ねりま演劇を観る会
※以下、文中敬称略。
会長/高橋 武比古さん
事務局長/平本 結花さん
所在地:練馬区豊玉上2-20-4 石原ビル201
電話:03-3948-2015
「ねりま演劇を観る会」は、会員制・サークル制の演劇鑑賞会です。練馬文化センターを会場(現在改装中のため光が丘IMAホールに変更)に、劇団を招いて年間6作品の観劇会を開いています。この会を立ち上げ、運営に専念してきた会長の高橋武比古さんと事務局長の平本結花さんに、演劇鑑賞会の歴史、活動内容、やりがいなどについて話を聞いてきました。
※以下、文中敬称略。
会長/高橋 武比古さん
事務局長/平本 結花さん
所在地:練馬区豊玉上2-20-4 石原ビル201
電話:03-3948-2015
高橋「劇団を練馬の会場に呼んできて、会員のみんなでお芝居を鑑賞する会です。私たちはそれを『例会』と呼んでいます。どなたでも(区外の方も)会員になれますが、3人以上でサークル(仲間)を作って入会する仕組みになっています」
ーーーサークルを作ってから、入会するんですね。
高橋「年間6回の例会があり、会員はすべてを観ることができます。観るだけでなく、例会を成功させるために、会員の手で運営も行います(サークル単位で年に1回)。活動内容は、会報の作品紹介の部分の作成、座席分け、舞台道具の搬入・搬出、受付など多岐に渡ります。劇団と一緒になって例会を作り上げる楽しさもあるんです!」
ーーー会費や仕組みについて教えてください。
高橋「入会金は1,000円で、会費は1人月額2,700円(高校生以下は月額1,000円)です。2か月に1回のペースで例会があります。今でいうサブスクリプションのイメージかも知れませんね。自分では選ばないようなジャンルや劇団も観ることができるので、『世界が広がった』『どれを観ても良かった!』などという声もあります」
ーーー練馬に発足した経緯は?
高橋「1980年代半ば、全国的に演劇鑑賞会を作ろうという動きが盛んになりました。1983年に練馬文化センターが完成し、練馬はここを会場にしようという話になりました。私は学生時代から演劇鑑賞会に参加していたこともあり、大学卒業時に声がかかり、1985年に『ねりま演劇を観る会』を立ち上げました。埼玉に住んでいたのですが、練馬に引っ越してきたのもその頃です」
ーーー当初、会員はどのくらいいましたか?
高橋「実際に会を作り上げたのは、練馬の地域の人たちです。最初に集まった会員の十数名が、それぞれ自分の周りの人たちに呼びかけてくれました。発足当時は、92のサークル・約600人の会員でスタートしました」
ーーー上演する劇団や作品はどうやって選んでいるのですか。
高橋「私たちと同じような演劇鑑賞会は、全国各地に約100団体あります。私たち練馬の場合、東京都と千葉県、埼玉の南部の演劇鑑賞会の9団体で『首都圏ブロック』を結成しています。会員の要望をもとに、それぞれの事務局長が話し合って上演作品を決めています。具体的には、首都圏を巡演できるか、同じようなジャンルに偏っていないかなど、バラエティーに富むように検討しています」
ーーー令和5年(2023年)の上演作品を教えてください。
平本「2月例会『ある八重子物語』(劇団民藝)、4月例会『ミュージカルO.G.』(劇団NLT)、6月例会『素劇楢山節考』(劇団1980)、8月例会『旅立つ家族』(劇団文化座)、10月例会『雉はじめて鳴く』(劇団俳優座)、11月例会『シェアの法則』(劇団青年座)です。現在、2年先くらいの2025年の上演作品について話し合いを進めているんですよ」
ーーーどんな方が会員になっていますか?
平本「3人以上のサークルで入会しますが、つながりはさまざまですね。家族だったり、職場の仲間だったり、幼馴染みだったり。父親の名前をサークル名にしている4人姉妹もいます。会員同士の交流もあります。年に1回、希望した例会に約20のサークルが集まって運営し、準備に2~3か月を要します。顔を合わせる頻度も多くなりますから、自然と交流が生まれます」
ーーー役者さんとの接点もあるのでしょうか。
高橋「そうですね。ある会員さんは、『さっきまでお芝居をしていた俳優さんたちが、舞台の片づけをしている姿にびっくりしました。劇団とはこういうことなんだと、身近に感じることができました。そんな接点もうれしいです』と話していました。演劇を深く味わう醍醐味かもしれませんね」
平本「劇団側も演劇鑑賞会側も手づくりの活動だから、得られる喜びがあります。接点でいえば、総会に劇団の方を招いた記念講演もあり、俳優さんと直接お話する機会は少なくないと思います」
ーーー設立して38年目、練馬の会の特徴はありますか。
高橋「演劇鑑賞会の仕組みは同じなので比べようがないですが、練馬は23区で初めてできたというのが特徴でしょうか。本来、演劇鑑賞会はお芝居をなかなか観ることができない地方に作り、横と連携して劇団の公演活動を支えるという考えがあります。練馬だと、新宿や池袋など都心へのアクセスもいいのでお芝居を観に行くことができますが、高齢者など簡単に行けない人たちも多くいます。地元でお芝居を観られるというのは大きなメリットです。どの会も会員の年齢層は高くなっていますが、練馬は地方の組織よりも年齢層が高いですね。9割以上が女性です」
ーーー演劇鑑賞会の思いとは?
「演劇鑑賞会の歴史は古く、戦後まもない時期にできました。当時の運動の中心は20代の若者。私たちは演劇を観たい、劇団はお芝居がしたい、そんな思いでつながっています。ひとつの演劇を製作するためには、膨大な時間と経費がかかります。演劇鑑賞会として付き合いのある劇団は、東京公演はほとんどが赤字。演劇鑑賞会のある地方公演をすることで維持できているといっても過言ではありません。演劇鑑賞会を維持していくことは、日本の演劇文化の発展とつながっています」
ーーーご苦労されていることはありますか?
高橋「十数年前より減少傾向にありますが、コロナ禍の影響もあり会員が大きく減ってしまいました。例会を実施するたびに赤字です。最盛期は、会員が3,000人いましたが、今は100サークル・会員数は800人。昼と夜の2ステージを以前の半分の人数で支えています。上演回数を減らせばいいという意見もありますが、昼しか観られない、夜しか観られないという会員もいて、これ以上減らすことはできません」
ーーー打開策は「新しい会員を増やす」ことに尽きるそうです。
ーーーお芝居を年間60本以上観るというお二人。高橋さんは38年間に渡り事務局長として専念してきましたが、令和5年(2023年)3月に退任し会長に。新事務局長に平本さんが着任し、世代交代を図り、会の維持・継続に向けて、全力を注いでいます。どのような背景でお二人はこの世界に入られたのでしょうか。
高橋「埼玉の奥地に住んでいたので、なかなかお芝居を観る機会はなかったですね。高校まではもっぱら映画でした。学生時代は歌舞伎や能などの古典芸能にのめりこみ、大学では演劇を専攻。友達から芝居に誘われたのがきっかけで、演劇鑑賞会に出会いました。この道に進んだのは『文化的な仕事をしたい』と自分の中で決めていたからだと思います」
平本「きっかけは、学生時代に音楽座という劇団の追っかけをしていたことです。練馬文化センターで上演する際に、仲間3人とサークルを作ってねりま演劇を観る会に入会しました(現在16名)。当時、バイト代のすべてはチケット代になっていましたね。劇団前進座の制作部に就職しましたが、2年もしないうちに、ねりまの事務局に入りました。音楽座に出会わなかったら、この仕事はしてないでしょうね」
ーーーやりがいや楽しさを感じるときは、どんなときですか?
平本「会に入って30年、一言で表すのは難しいですね。ただ、生きている限り会員でいたいと思うくらい楽しいですし、やりがいがあります。とはいえ、会員を増やすことは本当に大変なことです。『演劇を観て、人生が変わるかもしれないですよ!』と誘って、『そこまで言うなら』と入会してくれた人がいた時は、天にも昇る気持ちでした。月1回の会費納入は振込ではなく、あえて手渡しとしています。これは人と人とのつながりを大切にしている会の所以です。サークル代表の約100人が事務局に届けてくれるのですが、中には、認知症の夫を連れてくる代表の方もいたり、人それぞれに背景があります。そういう人たちに私たちの会が支えられ、私たちの活動が多くの劇団を支えていると思うと、先人たちは何て良い会を作ってくれたのだろうとしみじみ思います。いつまでも続けていきたいなと思います」
高橋「演劇には多様な価値観があります。演劇鑑賞会が選ぶ作品の中には、自分と同じ価値観のものもあれば、自分にないものもきっとあるでしょう。自分の価値観と異なるものを観たら、価値観のぶつかりあいとなる、人生が変わるきっかけになる可能性を秘めているのです」
お二人が話す「人生が変わる」という言葉がとても印象的でした。自宅近くの地元の会場で観劇できるということはとても贅沢なこと。この記事で、多くの人が演劇鑑賞会を知るきっかけになってくれたら嬉しいです!
NOKKO
私が会員になったのは、平成7年(1995年)からの会員手帳があるのですが、それよりも少し前だったかと思います。PTAの仲間でサークルを作りました。インタビューを通じて会長、事務局長の運営のご苦労がよくわかりました。演劇が大好きな方たちなので続けてこられているのだなと感じました。淡々とお話される中にその情熱を感じます。練馬の大切な文化活動だとも思います。私は、歌舞伎が大好きで今も毎月のように行っていますが、家の近くのホールでこんな演劇を観ることができることを知って、良かったと思っていますし、高齢になるとますますありがたさを感じます。この会の良さを知って、会員が増え続けていくことを祈らずにはいられません。
ミスターヒワダ
高橋さんの足掛け40年余りの活動に一片の悔いがないようでした。演劇への想いがひしひしと伝わってきました。会員がただ観るだけではなく、劇団員と一緒になって舞台を作り上げるという気概を感じました。皆、楽しんでやっているそうです。「演劇は人生」と言っていました。そんな演劇文化に貢献している姿に拍手を送りたいと思います。今後、多くの会員が入り、演劇の楽しさを知っていくことを願っています。