サポーター体験記
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動物と人間との対等な関係を築く「動物福祉」の考えを、専門医に尋ねる

動物と人間との対等な関係を築く「動物福祉」の考えを、専門医に尋ねる
病院の外観、大きな通りに面し、
明るい日差しが窓に注ぎます

皆さんはワンちゃん派でしょうか、それとも猫ちゃん派でしょうか?
愛くるしい動物は、私たちの心を癒し、また生活にリズムや潤いを与えてくれる大切な存在です。
そんな動物たちと対等な関係を築く、「動物福祉」という言葉を聞いたことはありますか?
動物愛護とは異なるこの大切な考え方を、獣医師さんに聞いてきました。

ポラン動物病院

※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
取材ご担当:院長/竹井 信恵さん

所在地
練馬区大泉町5丁目15−1 カーサステラ 1F
電話
03-6904-5456
URL
https://www.polan-ah.com

人にも動物にもどちらも偏らないちょうど良い状態、それが動物福祉

――動物福祉という考え方を大切になさっている経緯や背景を教えてください。

 竹井先生は動物保護のボランティアも
行っており、十分なご経験を持つ獣医師さん
竹井先生は動物保護のボランティアも
行っており、十分なご経験を持つ獣医師さん

竹井「日本でよく言われているのは動物愛護という言葉だと思いますが、これはどうしても人間主体のものです。
つまり、人間が“かわいい”ですとか“かわいそう”と感じる感情がメインになりますが、
これですと基準となるモノサシが明確にない状況なのです。
昔から海外・英語ではanimal welfare(アニマルウェルフェア)=動物福祉という考え方が一般的で、
これは人も動物もどちらも偏らずに共生していく、という一番塩梅の良い状態の考え方です。
さらにこれに加え、5つの自由(飢えと渇きからの自由、不快からの自由、痛み・傷害・病気からの自由、
恐怖や抑圧からの自由、正常な行動を表現する自由)も指標にしていますので、この指標に合う合わないを考えれば、
その行動なり治療なりが、客観的に判断できるのです。


※5つの自由についての詳細は、以下のサイトをご参照ください。(公益社団法人 日本動物福祉協会HPより)
https://www.jaws.or.jp/welfare01/


竹井 「なぜこれを指標にしたかと言いますと、私は動物病院に勤めながら、
動物愛護団体のボランティアで保護犬・保護猫の治療をしていましたが、
不適切な飼育によって保健所に持ち込まれてしまうケースが非常に多く、
この状態を食い止めることができないと、いつまで経っても不幸な動物は減らないなと強く感じたからです。
獣医師というのは、動物を飼育する方が患者さんとしてこられて、もちろん病気の治療やワクチンの接種、
また当院はトリミング施設も併設してますので、こちらを利用される方もいらっしゃるのですが、
この時に『お散歩にはどのくらい行ってますか?』ですとか、『爪がすごく伸びてますよね』など
ほんの些細な質問や状態の確認から、細かく飼い方の質問をしています。
すごく地味なのですが、この延長が適正飼育につながると思っていまして、
結果的に不幸な動物が減るという思いでやっています。
保健所からきた動物を保護して、その動物を一生懸命治療するのももちろん大事なことなのですが、
私はその手前の状況、飼い主に飼われているワンちゃん・猫ちゃんがこれ以上不幸にならないように、
動物福祉という観点を大切にしています」



――実際の診察を通して、そういった啓発活動と言いますか、大事なことを伝えていらっしゃるのですね。


竹井 「そうです。当院はいたるところに張り紙がありますが、
動物たちの里親募集ですとか、迷い犬・迷い猫などの情報を積極的に掲示しています。
そういう子がいっぱいいるんだという情報を、待合スペースと通りに面した動物ルームに掲出することで
外からも見えるようにしています。
動物を飼っている方も、通りすがりの方にも気づいて欲しいなと思っています。

 院内に数多く貼付されたチラシは病院の
優しさの反面、猫たちの現状も物語る
院内に数多く貼付されたチラシは病院の
優しさの反面、猫たちの現状も物語る

月に何度も『うちの猫がいなくなってしまいました』ですとか、飼えなくなってしまった、
拾ったので里親を募集したい、などの張り紙のご依頼は多いです。
オスとメスがつがいでいるお家には、『このままですとどんどん増えますよ』など、
口うるさいと思われても、通院されている方にはよくお話しします」

練馬区の野良猫・野良犬、そして保護活動の現状は?

――不適切な飼育、というのは家で飼われていてもそういう状態の動物たちはいると思いますし、
いわゆる外猫(野良猫など)の数も膨大だと思うのですが、そのへんはいかがでしょうか?


竹井 「練馬区の場合は、それでも地域猫活動、つまり練馬区主体で登録ボランティアさんがいたりと、
かなり活発な方だと思うのですが、区の面積が広く、自然も豊かで畑なども多いので、自生する猫ちゃんたちも多いです。
でも保健所にいく猫たちは実はそういう子たちではなく、東京都では、
交通事故などで怪我をしてしまったり、よっぽど切羽詰まった状態でないと引き取りません。
地域によって保健所にくる動物の種類って全然違いまして、例えば東京都の愛護センターでは犬は少ないそうです。
郊外ですと野良猫・野良犬がまだまだ多いようですが、練馬区では、これらの活動や、
活動に協力する不妊手術などの活動、いわゆるTNR※や、そもそも活動に協力的な病院が多いこともあり、
まだまだ実態は改善しきれていないものの、この10年ではだいぶ減ったと言われています」
※TNRとは、Trap=捕獲し,Neuter=不妊去勢手術を行い,Return=元の場所に戻す保護活動の略。
その印として耳先を桜の花びらのようにV字カットする。
※練馬区地域猫推進ボランティア募集についてはこちら
 https://snavi-nerima.jp/volunteer/detail.php?id=3

 耳が桜の花びらのようになっています
ちょっと痛そうだけど、大事な印なのです
耳が桜の花びらのようになっています
ちょっと痛そうだけど、大事な印なのです

――確かに最近では野良猫・野良犬自体を見かけなくなってきました。
マンションが増えたということもあるのでしょうか。


竹井 「場所にもよると思います。ただ一方で戸建ての空き家も増えています。
大泉学園地域では、それほどでもないのですが、練馬全域ですと相当数あるようです。
こうなると空き家の物陰や軒下に動物が居着いてしまうと手が出せないので困ってしまいます。


彼らの餌はゴミなどの他に、与えている方が居るのも事実です。
善意で餌をあげること自体は悪いことではないのですが、
そのままにしておくと動物はどんどん数を増やしていき、
そこにオスとメスがいれば、当然繁殖していきます。
先ほども『ベランダに猫が来るようになった』というお電話をいただきましたが、
この病院にも常に保護猫が多数おりますし、正直、全部には対応できない現状ですので、
あくまでも協力という形で動物福祉の知識などをアドバイスしています」

病気の種類や傾向にも、最新の世相が反映?!飼い主の知識が良い関係を築く

――話は変わるのですが、最近では科学技術の発展でロボット犬なども登場しています。
かわいい!と思う気持ちや愛情などは、生身の動物の方が優れている、なんてことはあるのでしょうか?

 ペットロボットの話にも、先生なりの
見解でご返答いただけました
ペットロボットの話にも、先生なりの
見解でご返答いただけました

竹井 「うーん。。。人の感情は人間の心理学専門の方に譲ります(笑)。
ロボットの感情プログラムに詳しくないのですが、私たちは常に動物を診ていますので、
飼い主さんと飼い犬・飼い猫が見つめ合うことで、幸せを感じるホルモンが分泌されるとは言われています。
それがロボットでどこまでできるのか…、というのは疑問もあります。
一方で、飼いきれなくなってしまう可能性を秘めたままで動物と暮らすのは
飼い主の責任問題や後悔にもつながるので、おすすめできません。
また最近ではワンちゃん・猫ちゃんともに長生きの傾向ですから、そこまで見越して
お迎えする・しない、今後、どのように接していくかを、ご家族やご親戚も含めて考えないといけません。
そういう意味では、動物病院でもっと気軽に様々な相談をしていただけたらと思います」



――飼い方についても獣医学的な見地から、ケアすべき項目でしたり、
注意すべき点などは、どんどん分かってきている状況なのでしょうか?


竹井 「そうですね。流行と言いますか、飼われる人気の種類というのは必ずありますから、
その種類によってかかりやすい病気などはあります。
例えば昨今では洋種や小型の犬猫が増えています。
猫のスコティッシュフォールド、マンチカンなどの種類は、関節に異常が出やすいなどの傾向があります。
お迎えするときからそれらの特徴を把握したうえで飼育すれば、病気の予防にも繋がります。

 マンチカンの保護猫、もじゃーる
両前足に障害があるが元気に過ごしている
マンチカンの保護猫、もじゃーる
両前足に障害があるが元気に過ごしている

予防できる病気もすごく増えています。
わかりやすいところで言えば、避妊手術や去勢手術で防げる病気があります。
子宮蓄膿症や乳腺腫瘍などです。
これらは犬猫共通して発生しますが、ワンちゃんは避妊手術をしてないと、
シニアになると急にポコポコと腫瘍ができて、小さいうちに切除しておかないと癌になったり、
猫ちゃんの場合は8−9割悪性になるとも言われています。
どれだけ小さくてもおっぱいを全摘出するなどの思い切った処置が必要です。
かわいそうだからと様子を見るなどをすると、助からない可能性もあります。


この話をするのは、このケースがとても多いからです。
この間、ダックスフンドを診察した時の様子ですが、こんなに大きな乳腺腫瘍ができています。
彼女は15歳ですから、これから切除するのは体力的にもとてもリスクがある事です。
ただこれは、生後一歳までの発情期が来る前に避妊手術を適切に行えば、ほぼ間違いなく防ぐことができるのです。
ですので、避妊手術は過剰な繁殖を防ぐだけでなく、病気の予防という面でもとても重要なのです」

 資料画像には、先生の拳大ほどもある
腫瘍が映る こうなる前に是非ともケアしたい
資料画像には、先生の拳大ほどもある
腫瘍が映る こうなる前に是非ともケアしたい

――この後は、発情後に避妊手術をしても大丈夫なのか?
発情回数を重ねると手術の効果自体が減ってしまう(意味がなくなる)、生後半年くらいの手術がベストである、
など、専門医からの知見や有効なアドバイスを数多く聞くことができました。
また家猫・家犬で「外に出ないから(繁殖などのリスクは)大丈夫」など思い込むのは、
昨今の災害などで、予想をはるかに超えて外界との接点を持つケースもあるとのこと。


私たちシニア世代にとっても大事なパートナー・家族であるワンちゃんや猫ちゃん。
シニアナビねりまを見てくださっている皆さん、
お一人でも多くの方にこの現状とメッセージが伝わることを願った取材でした。

 保護猫、やまとは兄弟のたけると共に、
小笠原ネコプロジェクト※でこちらにやってきました
保護猫、やまとは兄弟のたけると共に、
小笠原ネコプロジェクト※でこちらにやってきました

※小笠原ネコプロジェクト…ポラン動物病院はこのプロジェクトに東京都獣医師会として協力しております。
<プロジェクトの詳細情報>
https://www.ogasawaraneko.jp/

 保護猫そうちゃん、好奇心いっぱいに
カメラを覗いていました
保護猫そうちゃん、好奇心いっぱいに
カメラを覗いていました

サポーターの取材後記

モナカ
猫を飼い始めて二年。その純粋な目、愛らしさ、我儘な振る舞いに新しい世界が広がっています。ペットがもたらす癒しは、かけがえのないものですが、シニアは自分の身体の具合が悪くなったときが気がかりです。
竹井先生は、まず、かかりつけ医を持つこと。そして、年に一回は受診し、健康状態を診てもらうなどして、獣医との人間関係を築いておくことが大事とお話しくださいました。
ポラン動物病院の道路に面したサンルームには4匹の保護猫が、寛いでいました。全て障害や病気を抱え、それらを治療しながら、飼い主が現れるのを待っているそうです。激務をこなしながら、持ち込まれる保護猫の対応にも尽力する竹井先生の姿を見て、生き物を飼う責任の大事さを痛感しました。
ヨスケ
動物と人間との対等な関係を築く「動物福祉」の考えを、専門医に尋ねる、と言うことでポラン動物病院の竹井信恵院長にインタビューの機会を頂いた。第1印象は若くて溌剌とした新進気鋭の獣医さん。「動物福祉」と言う新しい概念を、ただ「可愛い」とか「賢い」とか言うだけでペットと付き合っていた爺さんである私に向かって、的確に分かり易く解説して下さった。
ペットを飼う前に竹井先生に会って動物福祉のお話を聞いて、それなりの覚悟をしてから飼うべきだと腑に落ちた。
先生と一緒に生活できている犬や猫は、大変心豊かに過ごしているのだろうと思う。あれこれ考えると飛躍的な発達を見せている人工知能(AI)を内蔵したロボット犬などがペットの代わりを務めてくれないかな?そうすると、人間の方はうんと気楽に彼らと付き合えるんだけどナー!
ふと、ロボットならぬ「ロペット君」の出現を夢見たりした。

サポーター紹介

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