サポーター体験記
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練馬に息づく伝統工芸「手織り」、魅力は自然の力と作家の人柄にあった!

練馬に息づく伝統工芸「手織り」、魅力は自然の力と作家の人柄にあった!
作業中の小熊さん、全ての工程を
一人で行う地道な作業だ

草木染め作家の小熊素子さんは、機織りを始めて半世紀。
練馬区で染めと織りを、たった一人でこなしながら、温かく優しく、
そして上品な織物を作成しています。
小熊さんの手によって丹精込めて作られた着物やショールなどの作品たちは
私たちシニアが思わず手に取って触れて慈しみたい優しさに満ち溢れています。
そんな奥深い手織りの魅力をオンラインで探りに行きました。

小熊素子染織工房

※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:作家/小熊 素子さん 

所在地
東京都練馬区石神井台 5-23-19
電話
03-3928-0795
URL
https://www.instagram.com/ogumamotoko/?hl=ja

キャリアは50年!自然の草木に向き合い、丹念に続けてきた織の魅力とは

――そもそも染織について教えてください。
それから、簡単な工程とその内容もお願いします。
小熊 「染織、と言ってますが、これは簡単にいうと布を作ることです。
布を織るという作業をする前にどういう布を作るかをイメージするところから始まります。
私の場合は絹糸を使用することが多いので、
絹糸の精練→草木染め→糸巻き→整経(せいけい)→経巻き(たてまき)→機織り機にかける→織る、
という流れになりますが、これを全部、デザインから一人でやっています」

【参考】東京手仕事サイト(道具等の詳細が掲載されています)
https://tokyoteshigoto.tokyo/feature/11sensyokunodougu/

 綛(かせ)になっている糸を
整経するために小枠(こわく)に巻きとる
綛(かせ)になっている糸を
整経するために小枠(こわく)に巻きとる

――糸をつむぐ(作る)ことから始めるのですか?
小熊 「つむぐ事はしません。絹糸の太さや“より”は指定して、やってもらっているんです。
この設計によってどんな布ができるか?の仕上がりが全然違うので、
職人に依頼してはいますが、この工程も楽しいです。
ここから織は始まってると言えます」



――小熊さんはこの業界に入られて、どのくらい経つのでしょうか?
よろしければその経緯なども教えてください。
小熊 「もう50年以上になりますね。
デザイン系の大学を卒業したあと、住み込みで2年間、
機織りの工房に(研究生として)弟子入りしまして、一通り覚えた後に独立しました。
独立と言っても、すぐに仕事があるわけではありませんから、
自分で勉強しながら織っていく、という形でしたね。
染織に興味を持ったのは、やっぱりものを作ることが好きですし、
織は経糸(たていと)と緯糸(ぬきいと・よこいと)の組み合わせ、制限があるなかで
自由に表現できる可能性が面白いと思い、強く惹かれました」



――作られる作品によると思いますが、完成までの期間やどのくらいかかりますか?
小熊 「私は主に、着物の材料である“着尺(きじゃく)”というものを作っています。
これは着物1反分、つまり12m50cmあるのですが、これを作るのに大体2ヶ月くらいかかりますね。
一番大変な作業は、この12m50cmを均等に織り上げるために、
気持ちを維持し続けなければならないことです。
年齢のせいもあるのでしょうが、緊張が連続するのが厳しくなってきています(笑)」

 染めた糸に「ふのり」をつけて
干しているところ
染めた糸に「ふのり」をつけて
干しているところ
 織り進めていくために、緯糸を管に巻いて準備しておきます
織り進めていくために、緯糸を管に巻いて準備しておきます

色の興味はミイラの棺まで?!何を見ても「染めてみたい!」と湧き上がる感情

――小熊さんにとって、インスピレーションの源はどんな時にやってくるのでしょうか?
小熊 「やはり自然の中にいる時が多いですかね。
でも街の中やT Vの中からもありますよ。
この間は、エジプトのミイラの番組を観ていたのですが、
その時、3000年前の色が出てきたんですね。
それで『あぁ、この色を染めてみたいなぁ〜』など、色々な場面で興味が湧きますね」


 


――それは面白いですね。草木染めは淡い色味が特徴・魅力だと思いますが、
お子さんが見てもわかるような、例えばピンクとかブルーなどの、
はっきりした色味はお好きなのですか?
小熊 「いえいえ、赤や黄色も大好きですよ。
それこそエジプトの棺や壁画の鮮やかな色味にも強く惹かれます。
色そのものに興味があるのだと思います」

 自然の色の掛け合わせで、素朴ながら
様々な色を再現できる
自然の色の掛け合わせで、素朴ながら
様々な色を再現できる

――うまく染まらなかった、、、!
なんて事はありますか?そんな時はどうされますか?
小熊 「染まらなくても、その上から何かの染料をかければ、もっと濃い色になります。
つまり色の掛け合わせができるんです。
例えば茶色系で気に入らない色に染まったら、その上に赤をかければ赤茶色になるとか、
全て何かに利用しますので、無駄にならないですね」



――ズバリ、小熊さんにとって、「染め」と「織」どちらが魅力でしょうか?
小熊 「わたしは草木染専門ですが、植物を選ぶところからもう楽しいです。
この植物でどんな色が出るのか?
つまり色を作ることが楽しいので、その意味では“染め”でしょうか。


例えば、薔薇染めなんかは、煮出した分量や媒染(ばいせん)の種類、
また季節によって全部色が変わってくるんです。
出た色が思い通りになるととっても嬉しいです。
今は白樫の木やハンノキの実で染めるのが面白いと思っています。これらは薄茶色ですかね。
ベージュや薄いグレーのような自然の色になります。
これらは、着物や帯になる事が多いですね。服地もたまにやります」

色と風合いが魅力の草木染め作品を特別に見せていただきました!

――私は着物が好きなので、本当は染められた糸や
それで出来たお着物を拝見しに、工房に伺いたいところでした。。。
改めて、50年以上続けてこられた手織りの魅力を教えてください。


小熊 「興味を持っていただき、ありがとうございます。
続けてきた理由の一つは、やはり生活ですよね。
生きていくための手段が、私の場合、織だったのです。
それとは別に、追求すればするだけ、自分だけの考えを作っていける・表現できる。
糸選びから色の作り方、初めから一つのものを作るということに魅力を感じます」



――工房に事前にご連絡すれば、工程や工房、作品を拝見する事はできますか?
小熊 「事前にご連絡いただければ対応します。いつでもご連絡ください。
それから、石神井公園観光案内所に、少し置いてあります。
3/14から交通会館で展示会もします。娘が参加するのですが、
彼女のサポートで、私も少し出展します。娘は私と異なり、ウールを織っています。
染めではなく、紡ぐ専門=織り手さんですね。
まだ熟練ではないと思いますので、作品はマフラーやショールを作っています」



――不躾な話で恐縮ですが、小熊さんの作品のお値段は高いものですよね?
小熊 「私が作っているのは着尺ですので、呉服問屋さんに出しているんです。
ですから普通に売られている値段は知らないんですよ。
問屋価格です。その価格は言った方がいいですか?(笑)
ただ、端切れが結構ありますので、今後ですけど、小物も作っていきたいとは思っています。
例えばバッグやマフラーとか」

 小熊さんの作品の一つ、「合切袋」
明治時代に流行した携帯品を入れる手提げ
小熊さんの作品の一つ、「合切袋」
明治時代に流行した携帯品を入れる手提げ

――それは楽しみです。小さい作品でもそばに置いておきたいなって思います。
ちなみに買った場合、メンテナンスはどうすればいいでしょうか?


小熊 「草木染めの絹は、そこまでメンテナンスに気を使わなくても大丈夫なんですよ。
着物の場合は、洗い張り屋さんにお願いしたほうがいいのですが、
そこまで気にしなくても問題ありません。



――画面越しで良いですので、作品をぜひ拝見させてください!!


小熊 「これは東京都手仕事プロジェクトで販売しました烏帽子ですね。
京都の専門の職人さんに作ってもらいました。
普段の帽子として被れるデザインにしました。ちょっと可愛いでしょう?
昔は頭のサイズって、ここの紐で縛って、自分のサイズにしていました。
ちなみにお値段は3万円です。

 裂織(さきおり)で織り上げた
テーブルセンター
裂織(さきおり)で織り上げた
テーブルセンター

これは織った洋服の生地ですが、デザインの設計図はありません。
織りながら考えています。この並びは全くの偶然ですが、草木染めなので、
別の色がランダムに並んでいてもそんなに違和感がないのです。
他にも、こぶが強く出ている布を遊びで作ったりしていますね」

 全てが自然にあるものから発色されているため
かなり複雑な柄でも干渉し合わない
全てが自然にあるものから発色されているため
かなり複雑な柄でも干渉し合わない

――人と人との触れ合いが制限されるコロナ禍の中で、
手織りの作品というのは、人の温もりを伝える力がある気がします。
見た目の美しさだけでなく、織り手のエネルギーや草木の生命力に溢れていると感じます。


小熊 「ありがとうございます。私は『織は人なり』という言葉が好きなんです。
これは私の先生の言葉ですけど、やはり、音楽でもものづくりでも、
その人の性格や、その人の思いが作品に出ると思っています。
その点も魅力だと思いますね」


 


――画面越しでしたが、楽しそうに語る小熊さんの表情と、
その柔らかな色味の作品たちに、すっかり心を奪われてしまいました。
これは別の機会でぜひ、工房を訪ねてみようと思います。

サポーターの取材後記

モナカ
桜の樹皮で桜色に糸を染めるという染織家志村ふくみさんのお話を書いたエッセイを読み、その作品を幾つか鑑賞してから、染色、ひいては手織りに関心を持つようになりました。
小熊さんは、薔薇がお好きだそうです。ご自身の庭の薔薇を使った「薔薇染め」は、花びら、枝、採取した季節、媒染剤によって、多様な色に染め上がる。その雅やかでオリジナルな色は、見る人を魅了します。小熊さんは、糸を染める色を、薔薇に限らず、いろいろな草木を用いて自由に作り出すことが楽しいとおっしゃっていました。自分で作り出す色の世界、その創造の喜びが作り手のエネルギーとなり、丹精込めて作られた作品の温もりが使い手の癒しになるようです。
糸を染めるところから着尺を織り出すまで、全て一人でなさっている小熊さんの美しい手織り作品を、ぜひ、手元に置きたいと思いました。
らいな
まだ石神井台が一軒家とキャベツ畑ばかりだったころ、わたしは幼稚園バスの窓から、小熊先生の工房を見ていたかもしれません。石神井台に住んでいらっしゃることはほんの偶然とのことですが、広いスペースを必要とするお仕事ゆえに石神井台とのご縁があったのでしょう。石神井公園を好きだと言ってくださってうれしかったです。小熊先生の織りは、即興演奏のようにその時点で糸を選んでおられるとのことで(驚きました!)、二つとない色と柄を味わうことができます。工芸は「用の美」と言われます。特に、和服をふだんから着こなすことのできる人には、小熊先生の作品たちを味わいながら着ることができるように思いました。
コロナウイルス感染拡大予防のため、実際の工房にうかがうことができず残念でした。感触や質量を自分の手で感じてみたかったのですが、それはまた後日、ということになりました。

サポーター紹介

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