えています。活動を始めた当初は、私たちがオピニオンリーダーとして頑張っていましたが、今では住民の皆さんが、地域の問題として徐々に活動するようになってきました」

野良猫の去勢・不妊手術の現実

区には貸出用の捕獲器があり、去勢・不妊手術をするためであれば誰でも無料で借りられるとのこと

−−−地域猫の去勢・不妊手術の費用はどうしているのですか?

罇「練馬区の助成や、野良猫で困っている地域の方々の寄付などでまかなっていますが、それだけではカバーできず、ボランティアが負担しているケースが多いのが実情です」

亀山「一般的にメス猫の不妊手術は1頭で3万円ほどかかりますが、区の助成は1万円。つまり2万円は持ち出しになる計算です。ただ、練馬区にある約90か所の動物病院のうち、区獣医師会加盟は34か所。獣医師会に加盟していないと助成は使えませんが、野良猫の去勢・不妊手術を低価格で実施している動物病院などを選んで費用を抑えています。また、チラシで手術費用の寄付を呼びかけたり、動物病院に募金箱を置かせていただいたりしています」

−−−動物病院の協力がもっと得られるとよいですね。

亀山「理想はそうですが、あまり儲けにならないのと衛生管理の問題とで、野良猫の去勢・不妊手術を積極的にやっていただける病院は少ないんです。さらに、1週間後に抜糸が必要な飼い猫の手術とは違い、野良猫のTNRのための手術は根本的に術式が違い、その技術を持った病院は限られているんです」

人間がいる限り、野良猫はいなくならない⁉︎

亀山さんは、地域猫活動の第一人者として区内外で活躍中

−−−地域猫活動を続けていれば、最終的に野良猫はゼロになるのでしょうか?

亀山「それはありません。これだけ減ってきてはいても、区内に猫はまだ何万匹もいるはず。人間がいる限り、残念ながら野良猫はいなくならないんです。飼っていた猫を捨てたり、飼い主が亡くなって猫が残されたり…、野良猫を供給しているのは人間ですから」

−−−猫に餌をやる人と、猫が嫌いな人はどこにでもいて、トラブルになりますよね。

亀山「どこの地域にも猫に餌をやる人たちはたくさんいます。でも、猫が嫌いな人は、野良猫問題の原因を『餌をやるのが悪い』と結びつけがち。それでトラブルになることが多いのですが、餌やりを責めるだけでは解決しません。そこで私たちボランティアが野良猫問題は地域の課題だということを説明し、人間関係がうまくいくように働きかけるのも大切な役割なんです」

−−−地域猫活動は、突き詰めていくと「人」の問題というような気がします…。

亀山「その通りです! 地域猫活動は、猫というより、むしろ人が相手のボランティア活動だと思っています。猫が飼えなくなった人は、捨てる前にボランティアに相談してくだされば一緒に解決方法を考えていきます。餌やりをしている人は、ぜひその地域のボランティアとつながり、地域猫活動にご協力ください」

地域の課題を共有すれば社会は変わるはず!

−−−亀山さんが地域猫のボランティア活動を始めたきっかけは?

亀山「自宅の庭で餌をやっていた野良猫が子猫を産んでしまって。子猫がこれ以上増えないようにという責任感から、平成22年(2010年)にボランティア登録しました。平成26年(2014年)に地域猫推進ボランティア10人でNPO法人ねりまねこを立ち上げ、地域猫活動のほか、区内外で普及活動や講演などを行っています。これまでに区内で捕獲した猫は2,000頭以上。そのうち800頭を譲渡しました。つまり、その数だけ地域から猫が消え、トラブルや苦情が減ったということです」

亀山さんが自宅で世話をしている保護猫たち

−−−ボランティアは猫の保護譲渡はしないのですか?

亀山「地域猫活動には保護譲渡活動は含まれていません。私の場合は、NPO法人ねりまねことして保護譲渡活動もしています。自宅で猫を保護し、ネットで里親を募集したり譲渡会を開催したりしています。ただし、もらわれやすいのは子猫だけ。野良猫の平均寿命は4〜5年ほどと短いですから、大人の野良猫は寿命を全うするまで地域猫として管理することになります」

シニア世代こそ地域猫活動に向いている⁉︎

−−−今回の取材で、地域猫活動に対する認識がずいぶん変わりました。

亀山「地域をよく知り、人生経験豊富でコミュニケーション能力が高いシニア世代は、地域猫活動のボランティアに向いていると思いますよ。実際に、多くのシニアの方々が地域でいきいきと活動しています。担当地域は、自宅周辺のワンブロックとか自宅の庭だけとか、無理のない範囲で設定できますので、気軽に始めてみてはいかがでしょうか」

他自治体の様々な野良猫対策の事例を学ぶ「猫のシンポジウム」がココネリで開催された時の様子

−−−保護猫の里親になるなど、高齢になってから猫を迎えることは可能でしょうか?

亀山「高齢と言っても、60~100歳までをひとくくりにはできませんし、体力、知力、健康、経済力、家族構成など個人差があります。飼育できる状況が整い、万が一の時にお子様や親族など引き取り手がいるのであれば、お迎えは可能だと思います。ただし、親子であっても事前に十分に話し合い、飼育費用を残すなどの備えはしておいてください」

−−−最後にメッセージをお願いします。

亀山「登録ボランティアは、地域の野良猫に関する相談窓口の役割を担っています。地域猫や地域猫活動について、何かあればいつでも相談に乗りますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。災害時ペット管理ボランティアも合わせて募集しています」

罇「練馬区の地域猫活動推進ボランティアは、2人以上のグループ単位で随時募集しています。申し込みは、生活衛生課管理係(電話:03-5984-2483)までご連絡ください」

サポーターの取材後記

野面

猫の飼育歴は40年ほど。しかし、野良猫の生活にそれほど深い関心はなく最初に飼った猫は自由に外と出入りをさせていた。人に束縛されない生き方を「野良猫のよう」などと言う。気ままな生き方が猫のいいところだと漠然と思っていた。「地域猫活動」という言葉を聞いた時、親がいない子猫を保護して飼い主を探してあげる「保護猫活動」との違いがピンとこなかった。お話を伺い、野良猫の被害に困っている人がいること、飼い猫に比べて野良猫の寿命が極端に短いことなど、生き物としての野良猫が厳しい環境にいることを改めて知った。そしてそれは不妊手術などきちんと面倒を見ない、簡単に猫を捨てる人が絶えない、多頭飼育崩壊など、私たち人間の都合であることも。ドキュメンタリー番組の『岩合光昭の世界ネコ歩き』で描かれた幸せな世界を、東京のような都会で実現するのは難しいのだろうか。

NOKKO

人間同様に動物も幸せに暮らせるよう、ボランティアで一生懸命頑張っている人たちがいます。私自身、娘の地域猫活動に協力しているので、自分のお金を使いながらこの活動をしている人たちがいることを見てきました。何とかしてあげられないかと、町会でそういうことができる立場になった時、町会でも去勢・不妊手術費用に少し補助をできないかと相談しました。しかし、犬猫が嫌いな人たちは「保健所がやるべきだ!」と主張し、なかなか理解を得られませんでした。丁寧に説明した結果、2年がかりで町会が半額負担することに決まりました。その間いつも力になってくれたのが、NPO法人ねりまねこの亀山さん夫妻です。まだまだ続く亀山さんの活動を応援したいと思います。身近な場所で皆が協力する気持ちがあれば、野良猫を減らすことができると伝えたいです。


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