サポーター体験記
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紙芝居は総合芸術?!練馬の歴史を伝える「紙芝居サークル」
- 取材日
- 令和4年9月8日
- 更新日
シニア世代には懐かしい、紙芝居。実は練馬区の歴史、「ねりまの昔ばなし」を区内12の図書館に、紙芝居として制作し、届けているサークルがあるのはご存じですか?
お話を伺って驚いたのは、1作の制作を全て一人で行うこと。実は奥深い、紙芝居づくりの裏側を、取材して来ました。
練馬ふるさと紙芝居サークル
※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:谷口 早苗さん、稲葉 まきゑさん、東嶋(ひがしじま) 幸子さん、新村 サヤカさん
所在地:練馬区石神井台1丁目16-31
電話:090-6473-9952
※練馬ふるさと紙芝居サークルでは、メンバーを随時募集しています。お気軽にお問合せください。
(毎月第2・4木曜、13時〜石神井図書館にて活動中)
図書館からの依頼で、全20篇の制作が進行中!!
――図書館で偶然、この“ねりまの昔ばなし”の冊子を手に取り、その後これを基に紙芝居を作成する皆さんの活動があることを知りました。活動の始まりは、どういったものなのでしょうか?

谷口 「図書館主催の“紙芝居制作講座”が活動の始まりです。この紙芝居講座の題材が、“ねりまの昔ばなし”になっています。冊子自体は知る限りで3回改定されていますので、区も文化面で力を入れているのだと思います。とても大事に作られている本ですから、そこから制作する紙芝居も、元の内容から大きく逸脱しないように注意を払っています。実際にチェックが入る時もかなり細かな時代考証が入ります」
――そもそも題材となる昔ばなしはどのくらいあるものなのでしょうか?また、皆さんから見てオススメのお話はありますか?
谷口 「まず題材ですが、全部で28篇あります。しかしながら、どう考えても紙芝居を作れる文量がない話もあるんです。その中から、私たちのサークルでは、石神井、つまり練馬区南西の昔ばなしを中心に作成し始めました。南西地域の話で1話だけ未着手のものがありますが、あとは出来上がっているんですよ。

オススメは、もちろん全部なのですが、私はやはり照姫物語でしょうか。昔ばなしの題名は『金の鞍と照姫物語』といいます。区で行う照姫まつりでも、時代行列のモチーフとなっているくらいこの地域では有名な物語なのですが、別の地域でお話すると、意外と知らない方も多いんです。それぞれの地域に根ざしたお話がありますから、いずれは全地域分作成して、ずっと語り継がれる紙芝居にしたいですね」
稲葉 「私は練馬の名のおこりがオススメですね。練馬の名前の由来に関する物語です。まだ構想段階ですが、この名前の由来に練馬の歴史をうまく絡めていけたら面白いかな、なんて考えています」
――活動のきっかけとメンバー構成を教えていただけますか?
谷口 「2019年の3月16日に、石神井図書館にて野坂悦子さんによる講演『紙芝居の世界を知ろう』がありました。そこへ私と稲葉さんが偶然参加しまして、紙芝居の面白さや醍醐味を伺い、興味を持ったんです。その後、5月に石神井図書館主催の紙芝居制作講座があることを知り、参加したのがきっかけですね。
活動は9月まで月に1度、講師の先生をお招きして、この“ねりまの昔ばなし”の石神井地域の中から1人1作、作成しました。『星の井』と『3枚の鱗』、『火消し稲荷』の3篇です。基本的には脚本から絵を描くところまで、全て1人で担当しまして、同じ年の9月に完成しました。

講座終了後、11月頃だったでしょうか。『残りの昔話も紙芝居にしてほしい』と図書館側から依頼が来たんです。そこで、講座をきっかけに紙芝居の制作に携わった4人でサークルを立ち上げました。本日出席のうち2名は後から入ったメンバーですので、合計6名で活動しています。今年で4年目に突入しましたね」
――現在の活動について、教えてください。
谷口 「サークルは2019年の11月から始まりまして、毎月第2・第4木曜日の13時から16時まで、石神井図書館2階の会議室で活動をしています。各自、自宅で制作した紙芝居を持ち寄って、相談したり加筆したりしながら、紙芝居を演じる練習もしています」
話の継ぎ目は、自分で補う。時代考証まで含めた地道な制作工程
――皆さん、そもそも文章や絵を描かれるお仕事などをされていらっしゃったのでしょうか?
谷口 「それが実は、全くの素人なんです。ですから先生の指導のもと本当に手探り状態で作っています。
制作工程を少しお話しますと、
1. まず原作をいくつかの段落に分けます。おおよその紙芝居の枚数ですね。
2. 次に、それぞれのページに何をどこまで入れる、という脚本を考えます。自分たちなりに作りますので、サークルでお互いに読み聞かせあって、意見をもらいながら修正します。
3. ある程度文章が決まって来ましたら、絵に取り掛かります。こんな風に、その段落に合うように、まずは小さなラフスケッチを描きます。これも皆に見てもらって修正・調整していきます。
ここまできてようやく大きな絵を描く準備が完了です。出来上がった原稿のもとは、当初からこの講座を指導いただいている先生にお願いしてチェックしていただきます。そうしてチェックが終わったものを、最終的にはふるさと文化館さんでの時代考証の確認が入る流れになりますね」


――そうか。原作に書かれていない部分を、皆さんが補わないといけないんですね。
谷口 「そうなんです。昔ばなしには本当に本筋だけの要約しか書かれていないものが多いですから、話の前後は想像して挿入しないといけません。原作に書かれていないシーンを描くわけですので、季節や着ている服、住んでいる場所も含めて、物語や絵を描く際に間違いがないように確認が入るのです。この書き直しが結構発生します。この時代だと烏帽子(えぼし)はまだ無いですとか、屋根は木造になっていない、建物の構造がおかしいですとか。そういうものをきちんとチェックいただいて、繰り返し修正して、合格をもらってようやく完成となります。
例えば今私が取り掛かっている“練馬大根”のお話※では、原作はわずか2ページしかありません。でもこれだけでは紙芝居になりません。おおよそですが、8〜12枚作らないと、紙芝居として成立しないのです。ですから自分でセリフを作り、話を膨らませて、もちろん嘘が無いようにしながら創作していくのです。綱吉さんが痩せてしまうところなどは、原作にはありませんからね。
原作で“病気を占い師に診てもらった”という記述があるのですが、綱吉の時代の占い師がどんな格好をしているかなんて、どこにも載ってないわけです。なんとか手がかりを見つけるべく、図書館に通い詰めたり、工夫をしている最中です」
※…徳川綱吉は将軍就任前には病弱で、練馬に移り住み大根を食べて健康になったという逸話があります。
――紙芝居の枚数は、自分の好きに決めていいのですか?
谷口 「自由です。ただ、一般的に市販されているものは4の倍数、8とか12枚で出来ているものが多いですね。手作りの場合には『この場面はどうしても必要、あったほうがいいと思われたら、追加して大丈夫ですよ』と先生が言われますので、9枚とか13枚もありますね」
稲葉 「制作は長期戦ですから、書き直しもあると結構スランプになったりします。ただ、そんな時はこのサークルで愚痴をこぼしたり、相談したりすると、皆さんアイデアを出してくれますから、また元気を取り戻して創作できたりします。2週に1度のこの活動は、楽しみでもありますね」
物語は右から始まる!紙芝居ならではの作り方・演じ方
――新しくサークルに入られたお二人にお聞きします。新しい発見などはありましたか?
新村 「私はまだ、作品が完成していなく、作っている最中です。先輩方に色々教えていただいたり、アドバイスをもらいながら一生懸命にやっています。今年度中には完成すると思います。コロナ禍ということと、少し別の理由で療養もしていましたから、サークル活動をおこなったのはちょうど1年くらいでしょうか」

東嶋 「私は2019年の終わりくらいからの参加だったかな?もともとは紙芝居に関心がなくて、読む方の活動をしていたんです。その活動の班長さんが、朗読の時に、こちらのみなさんが作っている紙芝居を読まれて、こうグッと来たんです。紙芝居と絵本の違いも、新しい発見でしたね」

――いまお話に出て来ました紙芝居と絵本の違いとは、どのようなものでしょうか?
谷口 「絵は見ている側から向かって右から描くようにしています。私たちが紙を右に引き抜いて物語を進めますから、
見ている側は絵が左に流れて、また右側からお話が始まるのです。ゆっくり引き抜く時は特に、向かって右側が次のページの物語の始まりなのを意識しますね」
稲葉 「絵本と紙芝居の違いで言いますと、絵本は手に取って細かい背景もゆっくりマイペースで読めますが、紙芝居は抜いて進行しますから、端折るところやアップにした方が効果的になるところがあります。その点が難しい反面、面白く、創作意欲を掻き立てられますね」

谷口 「ですから紙を抜く速さもとても大事なのです。速い遅い、一旦真ん中で止める、絵に注目させるのではなく、抜いた動作で間を作る、など、演出面でも物語を作れるのは、絵本との大きな違いだと思います」
東嶋 「芝居だから、起承転結が大事だ、とも教わりました。この流れやつながりははっきり意識して作るように、先生からも指導を受けています。その場面の絵が飛び出すと言いますか。演じる要素が多いので、その点も勉強しています」
飛躍の場はこれから。きっと現代っ子も興味があるはず
――今後、作品の披露についてはどのようにお考えですか?
谷口 「コロナ禍ということもあって、制作は一生懸命にしていましたけど、演じるチャンスはほとんどなかったんです。この夏に、サークルとして初めて披露させていただいたので、演じることに関しては、まだまだだと思っています。講師の先生は『紙芝居は演じて(聞いてもらって)ナンボのものだよ』とよくおっしゃっています。
人前で演じるのは勇気がいることでもありますから、まだドキドキすることの方が多いです。

お披露目したのは8月7日、石神井の氷川神社で行われた“ちゃが馬七夕”の中で、石神井に関連する演目を披露したんですよ。お子さんたちをはじめとして、若い親御さんもお祭りにいらしていて、今の皆さんは紙芝居なんか興味ないかな?と思っていましたが、人だかりが出来まして。最終的には大人だけでも100人は超えていたと思います。
初めに注目してもらうために“手遊び”というのでしょうか、歌と手の踊りで惹きつけて。これも、保育関連の仕事をしていたメンバーが中心に行いましたが、私たちは皆、子育てを一通り経験していますから、子供の相手はお手のものです。
途中で帰られる方もほとんどいなかったみたいで、とても充実しました。
お子さんが集中できる時間は10分くらいですから、その時間内で1話を終わらせるようにして、3作、30分演じました」

――現在はまだ、演じることに関してはお試し期間だそうで、交通費や出演料などは考えていないそう。今後も年2回は新作を制作できるだけの助成金を確保しながら、まずは“ねりまの昔ばなし”の全篇完成に向け、頑張っていきたいと話してくれました。皆さんが図書館で目にする“ねりまの昔ばなし”の紙芝居は、このサークルで生まれたものです。ぜひお手に取って眺めてみてくださいね。
サポーターの取材後記
- ヒロちゃん
- 感想は、“紙芝居の奥は深かった”の一言に尽きます。子供の頃から絵心がなかったため、取材前は、大きな用紙に巧みにお描きになる事が素晴らしいと、単純に考えておりました。ところが、実際は①原作のシンプルな話を膨らませる②登場人物のセリフを当時の言葉で脚本化する③シーン毎の下絵を描く④指導者やふるさと文化館に考証してもらう⑤ようやく絵本が完成という、内容の濃いプロセスでした。メンバーの個性を生かすため、一作ごとに、お一人でこの一連の流れを最後まで担当されている事も驚きでした。
取材の最後に、谷口さんご自身が制作された「照姫物語」を、声色や擬音も駆使して上演していただきました。紙芝居は、この実演までを含めた、まさに総合芸術と感じた次第です。深く聞き入りながら、家の近所に来た紙芝居屋さんの思い出が蘇りました。
今後は、作品数を増やす事に加え、上演機会を作っていきたいとのお話でした。この取材が、地元の昔ばなしに命を吹き込む、皆様の貴重なご活動の認知度アップに役立てれば嬉しいです。
- みかちゃん
- 紙芝居と言えば、戦後育ちの私たちにとって、いろいろな思い出があります。
「カチカチ!カチカチ!カチ!」と遠くから 拍子木がなると「紙芝居がきたぞう!」と大きな声が周囲から聞こえる。子供たちがお小遣いをもらって、確か50銭か 1円だったか。公園やお寺の境内に駆けつけたものです。
当たりくじ付きの、煎餅2枚に挟んだ水飴を舐めながら、当時流行だった、「鞍馬天狗」や「黄金バット」が今でもうっすらと記憶に残っています。
あれから「ラジオ」や「テレビ」が登場して、映画が徐々に普及するようになると、そちらに移って行きました。このサークルは、そんな懐かしい紙芝居づくりに取り組んでいるボランティアグループです。私の感想は、出し物が身近で素晴らしい点です。既に披露できるものが6編あるそうで その中の1編「照姫様」を、取材後にご披露いただきました。大人の私も聞き入り、また練馬の歴史の勉強にもなり、楽しく・嬉しい瞬間でした。きっと現在の子供たちにも楽しんでもらいながら歴史の勉強にもなると思います。全28編が徐々に完成して、シニアや子供たちに披露いただけるようになるのが、今から楽しみです。
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