サポーター体験記
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練馬区立美術館を楽しもう ――もっと豊かな充実した人生をあなた自身で――

練馬区立美術館を楽しもう
4mのモザイカルチャーのクマがお出迎え。存在感があります。
西武池袋線の中村橋駅から歩いて3分。建物前の美術の森緑地は「幻想美術動物園」となっており、胴体と足は大根、顔とたて髪は植物の“ネリマーマ”や写真のクマなど、実に32体もの動物などのオブジェが出迎えてくれます。これらは、すべて練馬にゆかりのある美術家や大学の協力のもと作られた作品です。爽やかな秋晴れの中、期待が膨らむ取材となりました。

練馬区立美術館

学芸員 眞子(まなこ)みほさん、事務担当 福岡祐美子さん
※以下、文中敬称略。

所在地
練馬区貫井1-36-16
TEL
03-3577-1821
FAX
03-3577-1824
指定管理者
公益財団法人練馬区文化振興協会
URL
https://www.neribun.or.jp/museum/

日本近現代美術を数多く所蔵する美術館

日本近現代美術を数多く所蔵する美術館 ロビーの様子。外観からの想像よりも、かなり広い印象だ。
ロビーの様子。外観からの想像よりも、かなり広い印象だ。

「練馬区立美術館」の開館は1985(昭和60)年10月1日。展示室が3室、区民ギャラリー(一般展示室)、創作室、そして全館が車椅子も自由に行き来できるバリアフリーとなっており、ロビーに土・日・祝日営業の喫茶コーナーもあります。

ロビーは吹き抜けになっていて、2階と3階を行き来するつづら折りの階段から眺められる開放的な空間となっています。奥にはエレベーターがあり、足の不自由な方も難なく移動できます。また、3階のエレベーター出入り口からの廊下には広めの椅子が用意されていて、こちらは目の前に仕切りがないため、ゆったりと座りながら館内を見渡せ、美術館独特の空気を感じることができるようになっています。このように、シニア目線で見ても、非常に考えられた作りになっている点にまず、感心しました。

――身近にこんな素敵な美術館があるなんて、区民として大変嬉しいのですが、開館から33年の運営は、大変だったのではないですか?――

眞子「開館当時は日本全国に公立美術館がたくさん建った時期でして、当館も先に建物ができ、所蔵品は一点しかありませんでした。それでも、区民の豊かな生活に寄与する美術館を建てようという気概があって、開館当時の関係者は少しずつ努力していきました。美術館は基本的に作品を収集して保存管理し、研究、そして展示という役割がありますので、まずは作品の収集です。これにはやはり、一つの方針がないとダメですね。『練馬ゆかりの作品である』ことに加え、『近現代の』という意図を反映しています」

 学芸員の眞子さん。素人の私たちに丁寧にご説明くださいました。
学芸員の眞子さん。素人の私たちに丁寧にご説明くださいました。

「作品を集める方法は二種類あって、購入か寄贈になります。最初は購入資金が少なく、練馬ゆかりの作家からの寄贈を・・・ということも考えたようですが、やはりそれは無理で、少しずつ購入していたようです。努力が実り、現在この美術館には7,430点(寄託を含む)の所蔵品があり、収蔵庫に入りきらないという悩みをかかえています。美術館の認識が広まるにつれ、寄贈も増え、現在の所蔵の大半は寄贈品となっています。
『練馬区立美術館』の所蔵品については所蔵目録が冊子として出版されていて、インターネットからも検索できます。検索すると、分野別、作家別、題目などで、自分が見たい作品、調べたい作品にすぐにたどりつくことができるのです」
*練馬区立美術館
 http://jmapps.ne.jp/nerima_art/index.html

所蔵品がきちんと整理され、一目でわかるように保管されており、担当する職員の方々の粘り強い努力に感動すら覚えます。

――所蔵品は美術館のもの、なのでしょうか?――
眞子「いいえ、作品は練馬区のものです。区民皆さんのものです。1982(昭和57)年に設立された『公益財団法人練馬区文化振興協会』(当初は財団法人練馬区文化振興協会)が指定管理者として管理運営をしており、その一つの部門である練馬区立美術館が美術に関する様々なことを担っています。ちなみにこの練馬区文化振興協会には他に、音楽や舞台芸術を発信する『練馬文化センター』『大泉学園ゆめりあホール』、練馬の歴史を伝える『石神井公園ふるさと文化館』『石神井公園ふるさと文化館分室』などの施設があり、練馬区に文化・芸術を根付かせて、区民の生活をより豊かにする活動を広げているのです」

 所蔵作品目録。インターネットでも簡単に分かり易く閲覧できる。
所蔵作品目録。インターネットでも簡単に分かり易く閲覧できる。

――練馬区ゆかりの芸術家は多くいらっしゃるのですか?――
眞子「そうですね、多いです。次の展覧会は練馬区内にお住まいの桂盛仁先生の『金工の世界―江戸彫金の技―』ですが、桂先生は人間国宝です。

練馬区には人間国宝が四人いらっしゃいます。金工の桂盛仁さん、木工の大坂弘道さん、能楽師の野村万作さん、そして本年認定された能囃子方大鼓の柿原崇志さんです。他にも、多くの作家さんがおられますので、今後もつながりを大事にして展覧会を催していきたいと思います」

練馬区民の豊かな生活のために、美術館を含めた様々な取り組みがあること、区内に何人もの人間国宝の先生方がお住まいであることに、区民として誇りを感じます。

多岐にわたる学芸員の仕事が美術館を支えている

美術館の学芸員は、展覧会の企画、所蔵品の選択、ワークショップの企画、実施等、美術の普及やそれに伴う専門的な仕事をされています。美術館の特徴は、所蔵品のほかに、どの分野に強い学芸員がいるかで見分けられるとも言われており、その存在はとても重要なのですが、学芸員は“縁の下の力持ち”で、決して目立つ存在ではありません。お二人に、具体的なお仕事をお訊きしました。

――練馬区立美術館に学芸員は何人おられるのですか?――
眞子 「4人です。それぞれに担当分野がありまして、
・日本の近世、主に浮世絵の担当、
・日本近代の専門、
・フランス近代の専門、
そして私は、何でもします(笑)。この美術館に来て、展示の企画だけでなく、教育普及担当など、幅広くさせていただいているので、とても楽しいです。
このくらいの規模の区立美術館だからこその、“いいとこ取り”ができる感じがとても好きです。4人の学芸員の中では、私が一番、人と接する機会が多いのではないでしょうか」

――教育普及というのは、具体的にどんなことをされるのですか?――
眞子「教育普及ではさまざまな入り口をつくり、美術に触れる、関われるように手助けをします。例えば、幼稚園から小・中・高校生の皆さんが授業の一環として、見学に来たときの説明や案内ですとか、学校に行ってお話したり、美術の先生の意向を聞いて授業をする、などです。
また、大人の、例えば美術サークルで楽しむ方々の鑑賞を手伝ったりもします。先日はカルチャーセンターで建築を学ぶ皆さんが来られるというので、作品説明の他に、この建物のお話をしたり展示室の仕組み等もお話しました。
そのほか、展覧会の関連事業として、展覧会のテーマに沿った実技や講演会なども行います。

学校から申し込みを受けた時には、ここに来られる目的をはっきり訊きますから、ご要望に添えるよう、勉強しなくてはなりません。子ども向けには、飽きないで楽しく鑑賞してもらう方法であったり、彼ら彼女らの意見を引き出すにはどうしたらいいか、と考えて工夫もします。よくするのは『探し物ゲーム』ですね。展示室で『帽子を探して』『果物を探して』などと言うと、絵の中から一生懸命に探して『ここにあった!』『あそこにもあるよ!』って(笑)。楽しんでくれていますよ」

 取材当日も、見学に来ていた区内の児童に展覧会を案内していました。
取材当日も、見学に来ていた区内の児童に展覧会を案内していました。

福岡「学芸員の仕事は多岐にわたります。案内などの業務を行う一方、研究者でもありますから、日夜調べものをしたり、様々な勉強を重ねています。それらの調査や研究がずーっとつながって、成熟したタイミングで咲く花が、展覧会と言えます。そして、展覧会を開催しそれを紹介することで、研究活動は教育普及にもつながります。展覧会も一期一会のもの。お客様に学芸員が咲かせた花に出会っていただけると嬉しいですね」

 福岡さんほか、4名の職員が事務にあたっている。
福岡さんほか、4名の職員が事務にあたっている。

――ぜひ、その“花”を感じられる鑑賞をしたいと思いますが、どんなコツがありますか?――
眞子「作品は、いろいろな見かたをしていいんですよ。『きれいね』と感じてくださるのでもいいし、ご自身の生活とか経験に結び付けて『懐かしい』と想ったり、悲しみや寂しさ時には緊張や弛緩など、様々な感慨を持ってくだされば有難いです。もちろん知識を得るための鑑賞も。
美術館の教育普及事業で大切にしているのは、敷居を下げる事ではなく、いろんな形の入り口を作っておくこと。つまり様々な人が選択できる場の提供です。当館では、0歳から大人まで様々な年齢を対象とした事業を行っていますし、様々な入口の一つとして、コンサートや講座も開催しています。

日本人は真面目なので、『美術館はこういう場所で、こういう風に鑑賞しなくてはいけない』などと、難しく考えがちですが、もっと簡単でいいんです。食べ物の絵を見て、『アッ、美味しそう。今度こういう料理を作ってみようかしら』なんて思ってもらえたら、すごく嬉しいですね」

――学芸員のお仕事には鑑定、管理、選択もありますね――
眞子「ここに鑑定士は在籍しておりませんので、学芸員が見て判断しています。迷う場合は、外部の専門家に依頼して見てもらいます。また、寄贈だからと何でも受け入れることはできません。依頼があってから、学芸員が話し合って、結論を出しています。最近多くなっているのが、他の美術館からの『展覧会に出品するために貸してほしい』という要請です。美術館同士貸し借りがありますから、快く受けさせていただきます。でも、これまでの11年の勤務でここまで貸し出し要請が多いことはありませんでした。

この数年で、戦後の美術作品が見直され、様々な美術館で展覧会が開催されるようになったのではないかと思います。来年には海外にも貸し出すかもしれず、今、いろいろと調べながら進めているところです」

 学芸員の多岐にわたる仕事の内容に、興味津々。
学芸員の多岐にわたる仕事の内容に、興味津々。

学芸員が展覧会を企画して、実現するまでには最低1年半から2年を要します。大きな展覧会ともなれば、準備に10年かかることもあるとか。私たちが気軽に楽しむ陰に、大きな努力があることを見過ごしてはいけないと感じました。

地元の美術館をもっと楽しもう、もっと誇ろう

本年4月、秋元雄史新館長が就任されました。秋元さんは、香川県直島のアートプロジェクトに加わり「地中美術館」の館長を、そしてその後、「金沢21世紀美術館」の館長を歴任され、現在は東京藝術大学大学美術館の館長も兼任される美術のオーソリティーです。
就任後のご挨拶で、「ワクワクドキドキする美術館活動をしていきます」と語っておられ、地元民としては期待が高まります。

――ところで、現在開催の「笠井誠一展」の年譜の作成者として眞子さんのお名前がありましたが、これは眞子さんが企画されたのですか?――
眞子「そうです。笠井先生は現在86歳ですが、精力的にお描きになっています。お生まれは札幌市ですが、17歳で上京した当時、練馬区にお住まいでしたから、区ゆかりの作家と言えますね。今回の展覧会では初期の風景画や人物画から始まり、現在につながる静物画まで展示しています。

笠井先生の描写は、若い時分にフランスに留学し、アカデミックな教育を受けたというご自身の自負をいかに崩し、消化してゆくかという点が特徴的です。作品の画面構成・視点を工夫されているところがあって、私は大変面白く感じます。

八王子のご自宅まで、打ち合わせに伺いましたが、展覧会が始まってからは美術館に何度も足を運ばれて、本当にお元気です」

 現在も創作を続ける、笠井さん。アトリエでの様子。(展示パネルより)
現在も創作を続ける、笠井さん。アトリエでの様子。(展示パネルより)
 「2つの卓上静物」(2000年)。実際に目にする遠近感を、あえて崩しているのが分かる。
「2つの卓上静物」(2000年)。実際に目にする遠近感を、あえて崩しているのが分かる。

――区民が美術館を、鑑賞以外に利用することはあるのでしょうか?――
眞子「はい、あります。毎年2月に『区民美術展』があり、これはどなたでも応募でき、展示されます。絵の好きな方は楽しまれているかと思います。こうした地元の人を対象とした公募は国立や私立の美術館にはあまりありません。地元美術館ならではですね。(2018年11月30日まで、第50回練馬区民美術展の応募受付中。詳しくは練馬区立美術館HP)
https://www.neribun.or.jp/museum.html

また、一般の方が借りられる展示室や創作室もあり、美術品の創作、研究、サークル活動等々に使われています」

福岡「貸し出し用の部屋は一般の方も借りることができます。生涯学習団体として登録されているグループは区内にたくさんあって、部屋貸しできる施設を上手に使って生活を楽しんでいる方は大勢いますね」

――私たちシニア世代が楽しめることが美術館にもたくさんありそうですね――
眞子「そうです。この美術館が得意とする近現代の展覧会は、描かれた時代を身をもって知っているシニア世代の方々こそ、作家が描く世界や表現の理解に親近感が湧いたりして、楽しめると思いますよ。

企画展の観覧料も75歳以上は無料ですし、65歳以上は割引となっています。一般でも1000円以下です。ぜひお越しいただき、楽しんでもらえればと思います」(料金は2018年11月現在)

それほどお金をかけなくとも、素晴らしい作品に触れられ、また時には出展するなど、使い方で人生を豊かに過ごすことができる。そんな施設が練馬区立美術館だと感じました。この有難い環境を活用しない手はありません。もっと気軽に、もっと頻繁に足を運んでみたいと思います。

サポータの取材後記

なかなか
サポーターをしていて、“有難いご縁”を身に染みて感じている。今回も然り。取材の申し込みをした時点で、事務担当の福岡さんの優しさ、思いやり深さに感じ入ってしまった。さらに取材時、学芸員の眞子みほさんの真っ直ぐなお応えに心洗われ、嬉しくなった。眞子さんは、「美術館で大切にしているのは、いろいろな入り口を作ること」と言われた。それは鑑賞者を尊重し、作品の様々な価値を私たちが新たに見出すことにつながる。芸術というものは、すべからく年齢を重ねる毎に自身の中でその価値が高まるのではないか。
すごい内容の言葉をサラッと話す学芸員が私たち区民の美術館にいることを知って、練馬の誇りが一つ増えたような気がする。
オーパちゃん
今回の取材で、素晴らしい所蔵美術品が練馬区にあることを再認識いたしました。展示が実現されるまで、担当される学芸員の方は本当にご苦労の多いことと思います。優れた美術作品を保有しているからこそ、他の美術館と交流ができ、素晴らしい企画展示が出来ると言えましょう。
「練馬区立美術館・所蔵品」をインターネットから検索してみましたら、非常に良く整理された目録から画像を見ることが出来、感銘を受けました。
本年2月~4月には、フランスのポスター作家「サヴィニャック」の展覧会が、練馬区独立70周年記念展として開催されました。また、生誕150周年記念「藤島武二展」が開催された時には、天皇・皇后両陛下がご鑑賞されています。私も2つの展覧会を大変楽しく鑑賞することが出来ました。

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