サポーター体験記
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犬と人との絆を作る・育てる、アイメイト協会

犬と人との絆を作る・育てる、アイメイト協会
アイメイト協会の皆さん&訓練中の候補犬と一緒に記念撮影!

街や施設で、時折見かける盲導犬。
皆さんは盲導犬についてどのくらい知っているでしょうか?
視覚障害者の目の代わりであることは間違い無いのですが、
実はあくまで主役は人。盲導犬と一緒に盲導犬を扱う視覚障害者も練習を重ねて試験に合格しなければなりません。
サポーターが世界水準の協会を取材します。

盲人更生援護施設 公益財団法人 アイメイト協会

※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:代表理事/塩屋 隆男さん(たかしのつくりは生の上に一)
所在地:練馬区関町北5−8−7
電話:03−3920−6162
URL:http://www.eyemate.org

目と私、愛情の3つの「アイ」

――まず団体の活動の概要を教えてください。

 代表理事の塩屋さん、盲導犬を取り巻く環境を丁寧にご説明いただきました
代表理事の塩屋さん、盲導犬を取り巻く環境を丁寧にご説明いただきました

塩屋 「 “盲導犬”と言われますと、どうしても犬の方に目がいってしまうのではないでしょうか?
利口な犬がいるなとか、おとなしい・かわいいとか、こういう点に注目が集まります。また、もしかしますと、目の見えない方を犬が引っ張って歩いているなどと考えられるかもしれませんが、これは全く違います。


“犬を使って歩く”というのは、“犬の目を使って歩く”ということなのです。もう少し説明しますと、犬が訓練されるというのは、人から指示された作業をすることを覚えているだけですので、人間のように、受けた教育を活用して自分で考えて仕事をするなんてことはないのです。訓練が終わった犬であっても、それでおしまいで、すぐに何でもできるわけではないのです。例えるなら、皆さんがもし失明したとして『ではこれから盲導犬を使って歩いてください』と急に言われても、どうしたらいいかわからないですよね。
私たちの仕事は、犬の訓練が終わってからが始まりなのです。どういうことかと言えば、犬の訓練が終わったら、今度はその犬を使って歩きたい!と希望している視覚障害者に犬を使った歩き方をお教えすることなのです。


ですから盲導犬の教育というのは、実を言えば人の教育でもあるのです。盲導犬と一緒に歩くときに大切なことは、やはり“私は主人なんだよ。あなたは一生懸命に私のいうことを聞いて仕事しなさい”という気持ちを持って接することです。そして、指示したことを上手にできた時はたくさん褒めてあげることです。逆に、例えばよそ見をしたり、集中しないでどこかの匂いを嗅いだりとか、余計なことをしたときには犬に伝わるようにきちんと叱るんです。
最近、世の中では『褒められて伸びるタイプ』なんて言葉が横行していますけれど、褒められることだけで伸びる人なんて本当にいるのかな?と個人的には思います。
犬を褒める時に大切なことは、ヨシヨシということではなく、人間が心から嬉しい気持ちになって『お前良くやったね!』という気持ちで褒めてあげることです。この気持ちは必ず通じます。同じように、叱るときも、怒っちゃ駄目です。『しっかりしろよ。私は気分悪いぞ』という気持ちをちゃんと伝える。褒めるときの本当に嬉しい気持ち、あるいは叱るときの、毅然とした気持ち、それがはっきりしているほど、犬には理解しやすいのです。こういう具合に、“犬に仕事をさせる方法”を人に教えるのが仕事です」



――なるほど。団体名のアイメイトにも関係がありそうですね。この意味や命名の経緯などを教えてください。


塩屋 「先ほどの通り、あくまで主役は人間です。“目が見えない人は、犬に導かれるんだ”という間違った理解はいまだに改善されていませんし、“人が主役なんだ”というところも目立ちにくいので、私どもは『アイメイト』と命名しました。


このアイメイトというのは三つの言葉を掛け合わせています。アイ(eye)は英語で目のことです。そして私=自分の事もアイ(I)と言います。さらに日本語の愛です。この三つの意味を合わせまして、それで私の愛する目の仲間=メイトで、アイメイトです。
皆さんが盲導犬にばかり目が行くのを防ぎたいという思いがあります。テレビや雑誌などのメディアで、盲導犬がニュースや記事になりますと、その殆どが犬のことを書いています。利口だとか、おとなしいとか、健気だとか、そういうことばっかりです。でもまず、そもそも盲導犬という犬がいるわけじゃないんですよ。人と犬が一体になって、初めて盲導犬なのです」

 アイメイトの説明パンフレット、育成や私たちができる支援について書いてあります
アイメイトの説明パンフレット、育成や私たちができる支援について書いてあります

――そうですね。人との繋がりというのは、動物でも一番嬉しく、大事なものですよね。


塩屋 「そうです。目の見えない人にとって、自分が歩きたいときに自分の意思で出かけられるのは、極めて重要なことなのです。自分の目が見えないから自由に動けないという状況は、心理的にも相当な負担と鬱積した感情を生み、場合によれば命を絶ってしまうことさえあります。
また、例えばいくら仕事の能力が高くても、そもそも歩けずに自宅から出られなければ、その能力も職場では発揮できないですし、目が見えない方でも、ご家庭での日常の買い物が、自分が行きたいときに行ければ、そのほかの家事、洗濯や掃除など、あらかじめ予定を組んだ上で活動することができます。


面白いのは、実際に使用者の方が言った言葉ですが、ご夫婦でお一人が視覚障害者、 アイメイトを使っています。夫婦ですから時には喧嘩しますよね。それで喧嘩した後も、今まではただイライラして、お互いに何も言えない陰険な空気が充満していたそうですが、アイメイトが来てから、同じ状況になった時に、パッと外へ出て、家の周りとか公園を歩いて帰ってくると『少し心も晴れるんです』と。だから夫婦喧嘩を犬が食べてくれたんですよ!なんてご報告があります。
このように、ただ出歩くことのサポート以外にも、盲導犬が役に立ついろいろな要素がありますね」

盲導犬はどうやって育てている?どんな犬でもなれるものなの?

――創業者の塩屋賢一さんが、盲導犬の育成を始めた経緯を教えてください。


塩屋 「賢一は父ですが、彼は子供の頃から犬が大好きだったんですね。それこそ私の祖父母たちが『あれ?賢一はどこに行ったんだろう?』なんて探していると、大抵、犬小屋に行って一緒に寝ているくらいに。祖父は狩猟をやっていまして、その面でも犬と一緒の生活が日常だったのです。
賢一は成人すると電気会社に勤務しますが、残念ながら会社は倒産してしまいます。そんな時に、ずっと犬と育ってきて今も飼っている。じゃあ大好きな犬に関わって収入を得られたらいいなと考えて、他所の家の犬の訓練を始めたそうです。
ただその当時でも、警察犬の訓練競技会で日本一になるほどの実力でしたから、当然評判が良くて、『訓練して欲しい』という人はいっぱいいました。終戦直後でしたから進駐軍の兵隊さんたちからも訓練の依頼が来たりするなど、収入は良かったようですよ。


ところが自分が一生懸命訓練した犬でも、いざ飼い主に返すとまた甘やかされちゃって、すぐに元のわがままな犬になってしまうと。そういう事を何度も見ていて、むなしくなったんでしょうね。何か犬を通じて人に役立てることはないものかと考えました。
その時ちょうど、日本シェパード犬協会の理事か役員かをやっていて、審査員の資格も持っているという人があらわれました。実はその方、現在も続く、新宿の中村屋の社長さんで相馬安雄さんというのですが、父が自分の置かれている現状を相談したんです。犬の訓練を通じて、人の役に立てることはないか?と。その時に初めて盲導犬の存在を知るのです。
自分は犬の訓練には自信がありましたが、盲導犬に何を教えたらいいかわからないので、海外の盲導犬を育成する施設に手紙を出して、教えを請うたそうです。ところが問い合わせしたはいいが、パンフレット一つ送られてこないですし、『お前が犬を使いたい、待っているユーザーなのか?』とか、全然要領を得なかった。業を煮やして、それじゃあ自分で目の見えない生活をしてみて、何が必要かを考えることを思いつきます。

 アイメイト使用者の佐藤憲さん(故人)、賢一さんと双璧をなす、使う側の功労者
アイメイト使用者の佐藤憲さん(故人)、賢一さんと双璧をなす、使う側の功労者

1ヶ月間、朝起きてから夜寝るまで、目隠しの生活をして、それでいろいろな場所でつまずいたり転んだり。それから軒の庇(ひさし)に顔をぶつけたり、よく言っていましたけど、『本当に目から火が出るくらい痛い』と。そういう思いをして、じゃあ主人をつまずかせないようにすること、顔をぶつけないようにすることを犬に教えたら、これは目の不自由な人にとても役に立つだろうということで、研究を昭和23年から開始しました。


その時は、まだ盲導犬自体がそこまで知られていませんから、希望者がいるわけではなくて、ただ研究を続けていたのですが、昭和36年になって、後に第1号のアイメイト使用者になる河相洌(かわいきよし)さんという方から、『自分のシェパードを自分が歩くための盲導犬にしてほしい』と依頼があったんです。当時は、今のように系統立った訓練のプログラムが無いですから、訓練時間も相当長く、やっと翌年の8月に、河相さんに犬を使うための歩行指導をしまして、晴れて国産盲導犬第1号のペアが誕生したのです。
ちなみに河相さんはまだお元気で、確か今94歳ですかね。ちょうど今月に、お住まいの静岡までお訪ねしたところです。歩くのはもうだいぶ不自由になられて車椅子なのですが、頭脳は明晰でびっくりしました」

 アイメイト協会の歴史や説明がまとめられた冊子、系統だてた整理も成果のひとつ
アイメイト協会の歴史や説明がまとめられた冊子、系統だてた整理も成果のひとつ


――次に犬種のことをお聞かせください。盲導犬といえばラブラドールレトリバーが思い当たるのですが、他の犬との違いは何なのでしょうか?


塩屋 「はい。実はアイメイト第一号の河相さんのシェパード、チャンピイ号から、確か53番目までは、全てシェパードだったんです。どうしてそれがだんだんラブラドールになっていったかというと、シェパードですと、特に雄はすごく大きくなっちゃうんですよね。ですから扱うのも大変だということがあります。それから昭和53年以降ですけれども、盲導犬と一緒に電車もバスも乗れるようになって、公共交通機関も利用できるようになってきます。ただやはり、犬が苦手な人にとっては、シェパードだとどうしても軍用犬とか警察犬のイメージがあって、怖がられるのです。
逆に、ラブラドールのいいところは、割と手入れがしやすい点、それから顔も柔和で、雄も雌もシェパードほどには大きくならない点です。そういったことからラブラドールが主流になりました。


ただ、ラブラドールなら何でもいいわけじゃないんですよ。やはり素質が大事ですから。理解力、記憶力、判断力がいい犬、簡単に言えば頭がいいということなのですが、頭がいいだけでも駄目です。やはり裏表なく仕事をする、本来の真面目な性格というのが非常に大事です。
人間でも上司がいないとさぼる人は多いと思いますが(笑)、犬も主人がちょっと気を抜くとさぼったり、態度を使い分ける性格のもいるんですよ。もちろん、ただのペットであれば、そういうわがままなところも可愛らしさや魅力の一つで済みますが、視覚障害者の目になるには危ないです。
こういった賢い要素を持った両親を協会で用意しまして、その間に生まれた犬だけを候補犬にしています。だから必ずしもラブラドール=盲導犬というのは、ちょっと早合点ですね。


それで、これまた時々テレビで観ますけど、『ラブラドールが10頭生まれても、1・2頭しか盲導犬になれない』なんて放送もありますが、実際にアイメイト協会では、7割から8割はアイメイト、つまり盲導犬になれます。」



――今は本当に小さなタイプのワンちゃんも多いです。例えばああいった犬種でも、教育すれば盲導犬に育つものなのでしょうか?


塩屋 「まずしつけは、飼い主次第ですが、どんな犬でも基本的には訓練はできます。よく父が言っていましたが、『扱いにくいのはいるけれど、箸にも棒にも掛からないなんて犬は、ほとんどいない』と。だからよく、うちの犬はバカ犬だ、なんて言っている人が居ますけれども、私に言わせれば、それは飼い主が何も知らないで、犬に意思を伝えられていないだけなんです。
ただ、視覚障害者の目という仕事をさせるには、小さい犬種では無理です。シェパードとかラブラドールとかは皆さんよく大型犬だって言いますけど、実は両方とも中型犬です。中型犬程度の大きさがないと、うまく人を誘導することはできません」



――盲導犬になる犬は、両親からある程度素質がある状況を作っている点は伺いましたが、そもそもその素質のある両親は、どこから連れてくるものなのでしょうか?


塩屋 「親になる犬を繁殖基礎犬と言いますが、生まれたアイメイト候補の子犬たちの中から特にアイメイトとしての素質が光る犬を新たな繁殖基礎犬にします。また、時には外国から連れてくることもあります。
ちなみにどうやって子供を産ませているかというと、繁殖ボランティアのご家庭で産ませていただいています。繁殖ボランティアの家庭で普段は家庭犬同様に過ごし、それで交配に適した雌がいれば、雄と雌を協会に連れてきて交配して、それでまたそれぞれのご家庭に返す、という流れになります。繁殖ボランティアのご家庭で生まれた子犬は、離乳するまでおよそ60日です。生後60日になるまでは、その家庭で育てていただいて、その後は、飼育奉仕と呼ばれるボランティア家庭で1頭ずつ飼っていただいて1年間育てていただきます。この期間にお願いしていることが四つほどありますので説明します。


まず家の中で飼っていただくこと。人間と一緒の状態ですね。それから、間食をさせないこと。何かいうことを聞いたご褒美だと言って食べさせるということも駄目です。おやつも駄目です。食事の時間に決まった量を与えることにとどめます。それから自転車運動は禁止です。最後にボール遊びをしない・させない、というお願い事があります。これ以外は愛情をそれぞれの家庭のルールで飼っていただいて結構ですということで、飼育奉仕をお願いしています。


別れがつらいからもうやらないという人もたくさんいるんですけども、この辺はやはり人の考え方次第なところもあります。もう20年ぐらい飼育奉仕のボランティアを続けてくださってる方たちに共通する言葉が『自分は大切な犬の死に目に会わないんだ』ということです。死に目に会わないで、しかも子犬から成犬になる一番変化が大きな時期を楽しめる。それで、自分が送り出した後も、誰かの役に立つ。こんないい事はないと。
それから、1回で悲しいからと飼育奉仕を辞めちゃう方も、育てていただいた犬がアイメイトになると、必ず主人となる人と一緒に歩いてる写真をお送りするんです。その写真を見ると、またやりますっていう方も多いです。だから私はその写真を撮っていますけど、写真送る時はすごくワクワクしています」

 インタビュー中の記念撮影、塩屋さんもやはり犬が大好きなことが表情から伝わります
インタビュー中の記念撮影、塩屋さんもやはり犬が大好きなことが表情から伝わります

アイメイト協会の高い訓練基準。“人”が主役をモットーに完璧を目指す

――訓練の内容について教えてください。


塩屋 「教える内容は、基礎訓練と誘導訓練というふうに分けています。基礎訓練というのは、座れ・伏せ・待て・物を拾え・返せ。こういったことを教えます。これは一見すると歩くこととは関係なさそうですけれども、いつも主人の言葉や、動作に注意を向けておくという点で非常に大事なのです。これらは1回の声だけで聞くように教えるんです。そうすることによって、いつも主人のことを意識し、気を散らさなくなります。障害者と飲食店に行った時には、主人の足元で静かに眠って待機しています。基礎訓練のときも誘導訓練のときも、先ほど言ったように褒める・叱るは大事です。


協会では、命令語は英単語を使っていますけれども、sit(シット)と言いながら、訓練の初期段階では軽く腰のあたりを押すんですよ。その時に『お前よくやったね!』って気持ちで褒めてやるわけです。犬はまだ何もわかっていないですから、すぐ立ち上がろうとするんですが、そこで立ち上がらせては駄目です。再びシット!と軽く押さえて、立っていいよと言うまでは座ってないと駄目なのです。そうやって一つ一つ、指示語とそれに応じた動きを教えるためにそのようにしますが、最終的には声符(声による指示)のみで犬が指示されたことをするように訓練します。それとよく、ドラマなどではgood(グッド)を多用していますが、それぞれの動作を教えるのであれば、その指示語を使って褒めてあげた方がわかりやすいですね。

 人が立ち上がっても、指示があるまで前の状態を維持させるのだそう
人が立ち上がっても、指示があるまで前の状態を維持させるのだそう

Down(ダウン)だったらギュッと首と押さえて伏せる格好をさせます。そこでダウンを覚えるのですが、主人がパッと立ち上がると犬は従いますから、わざとこう、パッと立ちながらそれでもずっと押さえてダウン、ダウンと、『私が立ち上がっても、お前が座っててくれると嬉しいよ』っていう気持ちでその言葉を言ってやると、犬はちゃんと覚えているんですね。だからご褒美に食べ物をやるというようなことは、アイメイト協会ではしません。今世界中に90ほど盲導犬の事業をやっている団体がありますが、餌を使わずに訓練しているのはうちだけです。もう一つ、うちだけのことがあります。それは、訓練中の犬が無駄吠えしないで静かにしている点です。今もこの建物の中に60頭居ますけど、静かですよね?この二つは世界の中でも大きな違いです。


餌を使わないのには理由があるんですよ。サーカスの猛獣使いとか、水族館のアシカとかオットセイは、何かやると餌をあげています。あれは動物が考えて動作してるんじゃなくて、もうほとんどが条件反射なんですよ。だからいつも餌を追いかけてしまって、主人ではなく主人の手ばかり見るようになってしまいます。また、食べ物にも意地汚くなってしまいますから、レストランに行ったりすると、テーブルの上のものを食べちゃったりするんです。そうではなくて、心から褒めてやることで、犬との結びつきや信頼関係を作るというのが大事なんですね。吠えないことも大切です。ムダに吠えないように教えると、他のことも落ち着いて作業するようになるんです。

 外出に関わらず「ドア」は生活に数多く存在、ノブの位置を主人に知らせます
外出に関わらず「ドア」は生活に数多く存在、ノブの位置を主人に知らせます
 盲導犬の寝床(待機場所)の台など。
この上にタオルを敷くなどするので、4週間の歩行指導中は主人と犬がいつも一緒にいられるよう施設も工夫されています
盲導犬の寝床(待機場所)の台など。
この上にタオルを敷くなどするので、4週間の歩行指導中は主人と犬がいつも一緒にいられるよう施設も工夫されています

あとは誘導訓練ですね。誘導訓練は文字通り目の見えない人を、ぶつけないように・つまずかせないように・痛い思いをさせないように誘導するための訓練で、これは全て路上で行います。一般の路上で、ハーネスという道具をつけて、最初はまず道の分岐点、例えば青梅街道沿いに向こうから歩いてくると、程なく1本の道に出ます。そういうところに来たら、そこで止まるということを教えていきます。また、分岐点のところで歩道が切れますから、切れているわずかな段差でも止まるように教えます。皆さん目が見えていますから感じないでしょうけど、あのちいさな段差でも知らないで行くとつまずきます。ですから、段差があったときにはまず止まって、それで主人が足で確かめて、段差があるとわかったら、“進め”と指示を出し、進みます。今度は反対側に渡った時、また角や段のところで止まるように教えています。次に、例えば四つ角でしたら、進める方向は四つあります。直進するのか、右に行くのか左に行くのか、戻るのか、指示された方向に進むように教えます。


一番重要かつ難しいのは、私たちは“利口な不服従”って言っていますが、指示に従わないことですね。どういうことかというと、例えば犬は背が低いですからそのまま真っ直ぐ行けても、人間の頭には当たってしまう場合があります。高さの障害物とも言いますが、そういうものがある時は、それを避けることを教えます。それから、駅の近くで自転車がたくさん散乱しているというような場所では、犬はいつも左にいますから、主人の右の幅まで考えて、右側もぶつけないように歩くということも教えています。そういったことを繰り返して4ヶ月の訓練期間を過ごします。
最後の1ヶ月ぐらいは、訓練を担当した者が自分で目隠しをして、街中を歩いて完成度を実際に確かめます。この目隠しが大切で、見えていると何らかの信号を犬に送っちゃうんですよ。例えば狭いところに来たら、なんとなくハーネスに力が入ってしまいます。その違いを感じるとゆっくり歩かなきゃいけないんだよなとか、犬が察するわけです。それが、目の見えない状態ですとなかなかできませんよね。
人間が全くサインをくれない状態できちんと仕事をするようになっているかを確かめるためには、目隠しして歩かなければならないのです。そうやって、訓練の完成度を確かめて、これで大丈夫だということになって初めて本業が始まります」

 およそ4ヶ月の訓練で一人前に!がんばってね!
およそ4ヶ月の訓練で一人前に!がんばってね!

――それをたった4ヶ月で、クリアするのですか?


塩屋 「そうです。ですからこれもまた世界の話になりますけども、犬を4ヶ月間で仕上げられるのは世界で2ヶ所だけなんです。
4ヶ月間で仕上げることもそうですが、その中でもアイメイト協会は一番犬に教えている科目が多いんです。自慢するわけじゃないですけども、お伝えしないと皆さんご存知ないですからね。それで盲導犬ってみんな同じ基準でやっているわけでもないですから。
アイメイト協会の盲導犬の基準は、“全く目の見えない方が人と犬のペアだけでどこでも自由に歩けるようになることです。当たり前のように聞こえますが、各団体によって基準は様々で、全盲の人には盲導犬を渡さないという協会もありますし、犬がいても、外出のときは晴眼者が同行することが原則だ、とか。他にも決まった場所しか歩けないとか、犬がいても杖を併用するとか、本当にいろんな違いがあるんですよ」



――それでは最後に、今後の展望などを教えてください。私たち区民にできることがあるなら、どういったことをお手伝いすればいいのでしょうか?


塩屋 「アイメイト協会では本業でこれ一つしかやっていませんから、それに打ち込んでいくということですね。犬の訓練も人への歩行指導もゴールはないんですよね。だからいつも工夫して、よりよい訓練をして、より良い指導をして、視覚障害者の助けになる、と、向上していきたいというのが展望ですね。


サポートの側面で言えば、街で盲導犬と歩いている人や視覚障害の方に出会ったら、何かお手伝いできますかと必要に応じてサポートしていただけるとありがたいです。協会HPには、「使用者に出会ったら」や「動画で知るアイメイト」などで声掛けや誘導方法を紹介しています。また、金銭的なご支援をいただけるのもありがたいですね。非営利団体で収益はありませんから。それからあと、皆さんが道路を利用したり自転車で通っている時に訓練している場面に遭遇したら、避けないで欲しいです。避けずに障害物になっていただきたいのです。そうしないで善意で避けてしまいますと、犬が、『ああ近づけば向こうがどいてくれるんだな』って思っちゃうんですよね。迫ってくる必要はないのですが、普通に動いて障害物になっていただきたいです。
金銭的なご支援は、サポート会員や毎月定額でご寄付いただく継続のものや、1回だけのものもあります。詳しくはぜひ、ホームページをご覧いただければと思います」


<アイメイト協会ホームページ>
http://www.eyemate.org

 取材後の体験風景、アイマスクをすると真っ暗闇・・・、不安になります
取材後の体験風景、アイマスクをすると真っ暗闇・・・、不安になります
 体験風景、交差点(分かれ道)では、主人の指示があるまで待つよう訓練されています
体験風景、交差点(分かれ道)では、主人の指示があるまで待つよう訓練されています

サポーターの取材後記

ミムちゃん
うちにもペットがたくさん居ます。その中には犬も2匹居まして、1匹は保護犬でもう1匹は娘が飼っている犬です。(よくテレビコマーシャルに出ている、売り場で目があって運命を感じてしまって、思わず買ってしまうアレです)
犬を飼うようになってから、犬に関する多方面に関心を持つようになり、盲導犬を育成するアイメイト協会の取材にお供させて頂きました。
予想と違い盲導犬だけではなく視覚障害者への指導も行っている点を知り、改めて多くの人々に伝えたいなと思いました。
取材中聞いた大事な事の一つは、アイメイト協会の近所に住む皆さんは訓練中の盲導犬を見かけたら、気を遣って避けたりせず、自然に普通にいつもの通り歩いてほしいとの事。私も注意したいなと思いました。
それから一般の皆さんが行ってほしいもっとも大事なもう一つの事は、道で視覚障害の方を見かけたらさりげなく、まずはこんにちはや大丈夫ですかの挨拶の声をかけ、そして盲導犬には触れず心からの声援、支援を送る事です。
みかちゃん
アイメイト協会取材のキッカケは、あるテレビ番組でイスラエルで発見された、3万年前のミイラのそばに寄り添って葬られていたイヌであった。人とイヌはそんな昔から家族の一員であったのであろう。ハンガリーの学者の研究では、イヌは人間の言葉、およそ400語を理解できるそうで、飼い主のストレスなども、もしかしたらかなり理解しているのでは?と思う。
1957年、様々な苦労を経て、国産盲導犬第1号チャンピイを初めて誕生させたのを皮切りに、現在1425組のペアを育成した実績を誇っていると聞いた。父、賢一氏の志を引き継ぐ、隆男氏の役割も、まだ全国に31万人もの視覚障碍者が盲導犬を待っていることを考えると大きいのではないだろうか。
暗黒の世界は、人間ならずとも”恐怖と不安”があるだろう。アイマスクをつけた私はその場で一歩も動くことができませんでした。そんな私を助けてくれたのはハーネスを付けた盲導犬でした。取材日は暑い日だったので、やっと50メートルを歩いた後は汗びっしょり。。。
こんなアイメイト協会がわが練馬にあることを私たちは誇りにし、私達シニアも、そして多くの区民も関心を持って、見学してみたらいかがでしょうか。

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