サポーター体験記
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貸す側も借りる側も。空き家を有効活用してみませんか?
- 取材日
- 令和4年6月1日
- 更新日
皆さんのお家の周りにも、空き家が意外とたくさんあるかもしれません。
ご家庭の事情などで、管理が難しい場合も多いのだとか。
練馬区では空き家対策の一つとして、空き家を地域で有効活用する取り組み(空き家地域貢献事業)を行っています。
「練馬区空き家活用相談窓口」になっている、みどりのまちづくりセンターのご担当に詳しく聞いてみました。
公益財団法人 練馬区環境まちづくり公社 みどりのまちづくりセンター まちづくり事業係
※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:係長 嶋田 千夏さん、主任 田中 梨香さん
所在地:練馬区豊玉北5‐29‐8 練馬センタービル3階
電話:03-3993-5451
URL:https://nerimachi.jp/
貸す側・借りる側双方の信頼のため、しっかり審査
――空き家所有者の登録基準や登録にあたり必要な事などはありますか?

田中 「私どもは、練馬区から委託を受けて空き家活用の相談窓口を開設しています。一言でいうと、空き家を使いたい方・空き家を使ってほしい方のマッチングをすることが主な仕事です。その活用の中でも特に、高齢者や障害者の方を支えていくための場や、コミュニティ形成の場など、地域の資源となる活用をサポートしています。対象となる空き家は、一戸建て住宅、共同住宅等の住戸、店舗、店舗併用住宅が対象となっています。
まず登録の際は、『登録申請書』の提出が必要です。併せて、物件の写真や間取り図、建築確認に関する書類、建物や土地の登記、ご自身が所有者であることが証明できる書類があると良いです。改修や増築をしている場合は、履歴がわかる書類もあると助かります。
基本的な登録条件は3点あります。まず1点目は所有者が複数いる場合は、所有者全員の合意が必要です。家は資産で、その方の財産になるので、その持ち主からきちんと合意が取れていないと勝手に貸したりはできません」
――全員が合意していることを証明する、何か書類などを、提出する必要はありますか?
田中 「登録時に申請書を出してもらうのですが、そこに並列で名前を記載してもらったり、委任状など、ご提出いただいています。
2点目に “新耐震基準”というものがあります。これは昭和56年6月1日に法律の改正があり、耐震の基準が変わったため、少し厳しくなりました。これ以降に建てたもの、もしくは活用を開始されるまでにこの基準に合致した建物でないと、扱うことができません。
3点目として、建築基準法等に違反していない建物であることです。区で行っている事業ですので、やはり安全に活用していただくために、必然的に条件は厳しくなります」
――団体の方が、空き家を活用したい、という場合はどのようなことに注意が必要でしょうか?
嶋田 「活用を希望する団体も、『登録申請書』の提出が必要です。登録は、団体でも個人でも大丈夫ですが、区内在住・在勤・在学の方が、その構成員の1/3以上を占める、という点が大きいですね。法人格は特に問いませんので、NPOや合同会社でなくても大丈夫です。あとは区の事業ですので、政治・宗教・暴力団に関係していないか、という点は必ず出てきます。

団体の概要がわかる資料の提出もお願いしています。マッチングするときに、所有者が“この団体さんに貸したい”となった時の信用ですよね。所有者は、活用を希望する団体が、『どんな活動をしているのか?きちんと家賃が払えるのか?』ということは、当然心配されますから、活用を希望する団体は、『今までにこのような活動を行なってきましたよ、収支はこうで、家賃は払えますよ』など、団体の状況がわかるものがあると安心ですよね。そのために、登録の段階から資料の提出をお願いしています。空き家の所有者にPRできるものがあれば、ちらしなどでも構いません」
――貸す側も、借りる側も結構いっぱいあるのですね!
嶋田 「やはり第三者の財産を貸したり借りたりという契約になりますから、お互いのためにもそこは、シビアな対応になりますね。地方のイメージで、空き家というと、かなり古くて手をいれないと使えない建物を思い浮かべる方も多いのですが、実際には、そこまでの状態の空き家は多くないです。新耐震基準が適用された昭和56年6月1日以降に登録された物件は、耐震もしっかりしていますから、ある程度新しく、そのまま使える物件も多くあります」
よりよいマッチングのためにスタッフさんが苦心されていること
――例えば今、空き家になっていて、所有者がわからないケースなどはありますよね?そういう物件や、そもそも空家活用相談窓口を知らないなど、ほったらかしにされているけれど使えそうな物件に対して、アプローチする方法はないのでしょうか?

田中 「まさにそれが、なかなかマッチングが進まない理由でもあります。外から見て空き家かな、と思っても、ご本人は『荷物を置いています』、『いずれ子供が戻ってきたら使います』、『今は施設に入っているけどまた戻ってくる予定です』など、様々なご事情があっての現状ですので、私たちが “ここは、空き家ですよね?”と勝手に推測して尋ねることはできません。
例えば、空き家を事実上両親から譲り受けていても、法的な権利はまだご両親が保有している場合は、ご両親に手続きをしていただく必要があり、結果的にそのままにしていることも多いと思うのですが、こればかりはどうしようもないですね。
私たちとしては、ちらしなどを作成し、広く空き家活用事業の周知に努めています。所有者の方には是非お気軽にご連絡いただければと思います」
――空き家を借りるときに水回りの有無は大きいと思うのですが、倉庫とか駐車場の需要はあるのでしょうか?例えば、バザーの出店や作品などを展示するだけの部屋、などに使うことも可能でしょうか。
田中 「こちらの窓口で対象にしている空き家は、家なので、いわゆる倉庫とか駐車場は対象外になります。また、例えば2世帯住宅で出入口が別ですとか、 タウンハウスみたいに壁等を共有していても、玄関がそれぞれあります、という場合は大丈夫ですが、『お家の一室だけが空いている』といった場合は、そこに人が住んでいるうえでの“空き部屋”とはなりますが、こちらは“空き家”ではありません。区としては空き家になっている物件を1軒でも減らそうというのが目的ですので、対象外については、他の窓口などを紹介しています」
――他にマッチングする時に苦労されること、借りる側と貸す側の間に入って、取り次ぐ時のご苦労にはどんなものがありますか?
嶋田 「一番は、登録物件がすごく少ないことですね。現在、借りたいと言って活用希望の登録をしていただいている団体等は、20件弱いらっしゃいますが、それに対して、貸したい側の物件の登録は1軒ですので、ご紹介ができる物件の数が少ないことですね。
練馬から東側エリアは活用希望は多いのですが、逆に、このエリアの空き家の登録はほとんどありません。また、物件があっても条件が合わずに、なかなかマッチングが進まないこともあります。実際にすごく綺麗にお掃除や手入れをされていて、こんなにいい物件は、すぐに借り手が見つかるんじゃないかな?と思っていたのですが、逆に面積が大きすぎてそこまで使い切らない、などの理由で手が挙がらなかったケースもあります


一概には言えないのですが、登録いただいた所有者の方は、思いのある方が多いです。例えば亡くなられたお母様から、『地域のために役立てて欲しい』と言われている方であったり、自分が小さいときに地域の方が集まる場所だったので、今後も同じような場所にしたいなど様々です。このため、お話をする中で、『これこれこういう活動だったら(最初の条件と合わないけれど)ぜび貸したいです』など話し合いで決まってくるケースもあります」
【バックナンバーのお知らせ】
「NPO法人自然工房めばえ」は、以前にシニアナビねりまのサポーター体験記で取材しております。今回の記事と合わせてぜひご覧ください。
<リンクはこちら>
https://snavi-nerima.jp/supporter/detail.php?id=sprepo163
――借りる側にとっては補助金があるので、それはとてもメリットになると思いますが。
田中 「そうですね。補助金をうまく活用したいと言う方も多いです。補助金の条件は、まず構成員3人以上の団体が公益的な目的での活用で、活動に不可欠な改修工事および設備の設置工事等の場合に受けることができ、最低5年間は継続して使っていただきます。
これまで、高齢者が来るので段差を解消するとか、子供が来るので柵を作るといった改修工事がありました。耐震改修とか構造的な工事などではなくて、活動するために必要となる改修や設備の設置などに補助金が出ています。
活用希望団体の方は、ボランティアや非営利団体など、利用者からは、材料費程度の会費等で活動している方が多いので、補助金の上限額100万円と言うのは大きいと思います」
補助金制度をうまく活用し、時流に乗った物件を提案
――借りる側ではなく、貸す側の方には何か補助はあるのでしょうか?
嶋田 「耐震工事の補助金、『耐震化支援制度』がありますね。詳しくは、練馬区で作成している“建築物に係る耐震化支援制度の手引き”というパンフレットに記載されています。耐震工事は結構お金がかかりますし、補助率があるため、全額補助にはなりません。個人の持ち出しが必要になるので、ハードルが高いかもしれませんが、少しでも負担が軽くなるために活用していただければと思います」

――その補助率は何%くらいなのでしょうか?
田中 「パンフレットを見ると、耐震診断、実施設計、改修工事と内容によって異なります。また、対象地域などの条件もあります。まずは、パンフレットをご確認いただき、詳細については、練馬区の防災まちづくり課 耐震総合窓口にお問い合わせいただければと思います」
――空き家は、練馬区の場合、大泉など西側の方が多いのでしょうか?あと現在では、コロナ禍で閉店した店舗さんなどから、そういった(貸し出しの)問い合わせや相談はあるのでしょうか?

田中 「空き店舗自体は多くはないです。店舗の登録は過去に1軒ありましたが、それ以外は全部普通の住宅でした。店舗は、地域の活動場所として、あえて活用・提供する、という発想がそもそもないかもしれないですね。ただ、空き店舗を使って地域の居場所作りのような活動をされている方がいらっしゃることは把握していますが、こちらの事業では、そういった事例はないですね。
そもそも“空き家”と言うと、皆さんが店舗として活用するイメージがないのかもしれませんね。」
――私たちが住む街の、誰かの住まいが、地域を新しく盛り上げていく「場」になることは、とても喜ばしいことですが、そのために様々な条件があること、またその条件の中、より良い繋がりを見つけるみどりのまちづくりセンターさんの活動は、勉強になる反面、空き家の活用は、超高齢化社会である日本の一つの大きな課題と認識しました。まずは活動に興味を持ち、また積極的に参加をするところから始めてみたいと思います。
■イベントのお知らせ
8月13日(土)に『空き家のセミナー&個別相談会』を石神井の区民交流センターで行うため、ホームページ・チラシ・区報で広報されているそうです。
今回の記事で興味を持たれた方は、その活動内容を、確認してみましょう!
https://nerimachi.jp/eventinfo/akiya220813.php
サポーターの取材後記
- ミムちゃん
- 私は今回、サポーターとして初の取材で、とても緊張しました。取材の中で、空き家対策での活動の苦労を伺いましたが、これは民間企業の協力や協働があると、もっとお仕事が捗るのかなと思いました。今回、お話しを伺った田中さんと嶋田さんは、とてもわかりやすく説明してくださり、取材を忘れて、会話が盛り上がるくらいの良い雰囲気でした。これからの時代は、行政・市民・企業・大学・そして子どもから大人まで、誰もが「地域づくりのプレーヤー」となる時代を迎えていると思います。多様な活動と、まちの空間資源を結び、もっともっと暮らしやすい居住環境をつくるためには、区民一人ひとり関心と協力が必要だと思います。空き空間を共用することで、互いに夢を描き、未来を語り合い、力を合わせてこの先の未来への一歩を踏み出してみるのはどうでしょうか?もし、これを見られている練馬の大家さんがいらっしゃいましたら、空き家の相談は、まず「練馬区空き家活用相談窓口」に行ってみましょう!きっと新たな出会いがあると思いますよ。
- みゅうにゃん
- 「空き家」と聞いてニュース番組で見かける様な壊滅しそうな家屋を想像してしまいましたが、こちらで扱うのは眠っている空き家や空き室を地域に役立てるように有効活用するための「物件のマッチング」です。
既存の建物に対して耐震改修工事をしたり、新たな機能や価値を付け加えたりして使用する、プチ・リノベーション活用とでも言いましょうか?
適法性、耐震基準を満たしているなどの条件をクリアーすれば、使われていなかった場所が、親子や子供たちの居場所や高齢者や障碍者を支える場所などに活用され、コミュニティ形成の場所として、また生まれ変わることができます。
休日に近所を散歩していると、庭が荒れ、朽ち果てかけた家屋を見かけることが増えてきたように思います。誰も担い手がいないのだろうか?なんだか寂しい気持ちが込み上げてきます。今回の取材はそんな思いを払拭するためにもとても大切な取り組みだと思いました。
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シニアナビサポーターが取材してきました。 -
大切なのは、コミュニケーション。障害者に優しいI Tとの付き合い方
「練馬ぱそぼらん」は、練馬区に住む、障害がある方々に、
パソコンを含めた様々な支援事業と、パソコンボランティアを育成するN P O法人です。
様々なI Tの技術や経験を持ったメンバーで構成されていますが、
支援でもっとも重要なのは知識ではなくコミュニケーションなのだとか。
今の時代だからこそ、その需要は増しているという活動の中身に迫ります。