サポーター体験記
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東大泉3丁目地域だけで飲める?!名水の秘密を訪ねて

東大泉3丁目地域だけで飲める?!名水の秘密を訪ねて
取材の記念に!おいしい水を飲めば、
肌のツヤも良くなるかも?!

私たちの生活に欠かせない、水。年齢を重ねると、特に直接口に入るものの
大切さに気づきます。練馬には、大泉名水会という、井戸水を地域に供給する
団体があります。上水道が張り巡らされた東京で、なぜ練馬に井戸水の供給が
残るのか?またその始まりは…?シニアナビサポーターが調べてきました。

大泉名水会

※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:所長/安島 敬さん

所在地
練馬区東大泉3-38-13
電話
03-3922-5460
URL
http://oizumi-meisui.com

大泉名水会の歴史、最初は誰のためにひかれた水?

安島 「大泉名水会は井戸水を地域のみなさんに供給している会です。
多くのみなさんがご質問されるのが『東京都水があるのに、
なぜ大泉名水会は独立した水道組合のように存在するのですか?』という点です。
これに関しては歴史が古く、今からおよそ80年前、1941〜42年くらいですが、
市ヶ谷から朝霞に陸軍予科士官学校が引っ越すことになったとき、
その職員のための住宅を妙延寺の北側の原っぱに作りましょう、という話になりました。

 大泉名水会の所長、安島さん
資料が豊富で説明もわかりやすい!
大泉名水会の所長、安島さん
資料が豊富で説明もわかりやすい!

今の東大泉3丁目、現在おおよそ750世帯ぐらいの方が居住されているのですが、
ここに(計画では総戸数600戸の)住宅を作るとなると、当然、電気や水も必要になります。
水は、昔は東京都内の個人宅でも井戸を掘ることがよくありました。
個人で個別に掘って水源を確保するか、あるいはまとめて掘って、
出てきた水を供給するか?という話になります。
住宅の計画が広範囲でしたから、1軒ずつ掘るのはやはり大変だったのでしょう。
そこで昭和16年に77mくらいの深い井戸を掘ったのです。
そして、翌昭和17年から、これを配水管で各ご家庭に送ったのが始まりです。
それ以来、およそ80年にわたりこの地域の皆さんに水を供給しています」
※昭和17年の当初は20~30戸、昭和20年初めには350戸前後のご家庭に水を供給。



――現在、井戸があるのはここだけなんでしょうか?
また、 自宅に井戸がある場合はそのまま飲んでも良いのですか?


安島 「実は、ここ東大泉や隣の上石神井などにも、現在も井戸の残っているお宅があります。
ただ、3.11の東日本大震災後に、だいぶ水質が変わったようで、
飲用としては(安全性が担保できないため)使わないでください、となったのです。
もちろん、草花への水やりや洗車など、生活用水として利用する分には一向に問題ありませんが、
飲用に利用してはいけませんよ、ということです。
個人の敷地内であっても、飲用とするのであれば、水質検査が必要になります」

 操作盤、赤いランプが稼働中の合図で
現在はNo2送水ポンプが稼働中
操作盤、赤いランプが稼働中の合図で
現在はNo2送水ポンプが稼働中

世界で2番目に美味しい水は、東大泉3丁目にあった?!

――ところでなぜここまで深く掘ったのでしょうか?
私が幼い頃に見た井戸は、せいぜい10mかそこらだったかと思います。


安島 「浅井戸のデメリットの1つに、地表で使用した農薬や肥料などの成分が、
地面に染み込み、水質に影響が出る可能性がある、という点があります。
例えば、亜硝酸態窒素ですとか、硝酸態窒素などは、ある研究では乳幼児が多量に摂取すると、
体内で、細胞に酸素を供給する能力が減少する、という報告もあるようで、注意が必要です。
地域ごとの水にこれらの成分がどのくらい含まれているのか?は、検査を行わないとわかりません。


では、ここの井戸はそれらの影響を受けないのか?という点は気になると思います。
結論を言えば、影響は限りなく低いと考えます。
この1号井戸は、当初おおよそ350世帯くらいに水を供給していたのですが、
夏場になると水の消費量が上がって、足りなくなることもあったようです。
そこで1968年(昭和43年)に2号井戸ができます。
この2号井戸は、現在でも稼働しています。
ちなみに、1号井戸はもうありません。
この2号井戸は、125mの深さまで掘っていまして、
水源は、奥多摩や秩父の山岳地帯の雨が地面に染み込んでいき、地下水脈となっています。
土や砂の質にもよりますが、125mまで染み込むには、やはり時間がかかります。
コーヒーなどでイメージされると分かり易いですが、汚れた不純物などは、
何層にもわたる自然の地層のフィルターで、綺麗にろ過されます。

 迫力がありますが、これはマンガンろ過装置で、
井戸水を吸うポンプではないです
迫力がありますが、これはマンガンろ過装置で、
井戸水を吸うポンプではないです
 2号井戸は、屋外の離れにあります!
※この池は井戸ではなく、管理事務所そばの弁天池です
2号井戸は、屋外の離れにあります!
※この池は井戸ではなく、管理事務所そばの弁天池です
 こちらが3号井戸、写真右下側の薄緑色の
コンクリート面下に232mの深さの井戸があります
こちらが3号井戸、写真右下側の薄緑色の
コンクリート面下に232mの深さの井戸があります

今から約30年前の1989年当時に、ある大学で、世界で一番美味しい水と言われていた
カナダのケベックという場所の水や国内各地の水とここの水を、
ある先生が開発した測定法を用いて、その美味しさを比較しました。
その結果、ここの水はケベックの水に匹敵する水であることがわかりました。
カナダが1番であれば、ここは2番目ではないかと(笑)。」



――その美味しい水は大泉地区以外でも飲めるのですか?
また、水道料金に関しては、どのような金額なのでしょうか?


安島 「まず料金に関してですが、私たちは水道料金と呼ばず“維持分担金”と呼んでいますが、
昔は東京都水よりも少し安かったようです。
しかし水を汲み上げるモーターポンプの維持や、配水管の交換、
これは当然地面を掘りおこさないといけませんから、お金はそれなりにかかります。
そのため値上げしたこともあり、現在は、一概には言えませんが、
おおよそ10〜15%程度、東京都水よりも高い、といった感じでしょうか。

 東大泉3丁目の地図を片手に説明、
ここから地域の会員宅に水が送られる
東大泉3丁目の地図を片手に説明、
ここから地域の会員宅に水が送られる

供給エリアは、実は、東大泉3丁目の一部を除くエリアだけなんですよ。
ですので、大泉名水会の水を日常の生活水として利用したいと希望されるなら、
引っ越されて来るしか方法がないのです。
ただ、名水会の事務所の前にはいつでも朝7時~夕方6時まで、ご自分で用意された
ペットボトルや水筒などに汲んでご家庭に持ち帰ることのできる給水スタンドがあり、
こちらをご利用頂けるようになっております。
先の通り、維持管理のための費用が掛かりますので、金額は自由ですが、
お気持ち程度の金額をいただければと思っています」

地域約500世帯に愛され、生活を支える水の存在

――この、水というのは地下では川のように流れているものなのでしょうか?


安島 「地下に浸透した水は砂礫質(されきしつ)の地層ではろ過されながら移動しますが、
粘土質のところでは止まります。
が、当然、自然の地形ですから、水道管のような管やルートがあるわけではありません。
隙間をあちこちに移動しながら浸透していっている感じです。
映像などで見たこともあると思いますが、トンネルなどの掘削現場で、
水がバーッと出てくる場面があると思います。あれが水脈です。
大泉名水会の水も、圧倒的に水量は豊富でして、
ポンプで吸い上げても次から次へと出てきます。
1968年に出来上がった2号井戸は、いまだに多くの水を涸れることなく蓄えています。
いずれにしても、長い年月をかけて、奥多摩・秩父あたりに降った雪や雨水が、
地下水となってここまで届いている、というわけです」

 3号井戸が掘られた時の地層サンプル、一例ですが、
何層もの地層で不純物がろ過され多くのミネラルを
含む水になります
3号井戸が掘られた時の地層サンプル、一例ですが、
何層もの地層で不純物がろ過され多くのミネラルを
含む水になります

安島 「とはいえ2号井戸も1968年製でだいぶ古く、3号井戸を作りましょう、という話になりました。
工事が1998年に開始され、年末には完成しました。
3号井戸は、一気に深くなり232mです。東京タワーが333mですから、その2/3ですね。
現在はこの3号井戸と先ほどの2号井戸の水をミックスして、
この付近にお住まいの約500世帯の会員の皆様に供給しています。
この地域に東京都の水道の敷設が完了したのが昭和48年と聞いています。
その当時、都水と大泉名水会の利用については、あるお宅では、
安心のために両方と契約されるケースもありましたが、
やはり、飲み比べてみると、大泉名水会の水を気に入る方が多いようで、
2021年現在でも490世帯以上の方に愛されてご利用いただいています」



――利用されるみなさんは、この美味しい水をどのように使ってらっしゃるのでしょうか?


安島 「給水スタンドに水を汲みにこられる方の中には何度もこられて、
顔馴染みになる方もいらっしゃいます。
この間、挨拶がてらにちょっと聞いてみましたら、
ご飯を炊く・コーヒーやお茶を入れる、と言っていました。
ある方のお母様は、お茶はこの水でないと飲まない、とも言ってるようで、
生活にそれだけ入り込んでいて、嬉しく思います。


現在稼働している2号井戸と3号井戸とで、若干の水質の違いはありますが、
どちらも軟水です。
水1000ml中に溶けているカルシウムやマグネシウムの含有量、
これを硬度、といいますが、2号井戸の場合は、98 mg前後で100mgに近く、
中程度の軟水でして、3号井戸の場合は60mg台となっています。
先ほどの通り、皆様には2号井戸の水と、3号井戸の水をミックスしたものを
供給していますから、おおよそ70〜80mgくらいの軟水になっていると思います。
<参考>水の硬度(東京都水道局)
https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kouhou/kids/mamechishiki/koudo.html

 特別に入れていただいたコーヒー、
確かにスルリと喉を通る気がします!
特別に入れていただいたコーヒー、
確かにスルリと喉を通る気がします!

ただ“美味しさ”というのは、飲んでみた時の感覚が大きいですから、
夏の暑い時なら、当然、冷たい水が美味しいですし、
飲んだ後の喉越しのまろやかさはこの水の特徴、と言われますが、
私たちは日常的に飲んでいますから、明確な違いがもはやわからなくなってきています(笑)」

 井戸水(通年15℃~16℃)が供給されているので、
夏場は冷たく、冬場は温かい!
井戸水(通年15℃~16℃)が供給されているので、
夏場は冷たく、冬場は温かい!

サポーターの取材後記

れんげそう
私は今、練馬区の地下に関心を持っている。地上に何ができているかはすぐ見えるが、地下は、工事しているなと思っても、そこに何ができているのかわからない。この大泉名水会も、地下200メートルも下まで管を掘り下げ、そこから水を汲み上げているそうだ。現代の生活がすべて巨大組織によってコントロールされている中で、東京都水道局とは別組織で独自に水を汲み上げ、配給している地域があったなどとは、驚きであった。地域の努力に頭が下がる。日本全体が世界のなかで地盤沈下している中で、新しい発展と活路のヒントを提供するのは、巨大な全体組織の影響を受けながらも個別の努力であると信じている。(子どもの頃から練馬に住んでいますが、水は井戸でした。風呂水を汲むのは、手押しポンプでガチャコンガチャコンと手作業で、半日がかりだったのを覚えています)
みかちゃん
もともと江戸の発展は“水の確保”から始まり千川上水など“江戸の六上水”によって大発展してきたのですが、この“大泉名水会”の、給水エリアの居住者も水の確保が最も大事でした。現在使用されている2・3号井戸の深層水は、はるか秩父山系で降った雨や雪水で大泉名水会までたどり着くのに100年とも言われ、辿り着くまでにろ過され、ミネラルが豊富で“世界で2番目においしい水”といわれ、近隣住宅の人々に喜ばれているそう。大泉名水会では、会員に限らず一般の需要者にも開放しており、近隣や他区からもペットボトル持参で朝・夕汲みにくる人も多いとのこと。
過日テレビでも放映されていましたが、水道から水を直接飲むことができる国は、世界で12か国。アジアでは日本だけだという。大泉名水会会員の人は、先人の苦労のお陰で健康・安心、しかも安い料金の名水がいただけるなんて幸せだなあ、と私は思った。取材最後に、大泉名水会事務所で特別に淹れてくれたコーヒーがことのほかおいしかった!
*当初は「大泉住宅共栄会」が、その後昭和35年から「大泉住宅共栄会水道部会」、平成12年から「大泉名水会」と名称を変更し水道業務を行っています。「大泉住宅共栄会」は現在は町会組織をさします。
へーげん
80年前、お寺周りに長く深い歴史あるストーリーをもつ大泉名水会(東大泉3丁目)は、深層地下水を約500世帯へ安定供給している。衛生管理メンテナンスを昭和17年より引き継ぐ裏方の仕事人は名水会の所長、安島敬さんと事務員様。お人柄に敬意と感謝の意を表します。維持する上で、目の前の石砂利の間から飛び出している雑草も手作業で抜き、除草剤は一切使用しないなど、万が一にも飲み水に影響が出ないよう、細かな配慮をされている面も沢山あるんだなと気づきました。丁寧な毎日の管理にふさわしいその歴史ある地下水のテイスティングは、トロンとした舌触りにすら感じる圧倒的な軟水(個人の感想です)。世界2位の水質とも言われる深層地下水で、ご飯やお味噌汁も味わってみたいなと思った(水筒を忘れて悔やみました)。最後は計らいで贅沢にも豆から引いたコーヒーのテイスティング。大泉の地下水は私に贅沢で幸せな気持ちを与えてくれ、最後は皆、その美味しさで笑顔で帰りました。是非、また行こう!

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