サポーター体験記
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老舗ベーカリーの地域愛!夢を紡ぐ場所で歌う、ラジオ歌謡

老舗ベーカリーの地域愛!夢を紡ぐ場所で歌う、ラジオ歌謡
こちらが江古田のフェアリーテイルズ、
¥1,300でスープとパンも楽しめるイベント
戦後の日本を元気にしたものの一つに、「歌」があります。
当時は誰もが持っていたラジオから聴こえる名曲の数々は、
間違いなく当時の人々のチカラになったことでしょう。
今回は、そんな素敵な「ラジオ歌謡」のイベントをきっかけに
街を盛り上げる活動を続ける地域密着型老舗ベーカリー、
マザーグースさんを取材しました。

フェアリーテイルズ(マザーグース併設)

取材ご担当:ラジオ歌謡講師/吉田拓人さん(指揮者・バスバリトン)
      ラジオ歌謡講師/安斎 航さん(ピアニスト)
      マザーグース代表/萩原ひとみさん
      株式会社ゲイツオンホールディングス 代表取締役/上野 均さん(イベント運営)
      ※以下、文中敬称略。

所在地
176-0006 東京都練馬区栄町29-2
電話
03-3994-2121
URL
https://ayatakahitomi.wixsite.com/mothergoose-ekoda

時代を彩った864の名曲の中から、軽妙なトークで歌を楽しむ

♪歌
20名ほどが集まる、老舗ベーカリー併設のホールで、テンポよく、爽やかな歌声が響きます。

講師の吉田さんがタイミングよく「はーい、次に3番いきますよ~」
「さんはい、どう、ぞっ!」などの合いの手を入れます。これなら、初めて歌う曲でも入り方がすぐにわかります。
ラジオ歌謡は、初めて聞く曲でも耳馴染みが良く、リズムも取りやすいので思う以上に歌えるようです。

吉田 「このイベントは、ラジオ歌謡を歌います。
リクエストにお応えして、練馬区の歌なんかも歌っています。

ラジオ歌謡は朝の時間帯にNHKのラジオで放送していた番組でして、
当時まだTVが無かった時代に始まりましたからやっぱり各家庭にラジオが1つはあって、
それをみんなで聴くっていうのは定番のイベントだったんですね。

今、皆さんも歌詞カードを見てさっと歌えましたけど初めて見た方が簡単に歌えるのが特徴です」

 講師の吉田さんの合図で
スムーズに曲に入り込みます
講師の吉田さんの合図で
スムーズに曲に入り込みます

「僕がこれに出会ったのは去年の夏でして、今日も後ろに代表の
上野が居るんですけど彼が無類の合唱好きでして、合唱好きが高じまして、
一般社団法人ラジオ歌謡研究会の代表である工藤雄一先生とご縁がつながりました。


先生は、これらの曲がどんどん廃れていってしまう、と心配されていて、その時、3冊楽譜をいただいたんです。
これを僕は家に持ち帰り、ちらほら眺めたら、とってもいい曲が多いんですね。
どの曲も一度は聞いたことのある名曲ばかりです」


吉田 「これらの沢山の曲、846曲ありますけれども、
私もこれが廃れていっちゃうのはさみしいな、とその時思ったんです。
それで、いつかラジオ歌謡のイベントをやりたいなぁとずっと思ってまして、
去年の10月くらいまで機会を探していたんです。

当時、親交が芽生えたばかりの安斎さんとの
打ち合わせの際に企画を話してみたら『いいねぇ』となって、
その日のうちに僕らはフェアリーテイルズを覗きに来たんです。

この場所はもともとコンビニで、その前からマザーグースさんの持ち物だったんですけども
この空間が、僕はラジオ歌謡にすごくピッタリだな、ってこうグッときて
『ここでラジオ歌謡やりましょう!』って話になって、1月からスタートしたんです。
最初は(お客さんが)3、4人でしたね。
それから常時10人くらいに増えて行って、今日なんかすごい大人数で嬉しくなっちゃいます」

♪歌
この曲を歌うと、母のことを思い出しますね。
・・・思い出すといっても全然遠くに住んでいなくて、徒歩10分くらいの距離なんですけど (笑)。


正確に覚えていないのですが、子どものころに尾瀬に行った話をこの間母にしたら、
「いや尾瀬は行ってない!」というんですね(笑)。
水芭蕉が咲いていたんですが、これは福島の会津若松、磐梯山だったみたいで
その印象が強烈でそれを覚えていたようです。ここも母と一緒に旅行で行きました」


――軽妙なトークでイベントは進行していきます。
拍手を求めることもなく、自分から拍手の必要もなく、
歌のメロディや歌詞を、じっくり噛みしめて歌い上げる経験は
カラオケとも合唱とも違う、思い出をたどるような、暖かなで緩やかな時間です。

ベーカリーが始めた音楽イベント、地域愛が繋いだ出会い

――今回のような音楽イベントを始めたきっかけを教えてください。

萩原 「フェアリーテイルズはもともと、地域の方にご利用いただきたい、
皆さんがコミュニケーションを取る場、集える場にしたい!という思いがありました。

 ベーカリー「マザーグース」代表の
萩原さん、江古田ではおなじみの人物
ベーカリー「マザーグース」代表の
萩原さん、江古田ではおなじみの人物

こういった働きかけをする中で、吉田さん、安斎さんが手を挙げてくださいました。
やはり、音楽というのは身近なものですし、声を出す、
というのはなかなか普段の生活の中にないことです。
そんな思いがこのイベントに繋がっていったのだと考えています」


――吉田さんと萩原さんは、最初からお知り合いだったのでしょうか?

安斎 「僕のピアノの先生が、江古田に住んでいまして、
僕は幼少期の頃から毎週、江古田には通っていました。
マザーグースさんは、小さいころから良く知っていましたが
以前はコンビニでしたので、こういったスペースがあることは全然知りませんでした。

それである時たまたま通りかかった時にここでイベントをやられていて、
歌声やピアノの音が聞こえて『あれ?なにやってるのかな?』と覗いてみたら、
このような素晴らしいスペースだったんです。それがこの場所との出会いですね」

吉田 「安斎さんも子供のころからこの場所を知っていましたし、
僕も武蔵野音大の音楽教室に通ってましたから、
子どものころに何度となくこちらのパンを食べていました。
ですから安斎さんからお話をいただいたとき、『あぁ、あそこのことかな~』と、
それで話が盛り上がったところはありますね。
今日もスープを出してくれましたが、昔も冬場なんかには、
スープやお味噌汁を出してくれて。素敵な想い出です。

 学生時代の吉田さんも温めた
「マザーグース」の特製スープ
学生時代の吉田さんも温めた
「マザーグース」の特製スープ

僕は今は、神奈川に越してしまいましたが、光が丘には随分住んでまして、
江古田には週に2回は通ってましたから、江古田愛は芽生えますよね

マザーグースのパンで育った人が戻って来る?!地域に開かれた場所

萩原 「ベーカリーから始まっていますが、レストランみたいなこともしていたんです。
隣がパン屋で、持ち込んでバイキングをやったり、料理を運んだり。
とにかく、地域の皆さんに利用してほしかったんですね。

マザーグースは小中学校の学校給食もやってまして、
その頃は、今みたいにご飯とかパスタとかがまだなかった時代ですから1週間ずっとパンだったんです。
私にはもったいない言葉なんですが『萩原のパンで小中学校は育ったんだ』なんて
言ってくださるお客さんがいて、ありがたいな、って思います。

時代とともに変わって、この場所でコンビニも20年やってたんですが、
そういうお客様たちから、イートインスペースが欲しいとかさまざまなご要望も頂いて、
私も欲しいな、と思って、コンビニが近所に移るタイミングでこの場所を開放しました。

 古くから地域を支えた「マザーグース」の
パンたち、イベントではおいしいパンも頬張れる
古くから地域を支えた「マザーグース」の
パンたち、イベントではおいしいパンも頬張れる

地域の方が使える場所は、利用の仕方も色々で、
津軽三味線や、地元の旭丘中学校の子供達が立体アートを作った時に
展示する場所がないということで、ここで飾らせてもらったり。
りっこう幼稚園の方がバザーに使ったりと、本当に音楽を皮切りに、
みなさんが色々なことを考えてくださってありがたいな、というスペースになっています。

それから、うちはパン屋ですから、皆さんが集まった時にパンと、ちょっとした飲み物を
サービスするなど、他ではできないことをして皆さんに楽しんでもらえることを考えてやってます」


――ぶっちゃけ、採算はとれているのでしょうか?

萩原 「まだ去年の8月くらいから始めたばかりですからまだ利益に繋がる、ということはないです。

ここだけではないですが、やはり高い金額だと皆さん、どうしても来ていただけないので、
(パンが付いて)¥1,300円という値段はすごく手頃だと思っています。
ようやく1年経って利用者が増えてきた点は、私としてはすごく嬉しいですが、
集客をたくさんして利益に繋げる、ということは、今後の大きな課題ですかね」

「やっぱり今日は大勢いらしていただいて活気があるっていうことは嬉しいですね。
それから練馬の歌を取り上げてくれるのも、地元としては嬉しいですよね。

今日は告知はしませんでしたが、練馬区で開催されるイベントや情報も皆さんにお伝えしているんですよ。
11月の世界都市農業サミットの事を発信したり、商工会議所さんが作成している
練馬の野菜を使ったカフェやレストランの冊子「練馬野菜物語」を配ったりとか。
私たちは秋に練馬『パンカーニバル』というのを開催しています。
以前はココネリで行っていたんですが、あまりの人気で長蛇の列ができてしまい、
安全面など様々な観点から場所を変え今年は11月23日にこの場所(フェアリーテイル)でやります!
マザーグースをはじめ10店舗の店が集まりパンを販売していきます。
今年は11月1日~11月30日までベーカリースタンプラリーを実施し、
3店舗まわると抽選でクリスマスシュトーレンがあたるイベントも開催します。


商店街も2ヵ月に1度ナイトバザールをやっているんですが、
今回のパンカーニバルの11/23(土:勤労感謝の日)に丁度かさなるので相乗効果を期待しています」

クラシックとポップスの中間、ラジオ歌謡の歴史

――今回、ラジオ歌謡のイベント、ということですが、
なんでラジオ歌謡なのか?それから昭和ラジオ歌謡とか、
昭和歌謡とも聞くのですが、違いがあれば教えてください。

吉田 「ラジオ歌謡、というものはNHKで放送されたもの、
つまりこの番組で取り上げられた楽曲を、私たちはそう呼んでいます。
ですので、昭和ラジオ歌謡、とか昭和歌謡、とか様々な名称はあると思いますが、
私たちの中では、本日の曲は全て“ラジオ歌謡”となります。

始まりは、先ほどのとおり、ウチの上野が合唱好きの繋がりで、
秋田県にお住いのラジオ歌謡研究会の工藤会長さんにお会いしたのが始まりです。

私も当初は
“ラジオ歌謡ってなんだ?”“歌謡曲?自分はクラシックの音楽家だし”
と、興味を持っていませんでした。

そもそもラジオ歌謡の前に、もともとは国民歌謡というものが戦時中まであったんです。
それが、段々と戦争に利用されるようになり、当時の作詞家・作曲家たちも当時の政府の意向に沿った歌詞を書いたり
曲を書いたりしなければならない、ということで非常に心を病んでいったんですね」

 左から、ゲイツオンホールデイングスの上野さん、
ピアニスト安斎さん、声楽家の吉田さん
左から、ゲイツオンホールデイングスの上野さん、
ピアニスト安斎さん、声楽家の吉田さん

安斎 「戦争が終わって、これらを作った作詞家・作曲家は、
間接的に戦争に加担した、とつらい境遇だったと思います。

そんな時、NHKが音頭をとって『日本を元気にする番組を作ろう』となり
それが歌だったんです。そのため、初期のころから生き生きとした曲が大変多いのが特徴です」

――吉田さんらは、そんな背景やクラシック出身の作曲家による楽曲に興味をもち、
工藤会長が言うところのセミ・クラシック、クラシックでもなく歌謡曲でもない
このラジオ歌謡の素晴らしさに惹かれていったそうです。

スペース名に込めた願い、ここは、夢を紡ぐ場所

上野 「この場所が良かったのが、まず、駅から近い点。
そして、1階である点。様々な方が集まることを考えますと、2階や地下だとどうしても魅力が半減してしまいます。
最後に、グランドピアノがある点。また(萩原さんが)ご興味を持たれていた点もプラスですね。

3人で訪れた時に、『ここしかないよね?』とすぐに決まりました。


仕事柄、我々も全国津々浦々物件を探しますけど、ここほど条件がそろった場所は、そうはありません」

――聞いているこちらも、なんだか嬉しくなる言葉です。
ラジオ歌謡はいつくらいのものなんでしょう?

吉田 「昭和21年~35年くらいまでの17年間くらいです。テレビが無い時代に毎日30分間、放送してました。
そのため覚えてらっしゃる方が大変多いのも特徴なんです。

 クラシックとラジオ歌謡、両方の
すそ野を増やす活動をしたい、と吉田さん
クラシックとラジオ歌謡、両方の
すそ野を増やす活動をしたい、と吉田さん

私たちとしましては、ラジオ歌謡のファンは、クラシックも馴染めると思いますし、その逆もあると感じています。
実際に大きなホールでラジオ歌謡のイベントも行っていますし、
クラシックの演奏会と合同で開催することもあります。
両方のファンを一度に増やすような発表の機会を増やしていきたい、と考えています」

萩原 「プロのクラシックの声楽家の方と一緒に、
大きなホールの一流のステージに上がれる機会が現実にあるなんて
夢のような時間ですし、歌が好きな人が集まれば、もっともっと広がっていくと思います」


【イベント情報】
2019年11月18日(月)
18:00~開場 18:20~開演 杉並公会堂 大ホール
晩秋の第九&懐かしのラジオ歌謡 全席指定 ¥5,500
指揮者は本日取材した吉田 拓人さん、ピアニスト安斎 航さん。
芸能人のゆうたろうさんもお招きしています。
http://www.gateson-holdings.com/E_20191118suginami_soloist.html

――訊けば、一度来たお客さんは、ほぼリピートされるそう。
音楽の街、江古田にはこの場所のような様々な“歌える場所”が存在していますが、
ラジオ歌謡は、その入りやすさでは群を抜いている印象でした。
音楽好きが集まるこの街では、あちこちのお店で歌仲間とばったり会って
また繋がってゆく、、、そんな場面も多いとか。

ここから夢のような物語が繋がるように、アートディレクターの北川フラムさんが
命名してくれた、「フェアリーテイルズ」。
人と人とのつながりと活気を本当に喜んでいる萩原さんの姿から、
とんでもなく大きな夢が実現してしまうのではないか、そんな風に感じた取材でした。

サポーターの取材後記

シルク
プロの指揮とピアノ伴奏で、歌うことの心地よさを存分に味わえた至福の2時間でした。曲の合間の軽妙なトークも良かったです。
そして、楽しみにしていた「もぐもぐタイム」。この日のメニュー、「野菜たっぷり冷たい和風スープ、看板メニューのパン3種、フリードリンク」に舌鼓。大きな声で歌ったあとで、心もお腹も満たされました。
「ラジオ歌謡」を何とか後世に残したいという音楽家たちの思いと、長らく支えてもらった江古田の街の人たちのために、集いの場を提供しようとする店主の心意気に拍手を送りたくなりました。
お父様から買ってもらったというグランドピアノの音色が時を越えてよみがえり、これからもずっと江古田の街に響きわたることでしょう。
らいな
「マザーグース」は、個人商店でのインストアベーカリーのさきがけとも言えるお店です。江古田で生活している人なら一度は食べたことのあるなつかしい味のパンは、職人さんの確かな技術に支えられています。
店主の萩原さんには、一昨年秋の「江古田音楽祭」で初めてお目にかかり、江古田を活性化しようとする静かな情熱を感じました。そんな萩原さんのフリースペース、「フェアリーテイルズ」で開かれる「ラジオ歌謡」のイベント。2019年の1月から始まり、定期開催が軌道に乗っていました。そこでシニア世代が参加しやすいイベントとして、どうしてもここで紹介したいと考えておりました。
参加した感想は「本物にふれることができる」こと。目の前でプロの確かな歌とピアノを聴きながら歌えることは、まさしくアナログの魅力であり、デジタル優位の世界で私たちが失いかけているものを思い出させてくれます。ラジオ歌謡にふれたことがある方なら、どなたでも楽しむことができるはずです。迫力ある生音と、おいしいパンが待っています。

サポーター紹介