サポーター体験記
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音の出し方から製法、譜面まで。奥深い尺八の世界を訪ねる

音の出し方から製法、譜面まで。奥深い尺八の世界を訪ねる
遠藤晏弘さんの尺八工房兼教室は
閑静な住宅街にある
誰でも知っている和楽器の一つ、尺八。耳にする機会はあっても、
触ったり、吹いてみる機会はなかなかないのでは?
今回は、練馬の伝統工芸会所属の名工の一人、尺八製作者の三代目 遠藤晏弘さんの工房を取材。
尺八の奥の深~い魅力や成り立ち、専門家でないと知りえないアレコレをたっぷり伺ってきました。

遠藤晏弘尺八工房

取材ご担当:三代目 遠藤晏弘(やすひろ)さん、遠藤鈴匠(れいしょう)さん
※以下、文中敬称略。ご質問は晏弘さんにお応えいただいてます。

所在地
〒179-0085 東京都練馬区早宮4-16-12
電話
03-3992-3426
URL
https://e-108.jimdofree.com/

簡単そうに見えて意外と難しい?!尺八の奏法

――まずは早速、尺八を吹かせていただきました!

遠藤 「尺八には原則的に、子供用とか大人用とかはありません。
今お渡ししたのは子供の体験用として特別に作ったものです。
尺八が難しいのは、吹く時にあごの先端にこの“顎当たり”(=尺八の吹き口部分)を当てるので、自分からは見えないためです。
この吹き口の径が小さめな方が口に合わせやすくなっています。

吹き方は、軽く口を閉じて、力を抜いて、真ん中から息をそのまま真っすぐスーッと出す。
アレコレと変えてはいけません。
息が喉から口の中を通って出てきますが、そのままです。
鳴らそうとせずに、最初は軽く吹いてください」

 尺八に初挑戦!(ドキドキ。。)
構え方から教えてもらいます
尺八に初挑戦!(ドキドキ。。)
構え方から教えてもらいます

ヒュー・・・、スーーッ・・・。あれ?!
・・・出ません!(笑)
苦しいです。酸素が足りません!!(笑)

先代の製作上の工夫を現代に受け継ぐ匠

――では、気を取り直して、質問をさせていただきます。
この世界に入られたきっかけを教えてください。

遠藤 「親がやっておりました。祖父からの代ですので、私で三代目となります。
祖父が始めたきっかけは、たまたま近所に尺八を作っている方が居て、そこで何人か教えてもらった内の一人でした。
小石川で創業し、縁あって練馬に工房を構えました。

子どもの頃は当然私も吹けませんでしたから全く興味はなかったのですが、
成人して、尺八だけではないですが、様々な技術を絶やしてはいけないな、と思うようになり
この世界に入りました。

 三代目 遠藤晏弘さん、尺八について
丁寧に教えてくださいました
三代目 遠藤晏弘さん、尺八について
丁寧に教えてくださいました

祖父がその先生から教わった技術や工程を、いわば体系化し、一定の流れで作成が可能になりました。
この工夫がとても大変だったそうです。
(※ちなみに、当然ですが、門外不出だそうです)

尺八の歴史は古く、大陸から来たのではないか?と言われていますが、定かではありません。
奈良の正倉院にも尺八が何本か残っていますが、その指孔は前に5つ、後ろに1つの6孔で“古代尺八”と呼ばれています。
大きさも現在のものより小ぶりです。今の尺八は、指孔が前に4つ、後ろに1つの5孔です。

最近分かったことなのですが、正倉院に残っている様々な品物の多くが日本製ではないか、と言われています。
科学的な検査等で材料を調べると、国内で作ったのでは?と認識されるようです。
その時分からですので、長い歴史があると言えます。
室町時代あたりから現在の形状になり、本格的に流行したのが江戸時代と言われています」

 左が地無し尺八、右が古代尺八
形状がだいぶ違います
左が地無し尺八、右が古代尺八
形状がだいぶ違います

――虚無僧が吹いてる形ですね!時代劇で目にしたことがあります。あれは修行の一環なのですか?

遠藤 「もともとは、武士が様々な虚無僧寺で修行をするのですが、お経の代わりに曲を吹いていたそうです。
虚無僧は当時、鑑札無しで、全国を行き来できました。
そのため、彼らがあちこちで曲を広めたり、拾って(学んで)来たりして、それで広まりました。
面白いのが、同じ曲でもその地方によってイメージが変わっていたりする点です。
現在では、虚無僧の曲を古典本曲という一つのジャンルとして大事に伝承されています」

「尺八の種類ですが、こちらが中継ぎをした“調律管”ですね。
竹は自然のものですから、それぞれ長さが違います。
音程を合わせるための長さが決まっていますので、長い場合は中程を切って縮めるわけです。
先端を切ればよいということではなく、真ん中を切って繋ぎ合わせます。

 音程調節のために中央部分を切って
繋げる、初めて見ました(調律菅)
音程調節のために中央部分を切って
繋げる、初めて見ました(調律菅)

標準的な長さが一尺八寸のため“尺八”というのです。
6節でも8節でも構わないのですが、標準的なものは7節です」

尺八の楽譜は文字だけ&縦書き!読める?

――先生も演奏するために沢山の練習を行うのでしょうか?

遠藤 「演奏会などがある際には特に時間をかけて練習します。
尺八は、明治以降は三曲合奏と言って、箏(琴)・三味線・尺八の組み合わせによる合奏が盛んになりました。

その楽譜がこのようなものなのですが、これらは唱歌で覚えません。
雅楽などではトーラーロールロ、、、など音程、つまりメロディで覚えることもあるのですが、
尺八は譜で読むのが一般的ですね。
リコーダーでいうところの運指表のようなものがあり、まずこれで書いてあるロツレチリを覚えます」

 見慣れないとまるで古文書のような
尺八の“楽譜”
見慣れないとまるで古文書のような
尺八の“楽譜”

例えばこの“日の丸”の曲は、ツーツーレーレーチーチーレー、、、のように読みます。
この譜読みを覚えて、演奏するわけです。
譜面にある点々は、『間』です。現代の楽譜における、拍子ですね」


――上手くできていますね。
ここで鈴匠さんに模範演奏をお願いしました。

♪~♪~♪~♪~♪~

 息子さんである鈴匠さんは
東京芸大で奏法を学びました
息子さんである鈴匠さんは
東京芸大で奏法を学びました

遠藤 「今のがロツレチリ、ですね。オクターブ高い音は同じ指で吹きます。息の流れとかテクニカルなことではなく、
自然と出てきます。
だいたい3オクターブまで出せます。5つの孔で全ての音を出すことが可能です。
ピアノの黒鍵に当たる半音も、指を少しずらすなどして出すことができ、音階を滑らかに出すことができるのも
尺八の特徴です。

音を滑らかに上げたり下げたりもでき、その柔軟性や独特の音程に、特に海外の方は興味を惹かれるようです」

尺八の楽曲には終わりが無い?その自由さが外国人をも魅了する

――尺八の製作者と演奏家は兼ねていることが多いのでしょうか?また、流派等も知りたいのですが。

遠藤 「昔は、制作者と演奏者が同一というケースも多かったのですが、最近では少ないですね。
尺八は様々な奏法があり、技術的なものはとても奥が深いです。
もちろん、一定以上のレベルになるには時間がかかりますが、ある程度の曲は少しずつでも繰り返していけば、
吹けるようになります。

流派は大まかに2つでして、琴古流(きんこりゅう)と都山流(とざんりゅう)とがあります。
他、明暗流(めいあんりゅう)などもあります。

琴古流というのは江戸時代に黒沢琴古という人が創始されて、全国あちこちにあった虚無僧寺の曲を集め、譜面におこし、
広めました。都山流というのは明治以降に中尾都山という人が、そのころになると洋楽がたくさん入ってきましたから、
その知識も合わせて、楽譜をより分かり易く直したりして広めました。

虚無僧の曲の特徴は、間が無いことです。自由曲、、、拍節を持たないのです。
これが奏者によって同じ曲でも長さが違ったり、自分の気持ちで吹くことができるので、
縛られない自由さが好まれていたりします」

 尺八の特徴の一つに、世界でも稀な
独特の奏法や楽曲の世界観がある
尺八の特徴の一つに、世界でも稀な
独特の奏法や楽曲の世界観がある

――独特の文化ですよね。終わりが無いというか、自由に設定できるというか。魅力的です。

遠藤 「尺八の音色には実はいくつもの音が含まれていて、最近の研究では、この周波数が体に良い、
ということも証明されています。
個人で楽しむ分には、大きな音を出す必要もないわけです。この自由さも魅力かと思います。

西洋のクラシック音楽でもそうなのですが、とりわけ日本の音楽は、回数を重ねて味わわないと
なかなかその魅力に気づくことができないと思います。
尺八も何度も何度も吹くことで、お酒ではないですが熟成されてきて、楽器本体も曲もいいものになっていきます」

膨大な時間を要する尺八の製作、その製法を絶やさず後世に残したい

――尺八は自然のものだと思いますが、どのくらい長持ちするものなのでしょうか?

遠藤 「吹く回数や時間にもよりますが、相当長持ちすると思います。間違いなく一生モノです。
尺八はプラスチック、木製、竹製でも普及用のものと本格的なものと、その材質により価格も様々ですが、
一生使えるものとして考えると、決して高すぎるものではないと思います。

また、一般の方はその製法をよく知らないので、余計に高い印象を持たれるかもしれません。
材質は竹ですが、楽器にするまでには様々な工夫と技術が必要です。
管の中には漆を塗ってありますが、音程に直に影響しますから、製法のコツを掴むまでは苦労します。

一本を制作するのに、だいたい2~3ヶ月、長いものだと半年以上かかります。
材料である竹は、仕入れてから最低でも4~5年は乾燥が必要です。
これも長いものは10年20年経っているものもあるのです」


――最後に遠藤さんの今後について教えてください。

遠藤 「製法の工夫と受け継がれてきた技術もそうですが、曲においても、長い曲は25分を超えるようなものもあり、
これほどに長い曲でも吹いていて飽きない。こういう曲を作れる日本人は素晴らしいな、と改めて思います。
この文化をなんとか絶やさずに、制作技術も演奏方法も、後世に残していきたいと考えています。
個人的には製法の技術を活かして、別の和楽器制作にも取り組んでいきたいと思っています」

 遠藤さんが最近完成させた篳篥
(ひちりき)、なんと設計図が無い
遠藤さんが最近完成させた篳篥
(ひちりき)、なんと設計図が無い

・・・最近では尺八を用いたJAZZや女性の若手奏者なども活躍しており、その意味でもますます奥の深い尺八の世界。
かえって素直な子どもの方が音が出たりする半面、一生の趣味として、60歳、70歳を超えた方も門をたたくこともあるとのこと。遠藤さんが取材中再三、『初めて取り組むことは、どんなことでも難しい。小さい子に文字が書けないように』と仰られてたことが印象的でした。
一日10分20分、その積み重ねが上達に繋がる点は、尺八に限らず全てのことに通ずると、改めて感じた取材でした。

サポーターの取材後記

豆柴
尺八といえば虚無僧の世界、その程度の知識であったが今回の取材は興味深々。工房に伺い、静寂の中に緊張を覚えた。尺八の起源、変遷、吹き方、作り方など専門用語を交え詳しくお話頂いた。江戸時代、お経の代わりに尺八を吹きながら全国行脚したというのは面白い話だ。
いざ体験、残念なことに全く音が出ず、私が甘く見たか、不器用か、吹こうという気持ちが過ぎたのか、先生の懇切丁寧な指導にも拘らず真に申し訳なかった。二時間の取材、尺八の幽玄さ、奥深さを感じることが出来た。
息子さんである鈴匠さんの演奏は心に染みる。師匠が息子さんを見る目は厳しく、親子関係を超えている。御子息が研鑽を積み伝統を踏まえ、しっかりと工房を継ぐ日が来るのであろう。尺八は健康に良く新陳代謝も活発になるようだ。また機会があれば尺八の演奏会へと足を運びたいと思いながら帰路についた。

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