サポーター体験記
239
大切なのは、コミュニケーション。障害者に優しいI Tとの付き合い方
- 取材日
- 令和2年12月12日(土)
- 更新日
それぞれの得意分野があるのが面白い
「練馬ぱそぼらん」は、練馬区に住む、障害がある方々に、
パソコンを含めた様々な支援事業と、パソコンボランティアを育成するN P O法人です。
様々なI Tの技術や経験を持ったメンバーで構成されていますが、
支援でもっとも重要なのは知識ではなくコミュニケーションなのだとか。
今の時代だからこそ、その需要は増しているという活動の中身に迫ります。
特定非営利活動法人 練馬ぱそぼらん
取材ご担当
理事長・コーディネーター/大隅 美智子さん、
ホームページご担当/三瀬 晃さん、
ITインフラご担当/長嶋 基明さん、
IT支援ボランティア養成講座ご担当/横田 邦彦さん、
光が丘すてっぷご担当/手塚 俊雄さん
※以下、文中敬称略。
※取材はコロナウイルス感染症の予防対策に十分配慮し、行われています。
生徒に合わせて教え方を変える、まるで個別レッスンの授業!
――ではまず、ぱそぼらんの発足経緯や成り立ちなどを教えてください。
大隅 「えーと、私は最初のメンバーではなかったので、これを機会にOBの方に聞いてみました。
まず、1995年(平成7年)練馬区社会福祉協議会練馬ボランティアセンター主催の
「パソコン指導者養成講座」に参加した10名の参加者と講師が、講座終了後に
自発的に障害がある方々へのパソコンサポートを目的としたグループを立ち上げました。
そして、1996年(平成8年)1月に任意団体ぱそぼらん(練馬パソコンボランティアの会)を発足しました。
発足当初は、パソコンの初期設定や軽度の障害がある方にパソコンを教えるなどの在宅支援が主な活動だったそうですね。
当初からのメンバーの長嶋さん、そうですよね~」

日々、進化するIT社会に追いつくのがとても大変。
長嶋 「ええ、その通り。その後、2003年10月にNPO法人となり、
社会的にもしっかりした団体になって今日に至っています」
――ぱそぼらんのメンバーはどのくらいいて、そもそもどんな活動をされているのでしょうか?
長嶋 「えーと、発足当時は10名でしたが、現在の会員数は38名です」
大隅 「大きな事業は、区からの委託事業で、パソコン教室が年に3回、年により若干前後しますが、6月、10月、1月に開催しています。
それから、I T支援ボランティア養成講座も実施しています。
こちらは年に2回ほどでパソコンボランティアの理解を深め、メンバーを増やすための講座を運営しています」

使って受講生に分かりやすく説明

もっと多くの方に利用いただきたいです
長嶋 「パソコン教室の受講生募集は、ねりま区報に掲載され、
入門、ワード、エクセル、読み上げソフト、タブレット(携帯端末)体験コースに分かれていますが、
基本的には、受講生の要望を尊重しながら行っています」
――では次に、教室の具体的な内容を教えていただけますか?
大隅 「まず対象は、知的障害・視覚・聴覚・精神障害・肢体不自由・高次脳障害で、
基本、障害者手帳をお持ちの方になります。
お一人お一人の障害を理解した上で、その方に適したサポートになります。
従って、同じ障害で、同じ講座内容でもサポートの方法が違います。
毎回、その辺りをメンバー皆で、共有したり勉強したりしながらサポートしています。
通常のパソコン教室では、先生が前にいて、同じ内容で同時に教えていますけれど、
ここでは個別レッスンに近いイメージですね」

ツールを積極的に活用する、メカ好き!
長嶋 「パソコン教室では、できる人は意外とすぐに終わってしまう、逆にまったく初めての方も・・・・
そのため、教室終了後、2週に1度くらいのペースで、繰り返し練習をしてもらう継続サポートというシステムもあります。
パソコンが欲しい場合の購入相談や、必要に応じて自宅に伺って設定を行うこともあるんですよ。
とにかく、“初心者向けコース“なので、動機もレベルも色々、
この教室で半日体験してもらい、楽しんで欲しい。
じゃあ!となれば、購入されたり、
持っているけど使えていなかったパソコンを使えるようにしましょうね、というサポートですね」
――生徒さんの数はどのくらいなのでしょうか?
長嶋 「パソコン教室は年3回、午前4名と午後4名なので、年間合計24名ということになりますね」
大隅 「はい、おかげさまで、毎回定員を上回り、抽選です。新規の方優先ですが、リピーターもOKですよ」
何を、ではなく、どのように教えるのか? I T経験者の力が集結
――あれ?皆さんが“パソコン指導者養成講座”を受けられたのは1995年ですよね?
その時代にはタブレットってなかったと思うのですが、、、。

チェックして最新の知識を手に入れているそう
大隅 「おっしゃるように、時代とともにニーズが変わり、最近ではタブレット端末や
スマートフォンに興味があって、使いこなしたい方が多くなりましたね」
手塚 「そうですね。ですので、最新の知識を皆で勉強しながらなんとか頑張っています。
私は元々電気系の技師でしたが、私が学校を卒業した時代は真空管の時代でしたからね(笑)。
結局、生涯勉強、ということでしょうかね。自分で解決策を見つける気がないと、正直、継続は厳しいと思います。
ただ、これも昔に比べたら、インターネットでなんでも検索できますから随分助かっています。
文字で解らなければ動画を観れば教えてくれますし。
それで、翌日生徒さんのところに行って、知ったかぶりして教えてるわけです(笑)」

障害者サポート機器の技術にも注目!
横田 「“I T支援ボランティア養成講座”というのは、I Tの知識ではなく、教え方を教わる講座です。
私もそうですけど、コンピューターの技術者を経験されている方は、
大抵の場合、教えるのはあまり得意ではないんですよ(笑)。
ただ、障害がある方用のソフト、例えば喋った言葉が文字になるようなソフトや、
視覚障害の方が使う特殊なキーボードなどの機器は、一般の技術者は知らないことが多いですから、
そこに関心を持つ会員は結構います。きっかけが面白いですよね。
パソコン自体の構造は、もう30年前くらいから基本的には変わっていない。
一方、タブレットやスマホなどのスワイプなどの操作は、
最初から障害のある方のことも考えて作るわけですから、使い勝手で言えば、
最近のソフトや機器の方が、断然障害のある方にも優しい、ということになりますね」
――皆さん、色々なご経歴と知識を会の運営に役立てられている感じなのですね!
大隅 「三瀬さんは、普段、営業のお仕事をされていますが、この会のホームページの制作担当です。
会では、それぞれ機器の設定や会計、マニュアル作成など、得意な分野を担当してます。
私はずっと共働きで、子供が手を離れた時にこの会を知って入会、もう25年近くになります。
でも、パソコンのハードは今も苦手。皆がフォローしてくれて助かっています。
去年、定年退職をしたあと、社会と繋がりを持つという意味でも、
ボランティアを続けてきて、とても良かったです。
この世界はとても進歩が早いので、何かやっていないと遅れちゃう。
だから、ボランティアで教えるというよりは、生徒さんも含め一緒に勉強している、という感じかな~」
手塚 「私は、いわゆる健常者の皆さんにもパソコンを教えているのですが、高齢の方は、
教室がある時には、ノートパソコンを持ってきて開きますが、それが終わると1ヶ月2ヶ月全く開かない(笑)。
それで、操作を教えるよりも前に、パソコンを使って何をやりたいのですか?
という目的意識を持ってもらうために、細かく質問をします。
かたやこの“ぱそぼらん”や“すてっぷ”なんかで教えるときには、
あまり問い詰めずに『やりたいことは何かな?思いつかないなら一緒に考えよう。』
と相手のリクエストを聞き出すようにしています。
すてっぷは、光が丘で知的障害のある方に対して、隔月1回、
ソフトを使って絵葉書を作る操作を教える教室です。
生徒さんは毎回5名くらいですが、回によって入れ替わる感じです。
教える立場からすると、毎回同じ内容を教えていていいのかな?なんて悩みますが、生徒さんからすると、
前回と似たようなものを作ってもすごく喜んでくれますから、これはこれで良いのかなと思っています」

お話を聞くサポーターも驚きを隠せません
大隅 「そうそう、すてっぷの生徒さんは、この授業の時間そのものを楽しんでいらして、
出来上がったものをお友達やご家族に見せて、褒められて、喜んでもらうことが、すごく嬉しいみたいです。
そして、見えている世界や、当然到達点も違いますよね。
そしてパソコン教室の方は練馬区からの委託事業で、すてっぷの方は、
社会福祉法人武蔵野会からの依頼による講師派遣。他に会への直接依頼に対応したり、
最近ではヘルパーさんからの相談も増えています。
また、外出困難な方やご自分のパソコンを使用したい方のために、
依頼者のご自宅に伺うという居宅サポートも行っています。
当会のホームページから、ぜひご相談くださ~い」
誰にでも優しく、わかりやすい社会をI T活用で実現。会の運営で、その可能性を探る
――I T関連や技術の分野で活躍されていた皆さんが、I Tではなく、
“教える・理解を促す”というコミュニケーションにとても力を入れられているのが印象的です。
かなりしっかりした活動をされているんですね。
横田 「この事業でいちばん気をつけていることは、
個人情報の取り扱いです。とりわけ障害がある方の個人情報というのはとてもデリケートなものなんです。
ご自身で意味を理解されていないこともあるので、その責任は重大です。
IT支援ボランティア養成講座でも重要なテーマです。
さらに年に1度は、会員全員で個人情報の取り扱いに関する勉強会も実施しているんですよ」
――生徒さんからの質問で多いものってなんでしょうか?
長嶋 「そうですね…。パソコンを買って、メールに写真を添付して送りたい、というのは多いですが、
教えるとなると、実は意外と面倒なんです。
まずカメラや携帯で撮った写真をパソコンに取り込んで、
添付できる形式や画像サイズに変換してからメールにくっつけないといけませんから。
でもやりたいことは『写真を家族に送りたい』ということなんです。
一緒に考えて提案した解決方法は、L I N Eを使う、ということでした。
海外にいる娘さんに飼い犬の写真を送ったら、すぐに返事がきて、とても喜んでもらえました。
つまり、一生懸命にパソコンを使って、画像を取り込んで送る練習をしても、結局時間がかかったり、
手間がかかったり、難しかったりするとそれだけで嫌になって、なかなか喜びや楽しみって得られないんですよね。
今は、こんなことができるんですよ。一緒にやってみましょう。
そして、練習すれば一人でも出来ますよ。
こんな過程を共有しつつ、依頼される側のモヤっとした気持ちを解決できると、嬉しいですね」

例会場所まで来られない人は、自宅から参加可能
大隅 「生徒さんの中には、自分が本当は何がしたいのか?が解らなかったり、
意思表示をすることが難しい方もいるので、それを探り出すのは結構大変。
席に着くなり『これがやりたい!』という方もいれば、座ってじっとしていて、
『今日は何をやりますか?』ってあの手この手で私たちが聞き出して、
やっと始められる方もいらっしゃいます。

とって安全で便利な世の中を願います
障害がある方にとってI T機器というのは、とても重要だと思っています。
情報を集めるのもそれを使いこなすのも困難な人は、まだまだ多いです。
元々は、そういった皆さんに、安全に便利にI T機器を使っていただきたい、というのが活動の原点です。
これらのツールが無かった時代のことを考えると、障害がある方にとっては、
ものすごく明るく良い時代になってきたんじゃないかな、って思います。
そして世の中は、高齢化社会に向かっていて、近い将来、誰もが何らかの障害をもつ可能性は
十分にあると個人的には思っています。
私たちの活動が、そんな世の中の小さな光になれたら嬉しいです。
そして、このような活動に共感していただける方、ぜひHPからご連絡くださいね。お待ちしてます~」
サポーターの取材後記
- ynishi
- 取材を通じて、これは障害がある方に限らず、ITを教えるためにはITスキルそのものよりも、コミュニケーションスキルの方が大事であることを改めて感じました。言われてみれば、私自身もITボランティアとしてぱそぼらんに参加して、障害のある方に教えていく中で、IT関連の技術や知識よりも、コミュニケーションのスキルが格段にアップしていると実感します。
今回の取材では、ボランティアメンバーの先輩方から、長く続けていく秘訣として、「教えながら学び、そして楽しむ」事を教わりました。これから、多くの方をサポートしていく中で、まずはコミュニケーションを意識し、そこで得たものから人に教えていく事ができればと思います。
- らいな
- ぱそぼらんの例会にお邪魔して感じたことは、『ほんとうにみなさん、人が好き! パソコンが好き!』ということです。もちろん研修を積まれた方ですが、人とパソコンがとっても好きで、ある分野にはオタク的な(褒めことばです!)それぞれの知識と技能を惜しみなく与えていらっしゃるのはすばらしいことだと感じました。
福祉のことばっかり勉強してきた人だけに福祉を任せていてはいけない。理想はどんな方でも、その個性を生かして、福祉に関わっていくべきなのだな、と痛感しました。しかし、障害をもっている方とどのようにかかわるか、その研修をしていただけるようなのですが、やっぱり不安が先に立ってしまいますね。きちんと勉強して、勇気100%で指導できるようになるには、かなり時間がかかりそうだなと思いました。
わたしが障害のある方のためにいったい何ができるだろうか、と考えるよい機会になりました。ありがとうございました。
おすすめの体験記
-
練馬区生まれの独自スポーツ!「キャッチバレーボール」の魅力に迫る
T V番組などで練馬区が紹介されると、農業や飲食店と並んで必ずといっていいほど取り上げられるのが「キャッチバレーボール」。
練馬区にしかない独自のスポーツで、実はあらゆるスポーツの下支えにもなっているとか?!
そんな競技の魅力を協会の理事長にお尋ねしました。 -
紙芝居は総合芸術?!練馬の歴史を伝える「紙芝居サークル」
シニア世代には懐かしい、紙芝居。実は練馬区の歴史、「ねりまの昔ばなし」を区内12の図書館に、紙芝居として制作し、届けているサークルがあるのはご存じですか?
お話を伺って驚いたのは、1作の制作を全て一人で行うこと。実は奥深い、紙芝居づくりの裏側を、取材して来ました。 -
毎年13万人を超える地域高齢者に「活動の場」を提供しています
シニアナビねりまにも、何度か登場している「はつらつセンター豊玉」。
団体の活動が活発なのは、しっかりとした運営を行う組織があるからに違いありません。
今回は、はつらつセンターの所長やスタッフさんに、その取り組みや活動内容を伺ってきました。
多くの団体や利用者が気持ちよく、そして気軽に使える秘密は、おもてなしの気持ちにあった?! -
身近な氷川神社の長い歴史を、地域との繋がりから紐解く
石神井公園のほとりにある氷川神社。
私たちも、公園同様身近に感じており、日々、お参りに行かれる方も少なくないと思います。
三宝寺池には厳島神社や宇賀神社(穴弁天)、水神社もありますが、これらの神社の繋がりとは?
また氷川神社創建の歴史は?度々目にする場所でも意外と知らないことだらけです。
今回は、そんな、地域と共に歴史を紡ぐ氷川神社についてお話を伺いました。