練馬区とアゴラ造園さんにインタビュー【ねりま農サポーターってどんな制度?】
―――まずは、制度発足のきっかけをお聞かせください。
天野「練馬区は23区で最大の農地面積が魅力の一つですが、農地は年々減少しており、これをいかに止めるかが課題です。農家さんは農業を続けたい意向がありながら、同時に人手不足で悩まれている場合が多いです。区として支援ができないか考え、援農ボランティア育成を目的とした『農の学校』を平成27年(2015年)に開校しました。初級・中級・上級コースがあり、初級コースを修了するとねりま農サポーターの認定を受けて、援農先での活動が始まるという流れです」
練馬区 都市農業担当部 都市農業課 農業振興係 天野陽平さん
―――どのように援農先に派遣されていくのですか?
天野「初級コース受講中にマッチングに関するアンケートに答えていただき、希望に添う農業者の元へ事務局スタッフが同行し、引き合わせを行います。その後、作業体験を経て、農家さんと農サポーターさんの合意が取れたらマッチングとなり、援農活動が開始します」
援農活動までの流れ(練馬区立農の学校HPより)
―――ねりま農サポーターの制度を実際に利用している農家さんはどのくらいいるのですか?
天野「区内400戸のうち54戸の農家さんが利用しています。もちろん、人手が足りている農家さんもいますが、まだまだ制度を知らない方も多いと思います。この制度を気軽に利用してもらえるように、周知していくことが課題だと思っています」
―――実際に活動している農サポーターさんは何人くらいいますか?
天野「令和4年度末で127名の方が認定を受けています。そのうち、実際に現在も活動をしている方は58名です」
―――農サポーターさんの数は増えているのですか?
天野「農の学校は毎年12月に初級コースの募集をしますが、年々申し込みは増えている状況です。昨年度は15名の定員に対し70名の応募がありました。選考は応募動機と抱負を作文に書いてもらうのですが、皆さん素晴らしいです。意欲がある方をお断りするのは、区として大変もったいないと感じています。しかし、限られた農の学校の敷地内では、今の定員が適正であるのも現状です。増枠については、引き続き課題として検討していきたいと思います」
―――援農が始まった後のフォローはどのようにされていますか?
天野「実際に農サポーターさんや農家さんと密に関わっているのが、農の学校の管理・運営を委託している石島さんをはじめとするアゴラ造園さんです。学校修了後も援農に関して相談ができる体制が整っています。課題と感じているのは、活動を休止した農サポーターさんへのフォローです。仕事や家庭、さまざまな事情でお休みされた方が、もう一度活動したいと思った時にアプローチする方法を考えていきたいと思います」
アゴラ造園株式会社(「練馬区立農の学校」運営受託) 石島大暉さん
―――利用している区内農業者さんからの反応はいかがですか?
石島「農の学校で基本的な農作業を学んだ方がボランティアしているので、農家さんも一から説明する必要がなく意思疎通がしやすいという声を聞いています。また、この制度は継続利用ができるので、年間の作業計画が組みやすいと好評です」
―――もっと制度を利用してもらうために、区として取り組んでいることはありますか?
天野「令和5年(2023年)3月20日から農の学校を一般公開し、区民の方が見学できるようになりました。農の学校についてアピールできるいい機会になったと思います。7月には収穫体験を、区民の方向けに計画中です。農の学校の定員の課題は引き続きありますが、まずは興味を持っていただくことが、農サポーターさんの増加、農家さんへの援農にもつながると思います」
―――「ねりま農サポーター」の制度は、練馬区独自で誕生したものだそう。さらなる発展を期待したいですね。次は、実際に制度を利用している農家さんのお話を伺います。
相田園芸 園主 相田光枝さんにインタビュー【継続して利用できる援農制度は心強い!】
―――相田園芸の栽培品目、面積、歴史をお聞かせください。
相田「歴史は定かではないですが400年ほど農家をやっています。当初はジャガイモやサツマイモを育てていて、この辺り一帯、富士街道までがうちの土地でした。少しずつ土地が減り、今の面積は50アール(5,000平方メートル)です。少量多品目で花と野菜を栽培して、JA直売所と庭先の無人販売に並べています」
相田園芸 園主 相田光枝さん
相田園芸では花と野菜を6:4の比率で栽培。無人販売所には花の苗も並びます
―――ねりま農サポーターの制度は何で知りましたか?
相田「練馬区の相談会に行った時に、80代の両親と私の3人で体力的に大変だと話すと、この制度を紹介されました。聞いてはいましたが、実際どういうものかは知らなかったので、パンフレットをいただいて申し込みました。区の紹介だから安心でしたし、紙1枚書いてFAXでの申し込みで手続きも簡単でした」
―――農サポーターさんには、具体的にどんな仕事を頼まれていますか?
相田「主に除草です。せっかく農の学校でいろんな勉強をなさっているのに、生かされてなくて申し訳ないですが…。除草しないことには、その後のことが進みません。あとは、ポットに土を入れて苗を移植することなどお願いしていますが、作業がとても丁寧でビックリします」
幼苗(左)と、ポットに移植された苗(右)
ハウス内で移植作業の様子
―――この制度がなかったら、やはり農業は大変ですか?
相田「高齢の家族やご近所の支援もありましたが、やはり限界があります。あとは地道に自分たちでやるしかないんですよね。農サポーターという安定した制度があると、とても心強いですね」
相田園芸の園主さんと農サポーターさんからは仲の良い様子が伝わってきます
ねりま農サポーターさんにインタビュー【暑い日も寒い日も、植物の成長が元気の源!】
―――農の学校に入った経緯を教えてください。
江藤「定年前の57歳の時、これまで自分が経験してこなかったことを勉強したいと思いました。それで、農の学校の存在をネットと区報で知ったんです。また、我が家では私が料理・買い物担当で、スーパーの産直野菜コーナーで美味しい野菜に出合っていたので、食や農業の分野に関わりたいという思いもあったのかもしれません。令和元年(2019年)初級コースをスタートして、1年通ったくらいでどのくらい農家さんのお役に立てるだろうと、不安がありました。2年後に上級コースを修了し、その後は学んだことを忘れないように体験農園で野菜作りをしています」
ねりま農サポーター 江藤誠司さん(農の学校5期生)
谷村「私は農の学校に入る前に、平成24年(2012年)から体験農園をやっていました。子どもが小さかったので食事に気を遣おうと思ったことがきっかけです。そのうち、農家さんの人手不足や、農地減少を目の当たりにして、何か役に立てることはあるかなと考えるようになりました。農業への転職も含めて調べている時に農の学校のホームページを見つけ、その第一歩として農サポーターになりました」
内田「私は昭和63年(1988年)に富山から東京に引っ越してきました。練馬は駅から徒歩圏内に畑や直売所があって、農家さんもいっぱいあって、いいところだな~と思いました。今年で15年目になる体験農園の園主さんのご家族が立て続けにお亡くなりになり、何かお手伝いをしたかったのですが、10年くらいの経験ではそんなにできることがなくて…。何か学べばできることがあるのではと思って調べていたときに、農の学校のホームページを見つけました。農サポーターになれば援農ができるというのを知って、即、申し込みました。初級コースが終わり、もうサポートに行けますよと言われた時は、すごくうれしかったですね。できれば近くが良かったので推薦をお願いしたら、相田園芸さんをご紹介いただきました」
ねりま農サポーター 内田雅子さん(農の学校4期生)
―――皆さんの相田園芸さんでの活動頻度は?
江藤「私は週に1回2時間程度。8月・1月はお休みです」
谷村「気遣っていただいて、暑い時と寒い時はお休みにしてくださっています。私は土曜が多いです」
内田「金曜か土曜の午後に伺って、たまに休みができると電話して伺っています」
谷村「急にポッと休みができると行くところもないし…で、来ちゃいますね(笑)」
除草作業中の江藤さん
―――農サポーターさん同士での作業はどのように進めているのですか?
谷村「除草については、畑に行くと今日はここからというのが一目瞭然で分かります」
江藤「ここで力尽きたな…ってね(笑)」
内田「まず『今日は何をしますか?』と指示を受けて、除草や植え替え、秋冬なら片付けなどに取り掛かります。3人一緒だった日は一気に片付きました! やることも多かったから本当によかった」
―――農サポーターさんも1人より2人、3人の方がより力が出ますね。
全員「俄然、そうです!」
農サポーターさんが3人で除草などを担当している畑
―――サポーターさんのやりがいは何ですか? また苦労はありますか?
江藤「除草は1人では完了しなくて、引き継ぎながらやるパターンが多いです。3人で1つの区画がきれいになって、そこで新たな野菜が成長していくのを見ると、うれしいなと感じます。困りごとは特にないですが、雨が続いてしばらく行けなかったりすると、申し訳ない気持ちと畑がどうなったか心配になります」
谷村「畑が除草されていくと作物が急に元気に見えたりして、気分爽快です。ただ、抜いてはいけないものを抜いてしまったり…。ご迷惑をおかけすることもあるのに相田さんが大らかに見守ってくださってありがたい限りです」
内田「ポットの植え替えは、農の学校で習っていなくて初めてでしたが、この小さな苗が売り物になるんだという緊張感はありました。それでも、学校で学んだことは大きかったです。土壌の管理や、農薬のこと、野菜の病気や虫の害など『農業』としての対応は、農サポーターとして自信を持って活動できていると実感しています」
―――これからも続けていきたいですか? また今後のアイデアはありますか?
江藤「体力の続く限りお手伝いしたいです。農サポーター同士の交流会に出ると、自分が援農先とサポーター仲間に恵まれているなと実感します。要望は、農の学校の同期や卒業生で、何か共同で取り組んでみたいです」
谷村「ずっと続けていきたいです。先日の農サポーター交流会では、サポーターさんは増えているのにマッチングが追いついていないということを聞きました。仲間同士では解決が難しいので、区の方も主導して改善していただければ。体験農園の仕組みも全国に波及させた練馬区はかっこいい! と思っているので期待しています」
内田「私も、相田さんが必要としてくださる限りは続けたいです。もうすぐ会社は定年ですが、仕事を続けられる限りは続けようと思います。今、ほとんど休みの日は畑にいますが、このライフスタイルをとても気に入っています」
取材場所は相田農園さんのハウス
植物に囲まれて、犬や鳥の鳴き声が聞こえるのどかな空間でした
―――始終笑いの絶えないチームワークばっちりの農サポーターの皆さん。農サポーターの活動の場として「休耕地状態の小学校の農園で、子どもたちに農作業の楽しさを伝えたい」という声もありました。次代を担う若者も巻き込んでいけたらいいですね。練馬の農業を愛するからこそ課題意識も浮かび上がり、そこに都市農業の希望を感じたインタビューでした。