有限会社 川原製粉所
※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
※今回は特別に許可を得て見学させてもらっています。
取材ご担当:代表取締役/川原 渉さん
所在地:練馬区羽沢3−27−1
電話:03-3991-1365
URL:https://www.kawaharaseifun.jp
皆さん世代であれば「麦茶」は、夏の思い出の一ページに、
きっと存在していることでしょう。川原製粉所は、
昔ながらの砂釜製法(すながませいほう)で、麦を丁寧に焙煎し続けています。
この製法にこだわる理由や、新たな麦茶の需要を開拓するための
取り組みなど、麦茶への思いを代表に聞きました。
工場前にて記念撮影!麦茶を焙煎する懐かしいあの香りが、優しく立ち上ります
※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
※今回は特別に許可を得て見学させてもらっています。
取材ご担当:代表取締役/川原 渉さん
所在地:練馬区羽沢3−27−1
電話:03-3991-1365
URL:https://www.kawaharaseifun.jp
――川原製粉の麦茶について教えてください。この場所でこの規模で続けていることには理由があるのでしょうか?
川原 「高度成長期などでは、大手さんでも東京に工場があったところを、一様に地方に移転して大型化するという道を選んだ会社が多い中、うちは練馬区で継続しています。
私もこの工場へ入った当初は、地方への移転ということも考えましたけど、大量生産方式にしてしまうと、うちの“麦茶の味”が変わってしまいます。川原製粉の存在意義と言いますか、練馬で、この製法で作る麦茶に意味があるのかなと」
川原 「砂釜焙煎がうちの特徴的な焙煎方法なのですが、焙煎した麦を見てください。砂釜焙煎と、こちらがいわゆる大手さんがやられている熱風焙煎という形式ですね」
――(麦が)開いてないですね。熱風焙煎は随分小さいのですね。
川原 「そうですね。原料の麦の大きさは一緒なんです。うちの砂釜焙煎で煎ると砂から遠赤外線が出ますので、麦が爆ぜると言うのですが、簡単に言えば、麦が爆発して粒が大きくなるんです。それに対して熱風焙煎は、麦の大きさはそのままに、(焙煎することで)色だけ変化するという感じです。
麦が爆ぜることによって、表面積が増え、香りや甘みを引き出す焙煎方法が砂釜焙煎です。大きさは、そうですね。3倍ぐらいにはなっているかなと思います。熱風焙煎の方は割と均一に仕上がるのですが、砂釜焙煎は炒りムラが出ます。
実はこのムラも大事で、麦の色の薄い浅煎りの部分で甘みを出して、色の濃い部分で香りを出すのです。やはり大きな規模になっていくと、このやり方は燃料の効率も生産の効率も良くないです。この焙煎方法にこだわれるのが、川原製粉所の強みかなと思います」
――手間がかかりますから、燃料代やコストもかかりそうですね。
川原 「そうですね。どうしても強火で煎らないといけないですから、燃料代もかかります。ただ、それを販売価格にそのまま反映するかというと、麦茶って大体業界的には50個入って売価が(およそ)¥200くらいが相場なんですね。川原製粉の麦茶は、卸値がスーパーの小売値くらいですから、それでも割高かもしれませんね。
大手さんであれば、大量生産ができるので、価格競争力も強いです。スーパーのバイヤーさんは、うちの麦茶は『高い!』とおっしゃる所もある一方、セレクトショップさんなどでは、うちの“東京麦茶”を出荷していますが、『安い』とおっしゃってくださる所もあります。大量生産できない分、丁寧に作っていたり、効率は良くないですが、良い原料を使って美味しい麦茶を作っているという、うちならではの付加価値を強めて販売していければという感じですね」
――今度は原材料の麦について教えてください。こちらはやはり、東京の麦なのでしょうか?近郊の麦ですか?
川原 「実は東京の麦は量が少なく金額も高いので、東京で麦を作ることも考えてはいるのですが、メリットとの兼ね合いですね。価格が高くなったとしても、東京産の麦を使う価値が出るかどうかがポイントですね。
うちの麦茶の場合、原料は2種類あります。栽培時に農薬不使用の有機JASの麦、こちらは工場の認証の関係で栽培期間中農薬不使用の大麦となっていて、これが1種類です。もう1つが、普通の国産の大麦ですね。無農薬の方は、うちが直接農家さんと契約して1年分でどれくらい使うかの算出のもとに契約して仕入れています。国産の方は、“麦茶組合”というものがありまして、そこから一括で仕入れています。産地は前者が宮城・群馬・一部山梨、後者は基本、茨城と栃木、富山の一部、といったところでしょうか」
――二条大麦と六条大麦があるようですが、この違いはどういったものでしょうか?
川原 「一般的には、六条大麦の方が麦茶に向いていると言われています。二条大麦の方が、金額が若干安いです。ただ、味に関しては、やっぱり焙煎が一番大事ですから、そこまで大きな違いはないかなと、個人的には思います。
うちで使っているのは、基本的に六条大麦です。昔は二条大麦もやっていたのですが、最近は作っていませんので、今の時点で味にどれくらい差があるのか、明言できないですね」
――私が最初に川原製粉所を知ったのは、“ビール麦茶”というのをJAで見たからなんです。これは確か、二条大麦だったかと思います。
川原 「そうですね。もともとJAさんの方で、ビール用にたくさん栽培して、でもビールにはそこまで大量に使うわけでもなかったので、余りを麦茶にしてみようかな、と始めた商品です。このビール用の麦で作るビールが、練馬でも販売されている“金子ゴールデンビール”です。麦自体も希少なものですが、最初に依頼があったときと比較すると、麦茶として生産する量はかなり増えています」
――前後しましたが、川原製粉所の歴史的な経緯を教えてください。1940年の初代の方が、ここで麦茶の製造を始めたのはどういうきっかけなのですか?
川原 「創業当時、練馬区(当時は板橋区ですが)の、この辺は農家さんばかりでしたので、そこで取れた米とか麦の収穫物を加工する工場として創業しました。加工に加えて、創業当時から麦茶もやっていたようですよ。
麦茶の歴史は意外と古くて、平安時代から飲まれています。江戸時代は(そこに絵もありますが)今で言うところの喫茶店みたいな感じで“麦湯売り”のお姉さんがいて、流行っていたらしいですよ。この時代ですから、コーヒーとかが入ってくる前の話ですね」
――なるほど、その背景があって、大豆やきな粉などの加工もされているのですね。麦茶だけかと思っていました。
こちらは、随分前の代からずっと同じ業態なのでしょうか?
川原 「ひいおじいちゃんの時代から練馬です。本家は神田のようで、神田に川原商店と言うお菓子の原料を扱う店があって、こちらはその分家のようです。本家の方は、もう廃業してしまったようです。
お菓子の業界は分業制で、お菓子のタネを作る会社と焼くところ、あと味付けと、全部別なんです。うちもお菓子の原料加工を一部やっていますので、その意味では菓子種(カシダネ)屋という一面もありますね」
――渉さんが跡を継ぐのは、子どもの頃から決まっていたのでしょうか?また継ぐ時には迷われたりしましたか?
川原 「全く考えていませんでした。私は男3人兄弟の真ん中でしたが、父から『誰か継いでくれ』と言われたことはなかったですね。兄はとても頭脳明晰でしたので、無いなと。弟はかなり自由なタイプでしたので、もし継ぐなら自分かな、とは薄々思っていましたが(笑)。
私は普通に就職をしていまして、いざ継ぐにあたっては、当時の会社の上司など、いろいろな人に相談しました。その中で、これだけ製造する設備があって、川原製粉の麦茶を『美味しい』と言ってくれるお客さんがいる、その中でそれをやめてしまうのは勿体無いのかな、と思うようになりました。
当然、私が継いだ後もお客さんは時代時代によって変わっていきます。私が継いだ当初は、お茶屋さんがメインの顧客でした。町のお茶屋さんに麦茶を卸していたのですが、そのお茶屋さんも次第に後継者不足になっていきます。若い人はお茶屋さんでお茶を買うという習慣がもうないですからね。そんなわけでお茶屋さんがどんどん廃業していって、うちも卸先がどんどん減ってくる。その中でどうやって生き残っていくか?を考えた時に生まれたのが“東京麦茶”なんです」
――以前は「東京麦茶」と言うネーミングの商品はなかった、ということですか?
川原 「そうですね。当初は卸向けのプライベートブランドでした。卸先がそれぞれの名前で販売する商品で、加工者が川原製粉という位置付けでした。もちろん、一部製品もあったのですが、売上が落ち込んでいく中で、『しっかりしたものを作り、自ら発信していかないとダメだ』と思い立って東京麦茶が誕生しました。これが2016年ぐらいです」
――意外と最近なんですね!川原さんご自身が、何か新しいことをしよう、と企てていたのでしょうか?
川原 「私が会社に入ったのが2003年ぐらいです。当時はほぼ現場と事務仕事でした。
最初は、商品開発は頭になかったです。自社のホームページも全く手付かずで、ロゴもない。もうちょっとわかりやすい形で発信しながら、だんだんと自社商品を増やしていった感じです」
――今、砂釜製法で作っている麦茶というのは、一般に流通している麦茶の何%ぐらいなんでしょうか?
川原 「各社がどの焙煎方法で製造しているのかは、公表しているところとそうでないところがあります。あとは流通量ですが、大手のお茶メーカーが業界シェア何割だ、という話はありますが、正確な割合は把握するのが難しいと思います。ただ、割合は少ないと思いますが、砂釜製法を採用しているのは川原製粉だけではないですね。例えば江戸川区にも焙煎所があり、そこも砂釜製法なのですが、こちらの焙煎は色が薄めです。同じ砂釜でも各社煎り方を工夫していて、同じところはないと思います。お客さんの好みもありますしね」
川原 「この砂釜焙煎というのは、うちの場合は色が濃くなるように焙煎していますから、焦げないようにつきっきりになります。同じ温度で焙煎すればいいわけではなく、その日の気温ですとか麦の水分量によって、釜の出口で常に出来上がりの色を見ながら、コントロールしています。
色を調整する方法は釜に麦を入れる量と火の強さで変わります。麦をいっぱい入れると釜の温度が下がりますから、色が薄くなります。そうなったら入れる量を調整して、釜の温度を上げにいく。スイッチを押すだけで良い色の麦茶がいっぱいできるというわけではないですから、この辺が、非効率な面かもしれません」
――1回の焙煎時間は、大体決まっているのでしょうか?例えば10分とか20分とか。
川原 「うちの釜は連続式になりますので、入ってから出るまでは時間が一緒です。一次焙煎の釜で大体30秒、二次焙煎の大きい釜で1分半くらいでしょうか。そのわずかな間で麦茶の色が決まってしまいます。ですからつきっきりで見てあげないといけないのです。
最初に入れたものが出て、次から次へと自動的に入るような仕組みですから、1回火を点けたらもう止めないで作業を行います。大手さんの熱風焙煎はバッチ式と言いまして、例えば1ロット500kgとかを低温の熱風で比較的時間をかけてムラなく焙煎し、それを日に何回も行い、大量に作っています」
――好みはありますが、味に差が出そうですね。ところで麦茶が美味しい季節というのはあるのでしょうか?
川原 「うーん、やっぱり飲まれる方が、汗をかいた量に比例すると思います。汗をかいた後ですと麦茶は格別に美味しくなると思います。麦茶自体ノンカフェイン飲料で、昨今の健康ブームもあり、昔よりも格段に需要が高まっています。それもあって、冬でもホットの麦茶が安定的に飲まれるようになってきています。最近ではラテにするレシピもあるようで、ますます広がりを見せています。ただ、冬場はハーブティーや健康茶など多くの選択肢がある中で、どうやって麦茶を選んでもらうのかが、これからの課題ですね」
――新しい売り方などで、何か戦略はあるのでしょうか?
川原 「コロナ禍でお菓子の原料としての売上はかなり落ち込みました。そんな中、とあるニュース番組で取材をしていただいたところ、他局からも取材の依頼が増えました。宣伝の絶好のチャンスですから、こういったオファーは基本的に受けるようにしています。テレビなどを観れば、当然サイトやSNSを見にきてくれる方も増えますので、メディアはうまく活用していきたいですね。
その中で、“もっと買いたくなる商品”の開発の必要性も感じています。現在うちでは業務用の割合がかなり高いです。また半製品といって、例えば豆屋さんやデパートに加工品の状態で納品して、最終的な味付けやパッケージングはそちらで行うといった製品も多いです。これを、最終加工までこちらで行い販売するような製品を考えています。 また最近では雑穀なども人気がありますので、これらも取り扱いを拡充できればと考えています」
――麦茶の決め手はやっぱり焙煎だそう。本来は、粒のものを煮出して冷ますと、より美味しい麦茶が家庭でも楽しめるそうです。ただ、粗熱をとる手間が発生しますので、忙しいご家庭では難しいのかもしれません。川原製粉では手軽に、より美味しくなるように、パックの麦茶でも粗挽きを入れるなどし、工夫を凝らしているとのこと。
この夏は、じっくりと手間をかけた麦茶を飲んでみたくなりました。
みゅうにゃん
自宅近くで見つけた「東京麦茶」。何だろう?と思い購入してみました。実際に飲んでみて香ばしくコクのある美味しい麦茶に驚きました。そして、その原点を深く知りたいと思い、今回の取材に至りました。
麦茶の歴史は古く、平安時代から貴族の間で飲用されていて、江戸時代では屋台で「麦湯売り」が流行するなど、長期にわたり親しまれた飲み物です。取材させていただいた川原製作所では、砂釜焙煎という熟練の技が必要な製法で一次焙煎と二次焙煎を行い、手間暇かけて出来上がった麦茶を練馬区で作られていることや、その「東京麦茶」が日本国内は元より台湾や一部フランスでも扱われていることに驚きました。練馬発「東京麦茶」!の今後が楽しみです!
たてみーな
作業場の開口部は大きく開かれています。内部には、高い天井まで縦横に張り巡らされたパイプがあり、焙煎用の、トンネルのような釜や選別機など様々な機械や道具があり、まさに昭和の作業場の雰囲気でした。焙煎の工程を見せていただきました。麦を手のひらにのせてみると、小指の爪大の薄黄色い普通の麦の粒です。これが、2段階の釜を通過して出てきた時には、きれいなこげ茶色の濃淡に変わり、はぜてふっくらとふくらんでいたのには驚きました。この間、たったの数分です。この砂釜製法だと、その日の天気や気温によって仕上がりが変わるので、熟練した人が焼成温度とはぜ具合を見ていなくてはならず大量生産はできないとのこと、大いに納得しました。
今まで、麦茶の味や香りの違いに気が付かなかったのですが、これからはおいしい麦茶を入れて飲みたいです。麦茶を入れるときは粉より豆のものを少し煮だした方がおいしいとのことで、ひと手間かける心の余裕を持ちたいと思います。世界に羽ばたく「東京麦茶」がこの練馬区にあることを誇らしく思い、応援したいと思います。