サポーター体験記
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社会的な自立を本気で支援する町の製菓店、店に工場に流れる心地よい風

社会的な自立を本気で支援する町の製菓店、店に工場に流れる心地よい風
練馬駅から徒歩数分の場所ながら、自然を感じさせる佇まいの店舗

練馬駅と自宅を往復するつど、なんとなく目が行く小さなお店があります。
その佇まいや雰囲気がとてもおしゃれな焼き菓子屋さんです。
緑に囲まれたテラスと庭には、四季折々で輝く花たちが目に鮮やかです。
ここは社会福祉法人花水木の会が運営している、知的ハンディキャップを持つ方の働く場、「かすたねっと」です。

社会福祉法人花水木の会(かすたねっと)

※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:理事長/矢吹 一夫さん
所在地:練馬区練馬2-1-9
電話:03-3948-1640
URL:http://www.casta.jp

美味しいクッキー・ケーキはこの場所から生まれています

インタビューの前に、活気にあふれる厨房を少しだけ覗かせていただきました。


――こちらの厨房は朝何時くらいから稼働しているのでしょうか?

 基本的に皆さん、サポートや指導員がつくことなく各自役割分担をして作業をされています
基本的に皆さん、サポートや指導員がつくことなく各自役割分担をして作業をされています
 皆さん、テキパキと持ち場の業務をこなしていますね
皆さん、テキパキと持ち場の業務をこなしていますね
 ねりコレにも認定されている人気商品、キヌアクッキーはしっかりとした歯応え
ねりコレにも認定されている人気商品、キヌアクッキーはしっかりとした歯応え

矢吹 「朝9時から夕方の4時までです。今作っているものは全て店舗用ですが、一部インターネットでオーダーされるケーキなども作っています。
現在は『スーパーサカガミ』の各店さんでも取り扱っていただいています。(野方・清瀬・駒込店)
それから『ねりコレ』にもキヌアクッキーが選ばれていますよ」
※ねりコレ…練馬のおすすめ商品コレクションのこと。2年に1度、練馬のお土産を審査して選出している。
現在は2022年版の発表に向け準備中。



――従業員さんの年齢はどのくらいでしょうか?


矢吹 「平均すると30歳くらいだと思います。私どもは創業してから36年ですが、当初から在籍のメンバーには50歳を過ぎる者もおります」


――それだけ長く働ける環境、ということですね!この辺りについても詳しくインタビューさせていただければと思います。

自らが作れる商品を!専門家のいない製菓店

――改めまして、かすたねっとさんの設立や現在の業務の内容について教えてください。

 法人理事長の矢吹さんにかすたねっとさんの歴史を聞きました
法人理事長の矢吹さんにかすたねっとさんの歴史を聞きました

矢吹 「私どもは1987年に練馬区の江古田にある旭丘小学校の、当時は特殊学級と言っていたのですが、そこの父母たちが立ち上げたのが始まりです。
その当時は、知的障害者の就労の場が今ほどありませんでした。
あったとしても福祉作業所くらいでして、余暇活動主体のものでした。
そうではなくて、もう少し働ける場所が欲しいということで、有志が集まって設立しました。
当時、目黒区の恵比寿に『ぱれっと』というクッキー店がありまして、そちらに私ども父母たちが見習いに行きました。
その後、『ぱれっと』の練馬支店を開設したのが始まりで、1997年にぱれっとから独立して、現在のかすたねっとになりました」



――今の店舗はこちらのほかに、いくつありますか?


矢吹 「ほかには、餃子店とハーブティーのお店もあり、全部で3つのお店を運営しています。
私どもは、利用生(※)の“暮らし”をテーマとして考えており、グループホームも運営しているほか、余暇活動支援として、移動支援というものも行なっています。
彼らの生活を全般的に支えていこうと考えているわけです。
具体的には、働く場を作る、暮らす場を作る、余暇活動の場を作る、この3つの柱で考えています。やはり暮らしていくためには、彼らの経済的な支援をどのように行なっていくか?を考えないといけません。
その結果、こういった生産活動をし、賃金・工賃を得ることで、グループホームでも暮らせるようにしていこう、というわけです」
※利用生…こちらの施設を利用している皆さんのこと。施設に「入る」ではなく、「利用している」意味合いです。



――矢吹さんは、どのようなお立場でこの店舗に携わっていらっしゃるのでしょうか?店舗のご紹介もお願いします。


矢吹 「この店舗は私の妻が始めました。私自身は55歳の時にそれまでの会社を退職しここに携わることになりまして、2001年に社会福祉法人を立ち上げました。
妻ですが、先ほどお話ししましたように、『ぱれっと』さんに修行に行き、一通りの製法を学び、障害のある子供たちの親御さんたちと一緒に始めました。
この店舗には現在20名ほどの従業員がいます。
餃子店には3名、ハーブティーの店には5名ですかね。この他に職員が9名おります。
職員は彼らの親御さんではなく純粋な従業員で、福祉関係の資格を持ったものもいれば、そうで無いものもいます。調理師はおらず、覚えた知識をベースに商品を開発しています。
その意味では、お菓子の専門家は一人も居ないのです。
というのは、かつてはパティシエや有名な専門家を呼んだり、お菓子作り専門の職員を採用したりと、様々な手法で商品作りを試みたのですが、彼らが提案するものは、一言で言えば、難し過ぎるのです。
もちろん美味しいのですが、今の体制で再現できないと意味がないわけです。
過去に開発したレシピで唯一残っているのが、チーズケーキでしょうか」

 こちらも人気商品のチーズケーキ、シンプルなレシピだからこその純粋な味わい
こちらも人気商品のチーズケーキ、シンプルなレシピだからこその純粋な味わい

――ただ、店内やチラシを拝見する限り、いわゆる一般の製菓店と遜色のない商品だと思います。


矢吹 「ありがとうございます。全国の障害者のお菓子コンテストで、チョコレートケーキは銅賞を取っていますし、レモンケーキは奨励賞を、クッキーはねりまの名品21を受賞しています。
受賞の理由は全て“シンプルで美味しい”なのですが、利用生が自ら全て製造している点を高く評価してくれました。
他店のものは皆、職員が手伝っていると。
先ほど厨房で見ていただいた通り、職員を探す方が難しいくらい利用生が積極的に自立しています。
その意味では彼らは本当の作業者であると言えます」

利用生の感性をチラシのデザインに採用!のびのびと描かれるクッキーたち

――こういったチラシや店舗のデザインもとても洗練されており、おしゃれな印象です。

 温かみあるデザインのチラシの絵と文字は利用生自らが描いているとのこと
温かみあるデザインのチラシの絵と文字は利用生自らが描いているとのこと

矢吹 「デザインは専門家にお願いしております。こちらのコンセプトを伝えて、形にしていただいています。
チラシは皆、こちらの利用生が絵を描いているんですよ。
プロではないですから、バナナケーキなんか、実際にはこんな形ではないのですが(笑)、バナナのイメージで描かれています。

 利用者のデザインを楽しそうに話す矢吹さん、物販で完全イメージでの紹介は斬新ですね!
利用者のデザインを楽しそうに話す矢吹さん、物販で完全イメージでの紹介は斬新ですね!
 りんごのケーキも“たくさんりんごが入ってるよ”を表現しているとのこと
りんごのケーキも“たくさんりんごが入ってるよ”を表現しているとのこと

ちなみにこの建物は黒川紀章のデザインです。
もともとここは城北信用金庫さんのものでして、彼らが撤退する時に『1階部分を店舗として貸して欲しい』とお願いしたところ、『1棟まるごとだったら許可します』という条件だったのです。
当時、賃料が月に50万と言われて保留していた時期がありました。その頃ここにはバレエシューズの専門点があったと思います。
それで、そのシューズ店が撤退する時に、なんとか頭金ができましたため、購入ということになりました。
買うときの条件は『黒川紀章の記念として、この建物を壊さないこと』でした。
別の買い手もいたようですが、その方は、ここを更地にして利用することを考えていたようで、私どもに譲っていただけました。柱がない部屋や、天井採光、螺旋階段などもそのままで、洗練されたデザインであると思っています。
庭は武蔵野の雑木林をイメージしており、12種類もの木が植えられています」



――春になると庭先にミモザが咲いたり、木香薔薇が香ったりと、とても綺麗な場所ですよね。
先日も前を通りかかったら、親子連れでしょうか?お茶を飲んでいらして優雅な時間が流れていました。
夕方には皆さんで道路の掃き掃除なんかもされてて。。お店にはファンも多いのではないかと思いますが。


矢吹 「テラスではすごく気持ちの良い風を感じることができますし、鳥もやってきます。
道に出ている長椅子には、ご近所のお年寄りが、お客さんでなくても休憩で利用していたりもします。
テラスはおっしゃる通り、お子さん連れの方が結構お見えになりますね。ちなみに、店舗は木曜と日曜がおやすみです」

 自慢のテラス席、開放的かつ緑あふれる空間は、季節の移ろいを感じられます
自慢のテラス席、開放的かつ緑あふれる空間は、季節の移ろいを感じられます
 ここなら小さなお子さんが少し大きな声を出しても安心ですね
ここなら小さなお子さんが少し大きな声を出しても安心ですね

社会的な自立を支援する、製造から販売までを利用生に託す思い

――ここでお仕事をされたい、と思い応募される方も多いのではないでしょうか?


矢吹 「そうですね。お問合せは結構いただきますが、毎年2名ほどしか採用しません。
というのはもちろんたくさんの人数を採用できれば、それだけ支援の予算も入ってくるのですが、お金のことではなく、その子が一人前になるために、マンツーマンで指導・育成していますので、毎年少人数の採用なのです。
彼らとコミュニケーションが円滑できるようになるまで時間がかかります。一人前になるまで最低でも3年かかるのです。
しかし、育ちきりますと職員が声を出さずとも、自らの判断で仕事ができるようになるんです」      



――区内の就労移行支援事業所で聞いた話では、障害のある方が就職に向けた訓練をしていて、2年で社会に出ていかれるのですが、なかなかご本人に合う就労先が見つからないようです。


矢吹 「私どもも同様で、一般企業に就職した皆さんがまた戻ってくるというケースも多いです。
一般就労の皆さんは、大体3年ほどでお辞めになっています。
色々なケースもありますが、解雇されることも少なくありません。そういった皆さんが帰ってこられる場所としても、ここの存在意義はあると思っています。
一般企業に就労することは利益を追求することですから、生産性や効率性をどうしても重視します。
これには良い面と悪い面があると思います。その意味では一般企業と目指しているところは明確に違います」

 一般就労後に戻ってくる方のためにもこの場所を確保したいと話す矢吹さん
一般就労後に戻ってくる方のためにもこの場所を確保したいと話す矢吹さん

――グループホームも運営されている、ということですが、かすたねっとさんにいらっしゃる皆さん、そちらに住んでいるということですか?


矢吹 「全員ではありません。しかし、社会的自立というのは、生活がしっかりできないと成り立たないと思っています。
生活とはなにか?と考えると、一つの例としては、それぞれのご家庭でのしつけも(最低限の社会的規範を身につける上では)大切な要素であると思うのですが、残念なことに、これらが機能しない家庭もあるわけです。
ですから解決策の一つとしてグループホームに入っていただいて、私たちからも生活基盤もしっかりサポートし、日常生活も教えて、かすたねっとに通ってもらうと。
家庭が何より大切なのですが、必ずしも皆さんがそうでないので、まとめて私達が支援できる体制を持っていないとなのです。


社会的な問題も背景にあります。こちらの利用生の親御さんが後期高齢者になっており、利用生の将来を守れないというケースも徐々に増えています。
グループホームは先ほどの家庭の代わりという目的以外に、将来を託すという別のニーズが出てきているのです。
ただ、グループホームもそれなりにお金がかかります。やはり利用生がある程度自分で稼げるようにならないと、なかなか難しい面もあると思います」



――皆さん、自分が作ったものが売れる、というのは物凄い喜びではないでしょうか?


矢吹 「おっしゃる通りで、販売も彼らが行なっています。
お客さんから『美味しかったよ』、とか『ありがとう』と言われるととてもやりがいを感じるようです。
生産から販売まで一貫して携わっているのはそういう意味もあるんですよ」


――矢吹さんのお話をお伺いし、素晴らしい活動をされているかすたねっとさんをより多くの区民・高齢者のみなさんに知っていただきたいと思いましたし、何より購入という行動で、応援したくなる魅力あふれるお店でした。

 洗練された店内、什器や内装にも相当なこだわりを感じます
洗練された店内、什器や内装にも相当なこだわりを感じます
 様々な味が楽しめるクッキー類、ちなみに素材そのものも販売しています!
様々な味が楽しめるクッキー類、ちなみに素材そのものも販売しています!

サポーターの取材後記

Mita?
一見、普通のクッキー屋さんに見えますが、矢吹理事長とお話をしていて、障がいのある方が長く働ける場所の提供だけではなく、その人たちが働きやすい環境を整えること、社会的な行動への学びへの誘導と、とても長いスパンで物事を考えていらっしゃることが伝わってきました。
甘い香りの工房は静かでした。夕方時折見かける、お店の前の道をお掃除するときの少しほっとして和やかな感じとは違い、きりっとして一人一人が作業に集中しています。働くことに懸命な姿勢を感じました。食べ物を扱う上で最も大切な清潔感を感じました。
私が工房の近所に住んでいることもあって、ここに通う利用生を外でもよく見かけますが、まだ少年の面差しをしていた方が、大人の顔に変わっていく様子、一所懸命に通っていく様子をみていると、ここは、働く場として生きていく場として必要な場所なのだということが分かります。
2番さ~ん
こんなにも心が温まり、豊かになった取材は初めてでした。
区民の皆様に、「かすたねっと」のクッキーの美味しさだけでなく、知的ハンディキャップを持つ方々が、ここまで心を込めた手づくりのクッキーを作り、販売している姿とお店の紹介をしたいと強く思いました。
その味わいは「特別」であるとか他とは違う等々でなく、ごくふつう、わりあいふつう、いや、シンプルですが、まさにお店のパンフレットに書きとめられているように、「ちょこっと響く」がピッタリ。この様なクッキーここだけです。
パンフレットにはこうも書かれています。『おいしいものを焼く(作る)ことが、わたくしたちのしあわせです』と。
そして「かすたねっと」とは別に、文化センター脇に「中華店」が、大門通りには「HERB AND」店もあります。仕事場には「同情でなく潜在能力発揮の場を」の一文が掲載された新聞の切抜きが掲示されてもいました。
続編を取材したい気持ちで一杯です。

サポーター紹介

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