サポーター体験記289

災害時の“トイレの備蓄”はできていますか?

取材日令和5年5月15日
更新日令和5年6月27日

日本各地で地震や水害などの自然災害が相次ぎ、今や、いつどこで被災しても不思議ではありません。災害に備え、水や食料の備蓄をしている人は多いと思いますが、トイレの問題もとっても重要なんです!
そこで、災害時のトイレ問題に取り組み、トイレの備えの啓発活動を行っている「日本トイレ研究所」の代表理事の加藤さんにお話を伺ってきました。

NPO法人日本トイレ研究所

※以下、文中敬称略。

代表理事/加藤 篤さん
所在地:港区新橋5-5-1 IMCビル新橋
URL:https://www.toilet.or.jp/

災害時に水洗トイレは使えなくなる!そのとき何が起こる?

日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さん

ーーー災害が起こった時、トイレについてどのような問題が起こるのでしょうか。
加藤 「まずは、停電や断水になったら水洗トイレは使えなくなるということを理解しておいてください。食料や飲料水は1日くらい我慢できますが、排泄は待ったなし。そのような状況下で起こるトイレ問題は、主に次の3つです」

(1)感染症のリスク
水で流すことができないトイレを不特定多数の人が使うことで、著しく不衛生なトイレになります。ドアノブ、カギ、便座、洗浄レバー、ペーパーホルダーなど、みんなが同じところに触れるので、接触感染を起こしやすくなるからです。

(2)日常と異なるトイレ環境から生じるリスク
普段使っているトイレと大きく環境が変わると、「汚い・臭い・暗い」といった不快感や、「エレベーターが使えないから階段を降りて仮設トイレに行けない」「避難所で夜中にトイレに行くと寝ている人に迷惑がかかる」などのストレスを感じるようになります。すると、トイレに行く回数を減らそうとして水分を摂らなくなり、脱水症状を引き起こし、場合によっては命にかかわることもあります。

(3)コミュニティの運営に悪影響をきたす
トイレが不衛生で心理的なストレスが続くと「どうでもいいや」という気持ちになり、集団生活のマナーやルールが守れなくなってきます。トイレをきれいに保てなくなると、避難所の運営もうまくいかなくなります。

取材の様子。熱心に質問を投げかけるサポーターのみなさん

携帯トイレはマストアイテム!

ーーー災害時のトイレにはいろいろな種類があるようですが、どんなものを備えておけばよいのでしょうか。
加藤 「災害用トイレには、携帯トイレ、簡易トイレ、仮設トイレ、マンホールトイレの4種類があります。このうち、各家庭で備えていただきたいのは、便器に取り付けて使うタイプの携帯トイレ。排泄物の大部分は水分なので、袋の中に入っている吸収シートや凝固剤で液体を安定化させます」

ーーー携帯トイレの使い方は?
加藤 「建物内にあるトイレを有効活用するためのものなので、屋外トイレに比べ、安全に使えるのがメリットです。便器の中にたまっている水で携帯トイレが濡れてしまうのを防ぐため、まず45リットル位のポリ袋を便器にかぶせてから、便座を下ろして携帯トイレを取り付けます。基本的に1回使うごとに携帯トイレを交換してください」

自宅のトイレを有効に使う「携帯トイレ」 日本トイレ研究所HPより

ーーー携帯トイレはどのくらい備蓄しておけばよいでしょうか?
加藤 「国の方針では最低3日分。推奨されているのは7日分です。トイレに行く回数は1日5回が目安と言われているので、3日分なら1人15個になります。災害時は、食料や水のこと、仕事やお金のこと、建物のことなど・・・考えなければならないことが多いので、せめてトイレくらいはストレスフリーであってほしいと思います。そのためにも、携帯トイレの備蓄は必須と言えます」

ーーー使用済みの携帯トイレはどのように処分すればよいのですか?
加藤 「ゴミ収集が再開するまで、使い終わった携帯トイレはそれぞれ保管しておく必要があります。一定の防臭効果はありますが、臭いは出ると思っておいた方がいいですね。ベランダや庭など生活空間でない場所に、蓋付きの容器に入れておくとよいでしょう」

ーーー携帯トイレはどこで買えますか?
加藤 「日用品が揃っている大型店舗やホームセンターなどのほか、ネットでも購入できます。日本トイレ研究所のホームページの『災害用トイレガイド』に携帯トイレの商品のラインナップを掲載しているので、参考にしてみてください」

災害用トイレの選択肢は多い方がいい

ーーーマンションの自治会でマンホールトイレが議題に上がったことがあるのですが、各家庭で携帯トイレを用意すれば必要ないのでしょうか?
加藤 「災害用マンホールの上に簡易的な便座やテントを設置して使用するマンホールトイレは、下水道に直接流せるというメリットがあります。ただ、災害用のトイレの選択肢はたくさんあった方がいい。携帯トイレを使い続ければゴミの量が増えるし、液状化などにより下水道が使用できない場合はマンホールトイレも使えません。例えば、日中はマンホールトイレを使い、夜は自宅で携帯トイレを使うというように、リスクを分散させて使うのがおすすめです」

マンホールトイレのイメージ。日本トイレ研究所HPより

ーーー仮設トイレはどうでしょうか?
加藤 「仮設トイレは、平常時でもイベントや建設現場などで使われており、社会的に馴染みのあるトイレですが、外部から運んできて設置しなくてはいけません。仮設トイレの手配をしたとしても、災害時はいつ届くかわかりませんので、トイレの種類ごとにメリットとデメリットを考え、うまく組み合わせることが大切です」

ーーー避難所のトイレに関して、高齢者や子ども、障がいのある方にはどう配慮すればよいでしょうか?
加藤 「トイレは非常にデリケートな問題なので、周りが思う以上に意思表示をしにくいことなんです。まずは、トイレで困っている人がいる、ということを認識しましょう。そして、自分の先入観や正解だと思うことを押し付けるのではなく、『どうしたらいいですか?』と聞くことが重要です。できれば男女ペアで対応するといいですね」

災害用トイレの重要性を周知するには?

ーーー災害時のトイレに関する危機意識や備蓄の重要性を周知するためにはどうしたらいいでしょうか?
加藤 「きっかけがないと、なかなか危機意識は持てないと思います。災害用トイレを『見たことがない』『使ったことがない』では、その重要性はわかりません。防災イベントに行ったり、被災者の実体験を聞いたりするといいと思います」

ーーー積極的に取り組んでいる自治体はありますか?
加藤 「宮城県東松島市では、東日本大震災以前からマンホールトイレを整備していました。被災時に使ってみると、風で飛ばされる・安心できない・使いづらいなど、様々な課題が見えてきました。その後、住民と行政が協力して改善を重ね、今では地域のお祭りや運動会などで、マンホールトイレを“普段使い”しているそうです」

フォーラムでの講演の様子

ーーー災害用トイレのイベントがあれば教えてください。
加藤 「2023年9月29日に宮城県東松島市で防災トイレのフォーラムを開催します。東日本大震災で一時700名もの被災者を受け入れた避難所の運営者が、運営で特に大変だったというトイレの対応について話をします。被災された方々の言葉は真実ですから、ぜひフォーラムにお越しください。災害用トイレに関心を持つ仲間を作って情報を共有し、地域に戻ったら周りの人たちに伝えてください。そうした地道な取り組みが、災害時のトイレの重要性を広める近道だと思います」

フォーラムでの講演の様子

地域を守るのはシニア世代!

ーーーシニア世代に向けてメッセージをお願いします。
加藤 「災害時に地域を支えるのは、実はシニア世代なんです。若い人たちは昼間、仕事や学校に行っていますが、シニア世代は日中地域にいますし、なにより地域をよく知っていますから。ぜひ災害時のトイレ問題について話し合う場を作り、若い人たちへ呼びかけてほしいと思います。普段から多世代で交流していれば、いざという時に連携できます。この取材をきっかけに、災害用トイレについて練馬区が23区で一番熱心な区になることを願っています」

サポーターの取材後記

Kooshoo

普段からなかなか口に出せないのが、トイレ問題。やはりちょっと言いにくい。その「トイレ」を研究しているNPO法人があるのだからやはり世界は広い。被災の際、水や食料なら1〜2日ぐらいなら死ぬことはないが、排泄は待ったなし。それほどトイレの必要性は切実である。トイレパニックに陥った場合、自分がどういう状態になるのか考えただけでも恐ろしい。今回の取材では、被災した時間帯が昼間なら労働力のある大人が地元にいないということに気づかされた。昼間、地元にいるのはシニアだけだ。日頃からそんなシニアが主導して、非常時(災害時)にどういう行動を取るべきか話し合っておくべきことが重要であることを知ったのは大きな収穫だった。

splash

日本トイレ研究所加藤代表から、お腹が空いていても1日くらいなら我慢できますが、トイレを1日中我慢することはできない、という箴言には愕然としました。
日常が非日常化する災害においてに、避難生活は、精神的にも体力的にも負担が強いられるため、食べること、排泄することなど、当たり前のことが普段以上に重要となります。とくに、子どもや女性、お年寄り、障がい者などの視点で、トイレのあり方を考えることが重要です。その理由は、彼らは周囲に気を使ってトイレの意志表示ができなくなるからです。
また、せっかく災害で助かった命が、窮屈な環境に長時間いることにより、エコノミークラス症候群などで再び命が危険な状態にさらされるという事実には驚きを禁じ得ません。
特に災害時には働き手が帰宅できない環境下において、長い間地域を支えてきた、地域を知っているシニアが果たす役割はたくさんあります。
今こそ、災害時において「はじめまして」がないように日頃より風通しの良い知り合いの輪を広げていくのが防災対策に通底する基本であることを再認識する必要があるでしょう。災害トイレの必要十分条件は、まずは地域内コミュニケーションの醸成であります。

プカプカ

自宅はもちろん外出先でも、あって当たり前のトイレが、もしも使えなかったら? トイレや排泄などの関連書籍がずらりと並ぶ本棚を背に、加藤代表理事は「(災害時に)食料は1日なくても我慢できるが、排泄は待ったなし」と。ではどんな備えをすればいいか。自宅のトイレを有効活用できる携帯トイレは「マストアイテム」とのこと。かくいう私も、何年か前に生協のチラシに出ていた「トイレスキュー」なる携帯トイレを購入したが、未だに箱を開けたこともない(反省)。日本トイレ研究所では東日本大震災でマンホールトイレを実際に使用した宮城県東松島市で「防災トイレフォーラム」を計画している。練馬区にもぜひ参加していただき、災害時のトイレ対策に役立ててほしい。


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