サポーター体験記
280
オープンな自治会を目指す桜台の挑戦 会員同士の絆を深め、「安全・安心な文化の香りのする街」づくりを!
- 取材日
- 令和5年1月13日
- 更新日
地域に、長く住んでいると、地域の人達が助け合う「地域コミュニティ」の低下を、ご近所の付き合いだけでなく、町そのものの雰囲気の変化に気付かされます。今、“開かれた自治会”として地域に根付いた新しい自治会活動に取り組んでいる桜台自治会です。
その運営を手掛ける自治会長に活動や思いを取材してみました。
桜台自治会
※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:会長/林 文夫さん、図書係/阿部 薫さん
所在地:東京都練馬区桜台4−39−12
電話:03−3991−9175
URL:http://www.sakuradai-jichikai.com/
70歳を過ぎて、未経験分野や会長にチャレンジ!
――まず、会員の活動について教えてください。林さんは、自治会の活動の全体を見ているのですか?

林 「そうです。会長兼、総務部長兼、雑用係です(笑)。『会長、壁の時計の時間が狂っていますよ』なんて頼まれることも。私は平成29年、30年と会長の代行をしていましたので、実質6年前から携わっていますね。正式に会長になったのは、令和元年です。それまでは正直、自治会はできる人がやればいい、という考えでしたから、まさか自分がやることになるとは思いませんでした。
この自治会では15のサークルがあります。囲碁・将棋、健康麻雀、卓球、カラオケ、映画を楽しむ会に書道教室、ウォーキング、折り紙、俳句、布絵、ヨガなどですね。私は囲碁将棋クラブと卓球クラブに参加しています。
両方とも70歳になるまで未経験でした。ここ最近はコロナの影響でうまく開催できていませんが、活発な時は卓球大会に70名を超える参加者が集まったこともありました。もちろん、全員桜台エリアからの参加です。
サークルの会員は、多いもので32名、少ないものでは4名という状況ですが、やはりコロナの影響で現在は半分〜3割程度の参加人数になっていますね」
――それでも盛況ですね!活動の周知はどのように行なっているのでしょうか?
林 「この自治会館の前にも掲示板がありますが、自治会内に21箇所の掲載場所があります。まずそこに告知を貼ります。意外と皆さん、見てくれるものなんです。他には区の掲示板が9箇所、それから協力掲示板と言いまして、自治会の持ち物なのですが、区の掲示物を優先的に貼りますよ、というものが7箇所あります。他の自治会に比べると、たくさん保有していると思います。掲示板は担当の係がいまして、順番や貼り方にこだわって情報を掲出しているようですよ。勿論、回覧板も積極的に活用していますね。」

――私も参加しましたが、映画を楽しむ会はサークル活動なのでしょうか?
林 「一応そうなっていますが、オープンにしており、場所代だけでどなたでも参加可能です。映画も人気がありますが、ウォーキングも結構人気があって、多い時には70名くらい集まりましたよ。桜台自治会エリアの北の方に“臨済宗の廣徳寺”というお寺があるのですが、大名家の墓地があり歴史的に著名な人の墓地が多いため、割と人気があるんですよ。例えば剣法の将軍指南役 柳生宗矩、十兵衛父子、将軍家茶道指南役 小堀遠州、織田信長の次男の織田信雄、文禄・慶長の役で活躍したで立花宗茂、会津藩主松平氏、阿波藩蜂須賀氏等ですとか。以前は一般の立ち入りが禁止だったのですが、前の住職に相談したところ、『自治会の皆さんであれば』と許可をもらえましてね。それで見学会を催したら大人数の自治会が見学に訪れました。(現在は休止中とのこと)」
※美しい廣徳寺の写真は、ホームページの「桜台さんぽ道」をご参照ください。
https://www.sakuradai-jichikai.com/
信頼関係で成り立つ、地域の書棚
――さくら文庫の貸し出し状況はどのような感じですか?
林 「毎週4〜5名の利用でしょうか。まだあまり浸透はしていませんね。借りるのはとても簡単です。毎週水曜日、自治会館が開放されていますから、13時〜17時の間に来て頂くか、自治会館がイベントで開館しているときに、ノートに記入してもらうだけです。閲覧や返却もこの時間に沿ってお願いしています。毎水曜日は阿部さんがいますから、対応してくれます。戻す時はポストに返却で大丈夫です。とても緩い運用ルールですが、今のところ紛失などの事故は一度もありません。全て、信頼関係で成り立っています。最近、ホームページで蔵書の検索ができるようにしました」
※さくら文庫の蔵書検索ページはこちら。
https://private.calil.jp/gk-2004007-v908i/
(ホームページのさくら文庫のページから検索できます)
――しかしすごい量の本ですね!こちらはいつ頃からあるのでしょうか?


阿部 「昨年の4月から本の貸し出しを始めました。私が管理しています。もともと自治会の卓球教室に顔を出していたのですが、その時に会長に声をかけられました。本を利用される方は、やはり本好きの方が多いですから、自然とメンバーが固定化されますね。ちゃんと予算がありますから、“今月のおすすめコーナー”などを作って、自分が読みたい本を勧めたり、いつも中身が入れ替わるように工夫をしています。
ただ、『地域の皆さんから寄付された自治会の図書コーナーですから、そこまで量はないだろう』と思っていたら、古典の専門書なんかも全巻寄贈されたり、意外とたくさんの寄付が集まって、整理するのが大変です。(笑)」

林 「まだ奥の部屋にも整理できていない本がありますからね。相当な量です。ちなみに読まれなくなった古書は処分するのではなく、東南アジアの子供達を支援しているNPOから寄付を依頼されていますので、そちらに渡しています。それでも引き取られない場合は、こちらでリサイクルに出しています。」
小さな工夫で大きな成果に!古紙回収量を増加させる方法は?
阿部 「実は私はこの辺が地元でして、祖母の代の大正15年から桜台にいますが、そこから比べても随分と“開かれた自治会”になって来ている印象は、自分でも感じます。確かに以前は特定の方が集まっていて、年会費も何にどう使われているかわからないような印象でしたね」
林 「そうですよね。私も最初はそんな感じでした。自治会の運営に携わるようになり、色々と調べてみたところ、桜台エリアの人口は増えているのに、自治会員は減っていることがわかりました。ピーク時は2000世帯ほどいましたが、いっときには1400世帯を切ってしまいました。一つの要因としては、昔からここに居た方が、良い意味でも悪い意味でも『自分たちの自治会だ』という意識があったため、閉鎖的な側面がありました。今や90%以上が別の土地から来た方で住民が構成されています。このままではいけないと思い、立て直しを始めたのです。
サークルを立ち上げたのも、自治会への参加のハードルを下げるためです。最初の立ち上げはお金もかかりますから、区の補助金制度も上手に利用するなどしました。徐々に映画や文庫といった活動を広げていき、自治会員や役員でなくても気軽に参加できることを増やしていくと、色んな人が集まってくるようになったんです。今では会員世帯数も1700くらいまで回復しています。
様々な活動は、区や東京都の補助金を上手に活用しています。補助金の申請は、補助を出す機関に必要性を訴える企画書だけでなく、時にはプレゼンテーションをしないといけません。私たちの他にもたくさんの自治会や団体がエントリーしますから、この点においては、前職である会社員時代の経験が役に立っている面もありますね」

――ホームページで拝見しましたが、古紙回収・リサイクルの報奨金が増加しているようです。これはどんな理由がありますか?
林 「それはもちろん、提出を呼びかけたり、回収を頑張っているからです。他の自治体の詳細は存じませんが、桜台では1束の古紙を出すと、トイレットペーパー1ロールと交換しています。ちなみに本に対しては倍の量で1ロールを差し上げています。この程度のものでも、あるのとないのとでは効果が全然違います。つける以前は、年間で回収した古紙の報奨金(区による資源ごみの買取価格のこと)は20万円程度だったものが、業者から無償で提供頂いたトイレットペーパーをつけることで積極的に提出してくれまして、令和3年では70万円ほどになりました。今年は80万円以上になると思います。

このあとは、まだ自治会に入られていない方にもお声がけして、さらに回収量を増やしていければと思います。桜台地区の自治会加入の割合は4割を切っていますから、地道に活動していけば、まだまだ伸び代はあると思っています。もちろん、ただご協力のお願いをしても住民にメリットがないといけませんので、例えば春には苗木を区とタイアップして無償で配るなどの活動もしています。勿論、従来からの「お子さんだけでも2百数十人集まる秋祭り」「敬老会」「研修・親睦旅行」「避難訓練」「年末夜警」等のイベントにも力を入れています。
災害時に自助と共助が機能する町を目指して
――直近の計画はどのようなものがありますか?
林 「地域に密着した防災・防犯の活動としての「避難訓練」「定期的なパトロール」をより充実させるだけでなく、地域の絆をより深めるため、会員同士が自由に歓談できる“さくら喫茶”を計画中です。大きなところでは、災害対策用に井戸を掘ろうと考えています。自治会館の玄関脇に小ぶりな水道のタンクがあります。これが不要になったため、外して井戸を掘りたいです。もちろん、区の防災対策はきちんと決められていると思いますが、多くの区民が暮らす練馬区では、有事の際も区からの支援、いわゆる公助をずっと待っているわけには行きません。よく公助・共助・自助などと言われますが自治会はまさに共助です。災害時に確保が必要なものの一つに水があります。電動ポンプで組み上げるものでなく、自家発電・飲み水にできる浄化の設備も視野に入れ、いざという時に備えたいと思います」


――最後になりますが、なかなか自治会に足が向かないシニアの方々に対して、もう一歩踏み込むにはどうしたら良いと思いますか?
林 「どの自治区にも、おおよそ老人会と呼ばれるものがあると思いますが、桜台では“親睦会”と呼んでいます。そちらのみなさんと、例えば旅行やイベントなどを連名で行なっています。シニアの皆さんが元気なら、自治会も元気になりますからね。麻雀でも囲碁でも映画でも、まずは寂しさやストレス解消が入り口でいいと思っています。逆に自治会としては、活動を身近なものに感じてもらうことが重要でして、そのために様々なサークルを用意しています。また、近い将来起こるであろう首都直下型の地震災害に備え、先ほどの井戸や防災組織の構築や訓練を行なっています。これらの活動を通じ、地域の皆さんに必要不可欠な存在になることが目標ですね。」

――林さんは、取材中もどんどん新しいアイデアを話してくれました。区などの補助金や制度を上手に活用して、最小限の元手で、様々な活動を実現させている姿は、自治会というより、まるで成長を続ける組織のようでもありました。ご近所付き合いが減少する昨今、家庭内と職場以外に、「誰かとのつながり」を作っておくことは、いざという時はもちろんですが、ちょっとした困り事や愚痴を発散できる場としても重要であると感じます。これからの自治会は、そんな横のつながりを作る場としてますます注目されるのではないでしょうか。
サポーターの取材後記
- トマト
- 桜台自治会は、私の住んでいる地域の自治会です。桜台自治会が、古紙回収の活動などを熱心にされているのは知っていましたが、たまたま回覧板で、『桜台自治会では、「さくら文庫、サクラシアター」を立ち上げました』というのを見て、身近に感じて取材させていただきました。様々な活動を通じて、会員同士の絆を深め、災害に強い街づくりを目指しているとのことです。
先日、私も初めてサクラシアターに行き、「風とともに去りぬ」の映画を見ました。高校生のころ、原作を読んで感動したこともあり、なつかしかったです。4時間近くの映画は、お尻が痛くなりましたが。自治会は、地域のコミュニティとして代表的なものですが、あまり足を運んでいない身としては、少し敷居が高いところがあります。でも、興味のあるところから活動を始めれば、少しずつ身近になる気がします。皆さんもサクラシアターで一緒に映画を見ませんか。 - みゅうにゃん
- 「安全・安心な住みやすい桜台」をテーマに、約1700世帯が参加しているという桜台自治会。コロナの影響で15あるサークル活動は若干停滞気味であるそうですが、「さくら文庫、シアターサクラ」と、オープン予定の「さくらカフェ」を中心にその活動を広げていくそうです。
本を借りに来た人が、映画を視聴に来た人たちが、知り合い、輪を広げていく自治会の場は、もしもの災害があった場合に近隣で助け合うための場所。今後は防災にも力を入れ、災害時に活用できる井戸も作りたいそうです。こういった地域に密着した活動は本当にありがたいと思います。
お話を伺って地域のコミュニティの大切さを痛感しました。自治会長の林さんのご説明も分かり易くご本人も素敵な方でした。自治会の地域コミュニティの活動の大切さを痛感しました。
おすすめの体験記
-
「家で最期まで暮らしたい」を支える医療連携チームとは
多かれ少なかれ、人生の晩年には誰しもが自分の最期を考えると思います。
医療が発達した現代では寿命が飛躍的に伸び、さまざまな治療やケアが
可能となっています。しかし、薬や管で繋がれた延命が、必ずしも幸せなもの
とは限りません。
今だからこそ「自分の理想の最期」を考えたい。地域での医療やケアを
連携で支えるチームを取材しました。 -
ものづくり等を通じて居場所も作る!長年続く風通しの良さが自慢の地域の共同体
最近よく耳にする“多様性”という言葉。人種や障害の有無だけでなく、個々の考え方においても、認識が広まってきています。
そんな考え方を根幹に、様々な活動をしているのが、今回取材した「庭のちぐさ」。
お話を聞くと、決して難しいことではなく、お互いを認め合うことで色々なプラスの効果を生み出せるようです。 -
生活に欠かせない給水所とは? 水道事業を知ろう
私たちの生活に欠かせない、水。
蛇口を捻ればいつでもどこでも一定の水量で使えますが、
74万人に迫る、私たち練馬区の水は、一体どこから来ているのでしょうか?
また、それらはどのように管理されているのでしょうか?
身近すぎて意外と知られていない、水道事業について、取材してきました。 -
古くて新しい?!畳の不思議と秘密を、プロに聞く
日本人の生活から切り離せない“畳”。
使ったことのない人はいないのではないかと思います。
最近ではその住宅事情などから新築では畳の和室がほとんどないことも。
長く続いた日本の文化、この先どうなるのか?白澤畳店さんにお尋ねしました。