サポーター体験記
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“終活”は、終わりではなくきっかけ、人生の理想を叶えるエンディングノートの向き合い方
- 取材日
- 令和3年12月14日
- 更新日
その一風変わったご経歴とは
皆さんにとって大きな関心ごとの一つに終活があると思います。
「エンディングノート」を耳にしたことがある方、持っている方、まだ書いていない方。
人それぞれに様々なケースがあると思いますが、社会人落語家で行政書士でもある
生島さんのお話しを聞くと、なんとなく手付かずだったノートの筆が進むかもしれません。
取材ご担当:行政書士 生島清身さん
※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
名称:きよみ行政書士事務所
所在地:東京都大田区
電話:03−6884−1848
URL:http://www.kiyomijimusyo.jp/
行政書士落語家の誕生!きっかけは着物教室だった?!
――きよみさんは社会人落語家とのことですが、落語に興味を持たれたきっかけを教えてください。
生島 「いつも講演の最初にお話ししているのですが、女性で落語をされる方は珍しいですよね。行政書士なのにどうして?ってよく聞かれます。
私は、子供に恵まれなかったため、41歳の時から不妊治療を始めました。仕事をしながらの治療でしたので、突然仕事を休まざるを得ないような状況になった時にとてもストレスを感じたんです。そこで、治療に専念しようと思い、43歳の時に一旦仕事を辞めました。そうすると、病院以外の時間にかなり余裕が出来たので、治療の妨げにならない程度に自分のやりたいことを始めようと思いました。それが、以前からずっと興味があった着物の着付けだったんです。
着付け教室に通って半年くらい過ぎ、一通り着られるようになったのですが、教室はそこでおしまいです。着物を着ない生活に戻ったら、せっかくお金と時間をかけて習ったことを忘れてしまいそうで、勿体無いなと。着物を着る機会が増えるように始めたのが落語という訳です。

とてもわかりやすいです!さすがは噺家

講演の様子
私は生まれてからずっと大阪に住んでいたのですが、着付け教室に通い始めたくらいのころ、繁昌亭(はんじょうてい)と言う寄席小屋が完成しました。素人向けの落語教室開催の記事を目にしまして、2期生として、繁昌亭の落語教室に通い始めました。これが2007年のことです。1期生の募集は定員がオーバーだったと聞いていましたので、私も抽選になるなら諦めようと思っていたのですが、意外と人数が少なくて、噺家の先生が『ここにいらっしゃるみなさんは、全員ぜひ受講してください』と言うんです。それならやってみようかな、となりました。
ちょうどその頃、N H K連続テレビ小説で落語を題材にした『ちりとてちん』も開始され、そのヒロインが偶然、きよみちゃんと言いまして(笑)。しかも確か、二人出てくる設定なんですよね。それで、もうこれはやるしかないなと思って門を叩いたのが、落語を始めるきっかけです」
――先生の落語は終活がメインテーマで、「天国からの手紙」と言う創作落語をされていますが、これはどのようにして生まれたのでしょうか?

オンラインで高座を聴いての質問
生島 「落語は一年半習ったのですが、そもそもの入り口が落語ではなく着物でしたので、当時は良い思い出作りくらいに考えていました。教室の仲間たちは同好会を作るなどして、老人ホームへ慰問に出かけたり、ボランティアでアマチュア落語会を開催していたりもしました。私も誘いを受けましたが、実は落語教室に通っている間に、行政書士の試験勉強もしていたんです。通いながら受験もして、合格したことがわかったので、教室が終わる時に開業しようと思い2009年の6月から行政書士を始めました。
ちょうど不妊治療に区切りをつけようと思っていた時で、年齢的にも元の事務職で再就職するのは難しい状況だったことも理由です。
開業時には、行政書士は何ができるのか?営業をどうやって行うのか?など全くわからない状態でしたから、行政書士会が開催する実務の研修を受けるなどして過ごしていたのですが、ある時フリーライターの友人から、とある葬祭店で相続のセミナーがあるから、仕事の参考になるかもよ?と誘いを受けて、行ってみたんです。そのセミナーが、落語家さんと法律の専門家がペアになって、落語を交えながら楽しく学べる内容だったんです。『あぁ、こういう説明の仕方もあるんだ』と思ったと同時に、私ならこれ、一人でできちゃうな、と考えました。2人分の謝礼もかからないので需要があるんじゃないかと思いまして(笑)。そこから相続に関する落語を作ってみよう!となりました。
落語教室では落語の作り方は教えてくれませんでしたが、落語自体が会話で成り立っているので、なんとかなるかと思い、パソコンに向かいました。最初は、自分の行政書士という仕事をP Rしたい思いがすごく強くて、聞いてくれたお客さんが、相談に来てくるように、話の中に行政書士が登場して、あの先生に聞いたら一発で問題が解決したよ!という実に都合の良いストーリーを考えていました(笑)。ただ、作っていくうちに、どうも落語では、そういった説明っぽい内容がそぐわないことに気づいたのです。そこで、行政書士の仕事のことは一旦置いておいて、新たな気持ちでゼロから作ってみることにして完成したのが『天国からの手紙』です」
――書き始めてからどのくらいで完成するのでしょうか?1ヶ月くらいですか?
生島 「いえ、基本となるプロットは1日ですね。もちろん、そこに至るまでは様々な葛藤がありましたので、全体で考えるとすぐに完成したわけではないのですが、古典落語に多い男性の主人公ではなく、女性にしよう、ですとか、それはお母さんにしてみよう、あの世という舞台を設定しよう、と考えていったら、その後は比較的すんなり完成したと思います。何かの実例をもとに作ったわけではないのですが、勉強はしました。

することで、内容がぐっと身近に
例えば話の中に、遺言書の書き方のシーンが出てくるのですが、別の専門家が聞いた時に『おかしい』と言われないように厳密に作っています。他にも不動産は分けにくい(きっちり何分の1ずつ分けづらいので揉める原因になる)というくだりもあるのですが、この辺りも広くリサーチして、一般的によく聞く話に合わせるなどの細かな調整をしています。また、主人公であるお母さんは、向かいに住むよしこさんにいつもお世話になっているのですが、自分がいなくなった時、飼い犬のポチをよしこさんにお願いしたい、という気持ちがあるので、よしこさんにも財産を残したいとなると、天国への案内人が『それですとやはり遺言書が必要になりますね』とアドバイスをしたり。このように、ペットの問題や法定相続人以外の方に遺産を残す場合など、現在の社会で取り上げられている状況を盛り込みました」
エンディングノートは終わりではなく、残りの人生の理想を叶えるためのもの
――私たちがいざ終活を始めようとなった時、何から始めれば良いのでしょうか?
生島 「その方の関心があることから始めることが良いと思います。もし特に思い当たらないのであれば、私はまず、自分自身について考えてみる、というところから始めていただいたらと思います。エンディングノートの講座でも毎回お話ししますが、大抵のノートはページをめくるとまず自分のことを記入する欄が出てきます。本籍地に血液型、好きなことや特技、何歳くらいの時にどんな出来事があったのか、といった自分史のようなものですね。これらを整理すると、自分がやりたかったことや出来ていないことが見えてくるんです。少しでも、今からでも理想の自分に近づくきっかけにして欲しいと、私は思います。もちろん出来ることと出来ないことがあると思いますし、必ずそのようになれるわけではないのですが」
――なるほど。終わりではなく、これからを改めて考えるということなんですね。私が知っている一般的な終活のイメージと随分違う印象があります。いい考え方ですね!

1つとして意識してしまうもの
生島 「そうですか?そう言われると、私が今までお話ししてきた講演に意味があったのかな、と思えて嬉しいです。みなさん、例えば病気になられたり、お仕事をリタイアされたりと何かきっかけがないと終活を始められないイメージを持たれています。確かに年齢で言えば60歳くらいが一つの節目にはなるのですが、それを過ぎたらもういつでもいいと思うんです。好きな数字でも、誕生日でも、思いついた時でも。また、エンディングノートは年齢問わず書いていただきたいということもよく話しています」
――終活というと、写真を整理したり、手紙を処分したりと、思い出の整理から始めるイメージですが、モノに関してはどのように考えていけば良いですか?
生島 「それぞれが思う、自分にとって必要なことは異なると思います。写真や手紙を必ず整理しなければならない、などはありません。これをやっておこうと思われたことから手をつけていくのが良いと思いますよ。
私の場合エンディングノートでは5つの項目をお話します。1つ目が私(自分)についてです。2つ目が医療や今後の介護についての考え、終末期医療や延命治療についての希望ですね。3つ目が葬儀やお墓についての考え、4つ目が財産や相続。最後が大切な人に対して伝えたいメッセージです。どこからやるという決まりはありませんし、もちろんこの項目以外にも自分でやっておきたいことがあれば、それを優先して構いません。頭から4つは、私が思う理想の優先順位です。私は最後までその人らしくどう生きるか?ということにつながってくることが大切と考えています。エンディングノートはその人が思い描く人生を歩めるように存在するものだと思いますから。
厚生労働省が出しているデータによりますと、例えば延命治療が必要になった時、7割の方が、自分で自分の意思を示せない、ともあります。そうなった時にご家族や医療・福祉関係者が短い時間の中で重要な判断をしていかないといけなくなります。それを今のうちに宣言しておきましょう、ということなんです。一方で判断をするということはつまり、選択肢があるということです。自分でものが食べられなくなったり、呼吸ができなくなったら終わり、ということではないのです。選択肢があることで、面倒くさかったり逆に苦しむことがあるかもしれませんが、私は、今の日本で生きている私たちは、様々な選択肢があり、それは幸せなことなんだと考えた方が良いと思います」

落語に反映されているのですね
あなたにとって大切な人へのメッセージこそ、大事にしてほしい
――天国からの手紙はもう、300回くらい話されているようです。人生の本質的な話ですと難しくなることもあると思うのですが、演じられてお感じになることはありますか?
生島 「この演目は相続や遺言がメインの側面があるのですが、後半、お母さんは子供たちに自分の考えを伝えておかなくちゃと手紙を書くんです。この部分がまさに、エンディングノートに代わる部分であったり大切な人へのメッセージでもあります。私はそこを感じ取っていただきたいなと思っています。現実問題に対処することも大事ですが、その前にまず、きちんと自分の考えを大切な人へ伝えておくというのも同じように大事なことなのです。むしろこちらの方こそ大切にしてほしいということを、落語を通じて感じていただけたら嬉しいです。ですから、私の講演は相続や遺言のセミナーではなく、エンディングノート作成のセミナーにつながることが大半です。行政書士から始まっていますが、法律の話はほとんどしませんから、あまり行政書士としてのお仕事をしていないのが現実ですね(笑)。この話をする時に、国家資格である行政書士の肩書きは、とても説得力が出ると思います。肩書きを利用させてもらっていると思っています」

なんと300名もの来場者が!

それがきっと、魅力に繋がっているのでしょう
――行政書士という商売のお話をされないところが、信頼や講演の依頼につながっているのでしょうね。
きよみさんの話によれば、近年、相続に関するニーズが増えているようで、専門家も数も増加傾向だとか。ところが
親族同士で揉めたり、家族なのに、感情で区別するような現状に嫌気がさして、この手の相談からは一定の距離を置いているのだそうです。
私たちにとって、関心のある話題の一つとしての終活。きよみさんのように前向きに、また楽しく向き合えるような機会があることを知り、私たちも元気をもらいました。是非一度、イベントにも出かけてみようと思います。
サポーターの取材後記
- 豆柴
- 生島さんの講演をZOOMで視聴し、面白く分かり易くぜひ皆さんにも紹介したかった。
実際にお会いした印象は、高座での華やかな着物姿とは別に、控え目なお人柄。転職、不妊治療、難関の行政書士への挑戦、合格など、ご自分の人生を振り返りながら行政書士としての法律の専門知識を生かしつつ落語を通じて人情話を講演する。まさに一人二役、それだけに一言一言に感銘を受ける。着物を着たさに落語の世界へ、動機には何かほんわりしたものを感じた。
エンディングノートが私の机の中にあり、手付かずである。特に記載に優先事項はないとのお言葉であり、肩ひじはらずに自分なりに記録を始めよう。人間らしく生きる、これからの人生を思い描きながら、何をしたいか考えることは必要と改めて思った。多くの貴重なアドバイスを頂いた。今後の活動に大いに期待したい。 - ヒロちゃん
- これまで、「終活」や「エンディングノート」は、正直大変重いテーマであり、余生を強く感じる年齢や状況(病気等)で考えるべきもの(むしろ、考えることは先延ばししたいもの)と認識していました。
しかし、生島さんのお話は、過去を振り返り、今後の人生を考える機会とするという、(肩の力を抜き、)誰でもがどんな時でも機会を得て行いたいものとの内容で、まさに「目から鱗」でした。また、その考え方を広く伝えたいと、行政書士の仕事とは元から切り離し、「天国からの手紙」の落語を300回以上実施されている純粋な思いとご活動に、深く感動しました。
まだコロナ禍が続き、ご講演活動が制約されるかもしれませんが、今回の取材内容がシニアナビねりまに掲載されることで、「天国からの手紙」の素晴らしさが、より広く伝わるよう願っています。
生島さんの純粋で素敵なお人柄に触れる事ができ、清々しい気持になりました。全国で講演を聞かれた多数の皆様も、同じようにお感じになっていると思います。
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皆さんにとって大きな関心ごとの一つに終活があると思います。
「エンディングノート」を耳にしたことがある方、持っている方、まだ書いていない方。
人それぞれに様々なケースがあると思いますが、社会人落語家で行政書士でもある
生島さんのお話しを聞くと、なんとなく手付かずだったノートの筆が進むかもしれません。