サポーター体験記285

みどりあふれる練馬の環境を支える、「練馬みどりの葉っぴい基金」

取材日令和5年2月22日
更新日令和5年4月25日

みどりあふれる練馬の環境を支える、「練馬みどりの葉っぴい基金」
春を待つみどりが芽吹き始める季節に、
牧野記念庭園にて取材を行いました
練馬区は23区の中でもみどりが多く、
みどりあふれる憩いの環境があちこちに広がっています。このみどりの保全は
豊かな自然の環境面だけでなく、私たちの暮らしの潤いという面でも
とても重要なものです。今回は、そんな練馬のみどりを守る、練馬みどりの葉っぴい基金に
ついての取材です。
基金のプロジェクトで、牧野記念庭園のコンテンツ作りも必見です。

春を待つみどりが芽吹き始める季節に、 牧野記念庭園にて取材を行いました

練馬区環境部 みどり推進課

※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。

協働係/齊藤 巧さん、桑田 寿々さん
施設係/平田 彩さん
練馬区立牧野記念庭園
学芸員・博士/伊藤 千恵さん
学芸員/牧野 由美子さん
所在地:練馬区豊玉北6−12−1
電話:03−3993−1111(代表)
URL:https://www.happykikin.com/

練馬みどりの葉っぴい基金はみなさんの善意!練馬区のここに使われています

――練馬みどりの葉っぴい基金の設立の経緯と、今までの取り組みについて教えてください。

みどり推進課/協働係の齊藤さん、
基金について詳しく教えていただきます

齊藤 「練馬みどりの葉っぴい基金は、練馬区のみどりを皆さんと守り育て、次の世代に引き継いでいくために、平成16年10月に、区の条例によって設置した基金です。この名称は愛称で、正式名称は“練馬区みどりを育む基金”と言います。
これまでの取り組みですが、平成28年度には、希少なカタクリの大群生地であります、“清水山の森”の取得に活用させていただきました。令和2年度には光が丘にあります、“四季の香ローズガーデン”のバラやハーブの植栽に、令和3年度には“中里郷土の森”に様々な生き物を呼ぶためのビオトープ池を設置したり、標本箱など学習棟内の展示の充実に活用させていただきました。
令和2年の9月には、公式ホームページを制作し、寄付の状況や寄付金の詳細な使い道について紹介しています。また、年に1度、寄付状況や活用方法などについてお知らせするニュースレターを発行しており、基金に寄付いただいた方々に送付して、周知やP Rも行っているんですよ」


――清水山の森の取得は2億円とのことですが、寄付金が貯まっていた、ということなのですか?

桑田 「平成16年から積立をしています。清水山の森の土地の取得に使わせていただきましたので、金額が大きくなっています」

齊藤 「様々な用途で基金を使用しているのですが、令和4年度は牧野博士の書斎の再現プロジェクトを立ち上げました。こちらに寄付いただいた方の特典として、一般公開前の書斎の見学会にご招待する予定です。
別の基金コース“(仮称)農の風景公園プロジェクト”についても3月に開園が予定されておりまして、こちらは公園で使用するトラクターの調達資金に充てる予定です。特典は、公園で実施する農業体験イベントへのご招待となっております
(※いずれも2/22の取材時情報)」
※「(仮称)農の風景公園」の、正式名称が「高松みらいのはたけ」に決まり、3月20日(月)にオープンしました。


――それぞれのプロジェクトで設定した目標は達成している状況なのでしょうか?

齊藤 「おかげさまで牧野記念庭園の書斎再現プロジェクトは500万円の目標を達成しました。(仮称)農の風景公園プロジェクトも地域ゆかりの団体さんや町会さんなどたくさんの方から寄付をいただいています」

同じく桑田さん、基金が有効に活用できるよう
ルールの見直しから取り組んだのだそう

桑田 「令和元年度に基金の仕組み自体を見直して『比較的短期間で寄付金を集め、かつ成果がわかりやすく目に見えるように』しました。そのため、ローズガーデンや牧野記念庭園などの取り組みに、すぐに使えるようになりました。やはり寄付をしていただいた皆さんとしては、ずっと積み立てておくより、何かの形で有効に使われた方が嬉しい、という声が多かったものですので。
区の内部でも、皆さんからの好意をなんとか早く形にしたい、という機運があったと聞いています」

区を横断し、一丸となってみどりの保全に取り組む

――日本全体で考えますと、当然地方などでは、東京よりも自然が豊かなところが多いです。練馬区は東京23区だから、都心であるから、より『みどりを大切に』ということになったのでしょうか?東京以外でもこういった自然環境を保護するような基金はあるものなのでしょうか?


桑田 「23区でも他にみどりの基金を持っているところはありますが、ご存知のとおり練馬区の緑被率は22%以上と高く、23区でもトップクラスとなっています。みどりの保全や保護という本来の目的はもちろんありますが、この基金があることで、区民の皆さんがみどりにより興味を持っていただけるように運用している、という側面もあります。

この“みどり”というのは樹木だけではなく、あらゆる草花や畑の作物、場合によっては川や水辺なども含めた大きな意味合いで捉えていただけると嬉しいです。書斎再現なども直接的なみどりではないですが、みどりを愛する気持ちや育む心も含んでいます」


平田 「中里郷土の森でも、多様な生き物をよび込む環境整備のために基金を活用して、ビオトープ池を設置しました。様々な生き物が観察できますので、環境全体に対する取り組み、という捉え方の方が適切かもしれませんね」

基金は様々な形で活かされているが、いずれも
練馬区のみどりの環境整備に役立っている

――都市農業課が管轄の事業の一部を、こちらの基金でもサポートする、という取り組みなのですね!私がこの基金を知ったのも都市農業課が主催する「農の学校」の講義でしたから、まさに区が一丸となって連携しているのですね。

サポーターが基金を知ったのは農業の入り口から、
みどりの取り組みは繋がっているんですね!

練馬区のみどりが減少している?!区民の憩いのためにも整備が重要

――寄付をされる方はどんな方が多いのでしょうか?個人・団体など、教えてください。

齊藤 「件数としては、個人の方が多いですね。ただ、個人の方だけでなく、団体や民間の企業、また例えば今回の牧野博士の書斎再現プロジェクトでは、博士の出身地である高知県の皆さんからも寄付をいただいています。寄付をされる皆さんは、みどりの保全全般に対してご興味がある方が多いようです」

練馬のみどりを取り巻く環境は、私たちの日々の
暮らしの大切な憩いの一つ。疑問を尋ねます

――次に、練馬区のみどりに関する実態について教えてください。

齊藤 「令和3年度に練馬区のみどりの実態調査を行いました。その結果、緑被率は22.6%で、その前に調査した時よりも減少していました。また、同時に行ったアンケート調査では、区民の皆さんのみどりに関する評価やご意見を伺っております。その中で『みどりを守り、育てるために必要な取り組みについて』聞いている項目があり、6割以上の方が公園や緑地のさらなる整備を望んでいることが分かりました。


――すみません、今更なのですが、「緑被率」とはどういったものなのでしょうか?

桑田 「緑被率とは、簡単に言えば、上空から見た時に地上がどのくらい緑に覆われているかを数値化したものです。航空写真などで判定します。もちろん、民有地もカウントしています。空き地や社寺、学校のみどりもカウントされていますよ。練馬区は宅地の面積も比較的大きいので、割合としては、宅地のみどりの比率が高くなっています。この宅地などの民有地のみどりが年々減少していることが、全体の減少の要因の一つであると考えられます」

いよいよ公開!牧野記念庭園のプロジェクト。そのこだわりとは?

――牧野博士の書斎再現プロジェクトについてですが、始めるきっかけや、開始時期、再現の方法やどれくらいの人数が関わっているのか?などを教えてください。

伊藤 「元々は、牧野富太郎生誕160周年事業の中で行なっていました。牧野博士が住んでいた邸宅には4万5千冊以上の本があり、植物の研究に対する情熱が詰まった場所で、その本は高知県の牧野植物園に寄贈され、書斎と書庫だけが庭園に残る形となりました。
2010年から私たち学芸員が運営に携わり、お客様と接する中で『意外とガランとしたところに博士は住んでいたんですね』『さっぱりしているわね、綺麗な場所だったんですね』などの声をいただくことがこれまで多かったです。中には、この場所をリニューアル前から知っている方もいらして『昔はもっといっぱい本があったわよね?』とも言われました。皆さんに博士の情熱が正しく伝わらず、誤解を招くことに繋がっているのでは、という懸念があり、書斎をより正確に再現できたら、という思いを共有して、練馬区のみどり推進課が事業化することになりました」

牧野記念庭園の牧野さん(左)と伊藤さん(右)。
書斎再現プロジェクトの立役者です

牧野 「昨年の4月24日でちょうど160年でしたので、その記念事業の一つとして、本年度の実施となりました。ですので、実際に動き出したのは昨年からになりますね。ちなみに牧野博士が朝ドラの主人公のモデルになると発表される前から再現プロジェクトは動いていました。色々な方面から牧野博士への関心が高まっていたのかもしれません。
この記念庭園は、もともと愛してくださる方もたくさんいらっしゃって、そのネットワークもあります。ボランティアに60名以上もの方にご登録いただいていて様々な関わり方でご支援いただいております」

――こちらの庭園は入場が無料ですが、どのように維持しているのでしょうか?

牧野 「牧野記念庭園は公園という位置付けですので、ローズガーデンや他の公園と同じように無料となっております。清掃はシルバー人材センターにお願いしています。ボランティアさんは、企画展の開催時の運営補助や落ち葉の時期には落ち葉掃きをしていただいたりと、いくつかの関わり方をご用意しておりまして、都度、母体となるおよそ60名の方にご連絡をし、挙手制でご協力いただいています。書斎の再現プロジェクトでも、本や書斎と書庫のクリーニングなどにご協力いただきました。皆さんには楽しみながら進んで取り組んでいただいていて、スタッフ一同本当に感謝しております。このボランティアの仕組みも2010年のリニューアルをきっかけに誕生したんですよ」


――なるほど。だいたいわかりました。では具体的な再現方法やプロジェクトに関わっている人数について教えてください。

伊藤 「デザイナーの里見さんは高知の方でして、高知県立牧野植物園の元職員で長く牧野博士の顕彰に関わり、今も高知で、奥様とお二人で『里見デザイン室』を主催されています。牧野博士の本は、全て高知県の牧野植物園に寄贈していますので、その本の実物を撮影したり、そこから手描きのものを制作していただいたりしています。博士の机の周りにある道具類なども、当時の様子を知るひ孫の牧野一浡(かずおき)さんと一緒に、全面的に里見デザイン室でプロデュースしていただきました。高知のスタッフは2名、こちらでは4名のスタッフが頻繁に会議や会話を行うことで、本や道具を見直しました。

他には、残されている沢山の写真の中からも情報を集めて確認し、『ここにはこのようなものが必要ではないか?』などアイデアを膨らませて、皆で協議しながら決めていきました」

こちらが完成イメージ図(取材時)
書斎は本に埋もれている状況です!
本は、高知から平らな状態で送られてきて、ボランティアの
みなさんと一緒に折って立体化したそうです

――ものすごい量が再現されているのですが、変な話、地震があったら崩れてしまいそうです。見えないところで接着していたり、固定していたりするのでしょうか?


牧野 「まず建物は正真正銘、博士の書斎の本物です。本に関しては、ご指摘のとおり安全面も考慮して考えています。全てを実物にすると相当な重量にもなりますので、そこは里見さんが工夫してくださり、実物そっくりの本をゼロから再現しています。ただ全てレプリカですとそれも不自然になりますので、本物を混ぜながら、微妙なバランスを調節しつつ、再現しています。なお、建物の耐震強度に関しては、最初に専門家の方にきちんと診ていただていますので、ご安心ください」

――牧野博士の書斎は、4月3日より常設として一般公開しています。大量の本や道具を揃えることは膨大な時間と手間を要したそうですが、関わったみなさんは全員ワクワクしていたそうです。全ての道具類をあらゆる手段で集め、実際に牧野博士を見ていたひ孫の牧野一浡さんの記憶も総動員して再現されています。

皆さん、ぜひ牧野記念庭園にお出かけください!

正面から入り書斎の手前にある石碑には、博士の
「花在れバこそ吾れも在り」の言葉が刻まれています

サポーターの取材後記

トマト

練馬みどりの葉っぴい基金は、みどりの保護と回復を目的として設置された基金で、これまでもカタクリの大群生地である清水山の森の取得や四季の香ローズガーデンの植栽費用などに活用されています。
今回この基金で、日本の植物分類学の父といわれる牧野富太郎氏の書斎が再現されることは、生前の彼の息吹を身近に感じられるとともに、彼が生涯研究を続けた植物への思いが伝わるものと思われます。
私は仕事や趣味で野菜に関わることが多く、野菜は植物であるのと同時に、牧野博士の指示により収集・保存された野菜のタネが現在まで引き継がれていることから、彼に興味を持ち、4月からの彼を主人公のモデルとするテレビドラマ「らんまん」を楽しみにしています。多くの人が、テレビドラマと書斎再現で牧野博士と植物を身近に感じ、引いてはそれがみどりを大切にすることにつながればいいなと思っています。

みかちゃん

地球の温暖化は世界のいたるところに影響が出ていることは皆周知の通りで、例えば、気候変動による水位の上昇が陸地の減少につながったり、洪水や干ばつの被害を受けているところもあります。
さて、話は変わり、大河ドラマ「どうする家康」は大変好調にスタートし、今後がますます楽しみですが、この家康は1590年に秀吉から、当時荒涼の地であった”武蔵野の国(関八州)”を与えられ、江戸の街づくりに腐心。今日の世界の大都市”東京の礎をつくりました。しかし、最近では人口1000万を超える、東京への一極集中はまだまだ続いており、そんな近代化は”みどり”を減少させてしまいつつあります。
わが練馬区は都内23区では”みどり”の多い区の一つです。しかし世界の温暖化対策は、いまや東京も待ったなし。水とみどりゆたかな練馬区に負わされた役割は、ますます重く、重要なものになっているのではないでしょうか?
そんな状況の中設立された「練馬みどりの葉っぴい基金」。令和4年度も複数の基金プロジェクトが進められておりますが、「牧野記念庭園書斎再現プロジェクト」も着々と進められており、完成が楽しみです。4月スタートの朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルとして、日本の植物分類学の父として世界に誇る「牧野富太郎博士」が登場します。練馬区と練馬みどりの葉っぴい基金を知ってもらうチャンスかもしれません。博士の生誕地、高知県佐川町と手を取り合って「みどり豊かな練馬」を作っていけたらいいなあと思いました。


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