サポーター体験記
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ねりまに新しい食文化、ワイン文化を!
- 取材日
- 令和4年11月7日
- 更新日
練馬区にワイナリーがあるのはご存知ですか?
しかも、練馬区産のブドウを使ってワインを醸造しています。
その活動を行うのは「ねりまワインプロジェクト」。
ワイン好きにはたまらない、何とも魅力的な活動を続けるプロジェクトのメンバーにお話を伺います。
ねりまワインプロジェクト(東京ワイナリー)
※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:大塚 英男さん/大塚 まゆみさん
※文中はお二人が会話するため名前で表記しています。
所在地:練馬区大泉学園町2−8−7
電話:03−3867−5525
URL:https://nerimawine.com/
最初は半信半疑?!「地域おこしプロジェクト」採択から始まったプロジェクト
――ワインプロジェクトについて、教えてください。
英男さん 「ここ東京ワイナリーは、越後屋美和さんが社長をしています。このプロジェクトは東京ワイナリーの活動の一部として行われており、代表も越後屋さんです。そこで、最初にプロジェクトを含めた全体像をお話しします。

2018年に区の区民協働事業「地域おこしプロジェクト」において、『ねりまワインプロジェクト』が誕生しました。東京ワイナリー・農家の方・飲食店の方・一般区民が集まって、プロジェクトをスタートさせたのです。それに合わせて、このプロジェクトをお手伝いしたり、ワイン作りに興味のある方・ワインが好きな方を対象として、応援してくれるメンバーを募集しました。これが『ねりまワインファームメイト』です。妻まゆみが、このファームメイトとしてプロジェクトに参加し、その活動を支援する形でわたしも参加するようになりました。
さらにファームメイトの中でも、例えばブドウの栽培やワインの仕込みなど実際に作業をしたり、中には自分でワインを作ってみたい、という熱心な方もいらっしゃいますから、ブドウのことを勉強したい方もいるわけです。この皆さんは1万円の年会費を払い、『栽培クラブ』として活動しています。私たちも栽培クラブのメンバーとしても活動しています」

――もともと、こういったプロジェクトが生まれた背景はどのようなものでしょうか?
英男さん 「一般区民や地域の事業者と区が一緒になって一つの目的に向かって推進していこう!という区の区民協働事業は、数多く立ち上がっています。「地域おこしプロジェクト」の新規事業募集があった際に、その頃活動を始めたばかりの東京ワイナリーが手を挙げたのがきっかけです。『練馬でブドウを栽培してワイン作り!そんなことができるの??』という意見もあったようですが、今までにない取り組みであり、事業の大きな目玉になるのでは?という期待も込めてスタートしました。同じような事業としては、例えば練馬産野菜、都市農業の魅力を伝えるため区内飲食店のシェフで結成した『Nerima Chefs Club』や、“大泉=お菓子のまち”というイメージを広げるため大泉の和洋菓子店が集まる『大泉パティシエクラブ』などですかね」
――2021年から独立されて活動を始めたのですね?

まゆみさん 「協働事業は3年が区の支援期間となります。そのため、2021年からは自分達でやろうということで、ファームメイトが主体となって、プロジェクトを継続しています。
ねりまワインプロジェクトは“地産地消だから”という理由ではなく、“美味しいから選んでもらう”クオリティの高い、練馬産の『地域ブランドワイン』を開発することを目的に掲げています。練馬区は農地面積が23区内でも最大級ですから、食農文化のまちとしてのアピールも担っており、私たちメンバーは完成したワインなどを通して、地域・区外の方々に来ていただいて交流の促進も行っています」
――そもそも、ブドウあってのワインだと思いますが、練馬のブドウには、何かこう、可能性などはあったのでしょうか?
英男さん 「代表の越後屋さんは野菜の卸売の会社に勤めていたときに練馬産の野菜には日常的に触れていて、『こんなに素晴らしい・美味しい野菜があるんだから、これに合わせられるワインなんかあったらいいよね』とワイナリーを立ち上げたのです。活動をしていく中で、練馬で作ったブドウでワインをつくろうという話になり、扱っていた野菜の農家さんに相談し、畑を借り、ワイン作りを始めました。最初は、別の場所からブドウを仕入れてきてワインを醸造していましたが、少しずつ規模を拡大していったのです」
まゆみさん 「練馬区のブドウ畑と収穫される品種をまとめたM A Pがこちらになります。現在、大泉や保谷(駅のエリア)を中心に8ヶ所あります。来年の春にはもう1ヶ所増えるんですよ。区外にも、清瀬や八王子にあります」

(ちなみにvinとはヴィンヤード=ブドウ畑のこと)
収穫まで最低でも3年!根気が必要なブドウの栽培
――来年の春、ということは、そこからブドウを植え始める、ということですか?

英男さん 「いえいえ。ブドウはすぐに実がなるわけではありません。ワインに適したものになるためには最低でも3年くらいは必要です。2年目からブドウの実はなりますが、量が少ないので販売用として利用はしません。
もう少し詳しく話しますと、ワインの木は種から育てるのではなく、苗木を植えます。ヨーロッパ系のブドウの苗木は病気に大変弱い種類ですから、接木(つぎき)をして、わかりやすく言えば、下半分を比較的病気に強いアメリカ産の苗木を使い、そこにヨーロッパ産の苗木をくっつけるのです。この状態の苗木は、当然作らないとできませんから、苗木屋さんに注文をします。これを作ってもらうのに1−2年はかかるのです。
ですから仮に、来年の4月に『苗木を植えます』となった場合には、最低でも1年前から準備が必要なのです。苗木を植えてからさらに、ワイン用に収穫できるまで、およそ3年かかります」

――素人考えなのですが、1−2年の時期のブドウで作るワインは、あまり味が美味しくないのでしょうか?それとも量が少ないだけで、味は変わらないものなのでしょうか?
まゆみさん 「美味しくないことはないのですが、3年目くらいからのブドウになると、品種やその土壌の良さ、環境・気温などが味に影響し、味わいやフルーティさなど個性が出てきます。美味しさについては好みもありますので、一概にどちらが良い、ということは言えないのですけど、品質は格段に上がると思います」
英男さん 「ここに“ねりまヌーボー”というワインがあります。これは区内でとれた食用のブドウを使って作っています。東京ワイナリーのワインは、皆さんが普段飲まれるワインほど味が複雑ではなく、少し辛口だけど、新鮮でさっぱりしているのが特徴です。この意味では手軽に飲める、和食や練馬産の野菜に合う仕上がりになっています。ちなみに、先ほどお話しした8ヶ所の畑で今年収穫したブドウを使ったワインは来年春に販売します」

――少し黄色味がかっているように見えますね。

まゆみさん 「よく気づいてくれました。こちらは無濾過なんです。ワインの中には酵母など様々な成分が入っています。皆さんが普段飲まれるワインのほとんどは、熱を加えたり、フィルターを通すことで酵母を取り除いています。熱を加えてないので、瓶の中でもゆっくりと発酵が進んでいます。いってみれば“生”の状態のワインなんですよ。今、カウンターの後ろの壁に2ヶ所蛇口がありますけど、出来立てをグラスで楽しんだり、量り売りで販売したり、他ではなかなか手に入らない作り方をすることで、ワイン好きの皆さんに楽しんでもらえるようにしています」

多くの善意と好奇心で成り立つ、練馬のワインづくり
――ホームページを拝見しました。昨年の出来高(量)はどのくらいだったのでしょうか?
英男さん 「2019年は赤13本/白39本、2020年がそれぞれ19本/84本/ロゼが233本、2021年が赤24本/白293本です。今年はどの位なのか詳細は見えていませんが、赤50本/白600本の見当で進めています。2020年はロゼがあるのですが、これはその年のブドウの出来や種類によって異なります」
まゆみさん 「ブドウの品種はたくさん栽培しています。練馬の風土や気候に合うものはどれか、まだ実験段階であるとも言えます。そうなると、当然多品種をブレンド・ミックスした味わいを作ってみよう、となります。単一品種にこだわると、それだけ製造できる量が減ってしまいますから。そこで醸造家は“この品種を使ってこんなふうにワインを飲んでもらいたい”と考えて、ブレンドしていきます。

皆さん耳にしたこともあるシャルドネ/ソーヴィニヨン/カベルネ/ピノグリなど栽培品種は多彩です。一番多いのはシャルドネですが、この畑の4ヶ所でも、わずかに味に差が出ていて面白いですよ。
その年の出来に応じて、微妙に品種の割合が変わりますから、ここで扱っているワインは同じ名称のものでも、味わいの変化も楽しめます」
――最後に、プロジェクトに関わっている人数について教えてください。
英男さん 「ファームメイトは本日※現在で1065名です。ホームページで広く募集していますので、練馬区民以外の方々もメンバーになっています。現在はおよそ6割が女性、年代は40−50代が6割、区内在住の方はおよそ65%の構成ですね。2018年の12月から始まって、年度末には134名でしたから、3年弱でおよそ8倍に増えたことになりますね。イベントも積極的に行っていますし、お陰様でメディアにも多く取り上げられていますので、その影響も大きいと思います」
※取材日は11月7日(月)。
まゆみさん 「栽培クラブの方は、50人くらいです。畑作業に関わりたい人、ブドウ栽培の技術や知識をきちんと学びたい人が参加してくれています。1−2月には木に害虫がついていないか・病気になっていないかを確認する“皮むき”という作業をしたり、前の年の古い木を剪定して、新しい芽が出やすい状態にする作業などを皆で行っています。でも芽が出始めてからは本当に忙しいんですよ。新梢(しんしょう)の芽掻き、誘引、摘芯、摘房などなど。10月に収穫作業が終わると一旦の区切りにはなりますが、ほぼ1年間、毎月何かしらやっています。
これらは全てボランティアで運営しているんですよ」


――大塚さんご夫妻から感じられたのは『ワインが好き』という強い思い。毎週月・水・金にある活動(基本的にどれか1日出れば良い)も、中心メンバーはほぼ毎回参加しており、栽培の知識を深めたり、自身のワインに対する憧れを何らかの形で体現されています。お二人はみんなで一緒に作業する喜びや皆で楽しむワインが何よりの時間だと言います。ワインといえば山梨や長野などが有名ですが、ここ練馬区で区民と事業者が一体となって行うプロジェクトから、今後も目が離せそうにありません!
サポーターの取材後記
- ヒロちゃん
- 最近、区の掲示板で当プロジェクトのポスターを良く見かけるようになり、「えっ!練馬でワイン?」と思ったのが、取材をお願いしたきっかけでした。
現役時代、勤務していた会社が製造業であったため、収穫後のプロセスはある程度イメージできておりました。しかし、栽培から3年でようやくワイン用のブドウができ始める事や、協力して頂ける農家さんを少しづつ増やす事等、一朝一夕ではない根気の要る活動内容を知り、頭の下がる思いでした。
一方、コロナ禍により自宅勤務が広がったため、平日にブドウ栽培やワイン醸造に参加して頂けるボランティアが増えたとのお話で、改めてワイン愛好家の裾野の広さを感じました。
大根やキャベツで有名な練馬は、元々作物に適した土地との事でした。ここに、「なぜワイン造り?」の解もありました。農地、収穫量が更に拡大し、練馬ブランドのワインが手軽に、幅広く飲まれる日はもうすぐのようです。
- トマト
- 練馬区は、東京23区の中では農地が多く、キャベツや練馬大根は有名ですが、ワインをつくるためのブドウも栽培しているとのことです。ねりまワインプロジェクトでは、多くのメンバーがブドウの生産からワインの醸造まで関わり、練馬産のブドウを使った生ワインを醸造しています。このプロジェクトのこと自体知らなかったので、区民がそこまで深く関わっているという活動そのものもとても新鮮でした。
取材時に買って飲んだ「練馬ヌーボー2022」は、フルーティでありながら少し辛口で、さっぱりとした飲み心地でした。ワインはかしこまった場で飲むものという思いこみがありましたが、ビールにクラフトビールや生ビールがあるように、ワインにも地域ワインや生ワインがあり、例えば地元で醸造されたワインなどはもっと気楽に飲んでもいいものなのだという印象に変わりました。皆さんも、機会があればぜひ味わってください。
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