サポーター体験記
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彩るのは、地域や人生。練馬の絵の具製作会社に直撃!~誰もが親しむ「絵の具」の秘密。社長の熱い思いに迫る~

彩るのは、地域や人生。練馬の絵の具製作会社に直撃!
社屋にある、社長お手製テラスの前で記念撮影!いつでもお気軽にお越しください。
学校で一度は使ったことがある、「絵の具」。皆さんも色を混ぜて、微妙な色彩を作ったこと、ありますよね?文字通り、無限の表現力を持つ絵の具。なぜ、紙などに色が着くのか?どうやって作っているのか?知ってるようで、ぜんぜん知りません。童心にかえって取材しました!

ニッカー絵具株式会社 代表取締役社長 / 妻倉 一郎さん

<取材先情報>
東京都練馬区北町2-32-5
http://www.nicker-enogu.com/

百聞は一見にしかず!まずは工場内の見学からスタート

百聞は一見にしかず!まずは工場内の見学からスタート ご案内いただくのは、社員の赤尾さん。この道45年の大ベテラン。
ご案内いただくのは、社員の赤尾さん。この道45年の大ベテラン。

社長とのご挨拶もそこそこに、「まあ、一度見てみてくださいよ」とのことで、約180坪の敷地をぐるり見学開始!所狭しと機材が並ぶさまは、まさに町工場!

「昔は平屋建てで2階がなかったんですよ。後から事務所を増築したので、今では複雑に入り組んだ社屋になってしまいました(笑)」

むむむ。。。確かにこのスペースに実に様々な設備が詰め込まれています。

環境に最大限配慮した排水処理施設などを見学

環境に最大限配慮した排水処理施設などを見学

「ここが、排水処理施設です」

赤尾さんにご案内いただきますが・・・・。設備のようなものは、ないのですが。。。
ここは資材置き場ではないですか?

「いえいえ、今皆さんがお立ちになっている“下”に設備があるんですよ」

え!この薄い板の下ですか?それは驚きです。

「水彩絵の具は製品を作る際に、一つのマシンでいくつもの絵の具を作るので、1つの製品が作り終わったら、当然洗います」

「その際に、大量の色水が出るのです」

・・・ははぁ、私たちも筆を洗うと、様々な色の水ができますもんね。最後はどんどん、グレーっぽくなっていくアレ。

「下水道法で有害成分は厳しくNGとされているため、こんな風に処理をしています。排水に『苛性ソーダ』と『塩化第二鉄』を混ぜますと有害成分がゲル状になり、沈殿・分離されます。この際、ゲルが色の成分を巻き込んで沈殿するため、比較的キレイな水と汚水とに分離するのです」
※ここでいう有害成分とは廃棄された色素などを指します。

なるほど、この上澄みの水を排水として流すのですね。色のついた方はどうなるのでしょうか?

「汚水(ゲル部分)は産業廃棄物専門業者がマニュフェストに基づき引き取り、埋め立ててます」

工場の排水能力は最大20t/1日の水だそうで、通常はだいたい10t/1日くらい処理しているとのこと。排水だけでもかなりの量ですね。

絵の具の材料発見!ここで絵の具を作っています

絵の具の材料発見!ここで絵の具を作っています 顔料置き場。ここからカラフルな絵の具ができるのは、まだ想像しづらい。
顔料置き場。ここからカラフルな絵の具ができるのは、まだ想像しづらい。

「顔料の色は、基本だけでおおよそ350種類ほどあり、この工場でも揃えています。実際はもっともっとたくさんあるのですが、調合(色を混ぜること)によって、理論上は際限なく色が作れるため、350種類くらいそろえておけば十分なんですよ」

赤色と黄色を混ぜるとオレンジになるとか、青色と黄色を、混ぜると、緑色になるのと同じ原理ですね。材料でもそれをしてるんですね。

「続いて、3本ロールミキシングマシンです」

 今作っている「茶色」は粘土を焼いて、その粉砕粉末から作成します。
今作っている「茶色」は粘土を焼いて、その粉砕粉末から作成します。

そもそも絵の具は、「顔料」の粒を細かく砕いて、その周りに“バインダー”と呼ばれる、簡単に言えば一種の接着剤を付ける事で、粒が紙などに付着し、「色」になります。この機械では、3本あるローラーの回転速度を変えて、顔料を砕くことと接着剤を付ける工程を行っています。
この接着剤には食品などにも使用される、「アラビアガム」が使用されます。ほかにはアクリル樹脂、メチルセルロースなどを使い分けて、多品種の製品を作っています。より安全な材料を使って作っているのです。
ちなみに絵具は、このミキシング作業のあと数日寝かせて、接着剤を定着させます。専門的な使用が想定される『デザイナーカラー』と呼ばれる製品は1年寝かせるなど、作成自体にとても手間がかかるのです。
さらに2週間ごとに、4℃~55℃の温度に下げたり上げたりして、品質の変化に耐えうる製品を作っています。(サイクルテストというそう)
※この段階でダメになるものは、製品にできないそうで、全部捨ててしまうとのこと。

絵の具会社の心臓部!レシピが保管された棚と研究室へ

おお?!何やら雰囲気のあるスペースですね。

「ここが、レシピ棚です。今まで作成したたくさんの絵の具の調合が、大事に管理されています。「万一火事になっても、これだけは死んでも持ち出します」

赤尾さんは冗談交じりに言いますが、文字通り、命と言えます。
ここには、350~600種類の「色」のレシピがあります。調合の作業自体は比較的簡単ですが、同じ発色を再現するのが難しいのだとか。

「どんなにレシピ通りに調合しても、最終は必ず人間の目視で合わせます。判断ができるようになるまでには、最低でも10年の経験が必要です」

まさに職人の世界なんですね。

 ニッカー絵具さんの心臓部。歴史と職人のプライドを感じる空気です。
ニッカー絵具さんの心臓部。歴史と職人のプライドを感じる空気です。

様々な色の調合や研究が行われる、もう一つの心臓部が「研究所(ラボ)」。ここで調合されるわかりやすい商品例では、「神社の社殿の天井や内装の色」。皆さんも観光などで見たことがあると思いますが、実はあの色、ペンキではなく、アクリル絵の具であることが多いのだそう。内装は風雨にさらされないため、一度色が定着すれば、よほど強い力でゴシゴシこすらなければ基本的には色落ちしないので、絵の具が便利なのです。一方で、神社の内装となると、現在の見た目の色も経年劣化=つまり退色しているため、その再現・調合がとても難しいそうです。

見学が終わったところで妻倉社長のインタビュー開始!

見学が終わったところで妻倉社長のインタビュー開始! なんでも話してくれる、気さくな妻倉社長。見るからにサービス精神旺盛なタイプ!
なんでも話してくれる、気さくな妻倉社長。見るからにサービス精神旺盛なタイプ!

―――会社について、教えてください
「ニッカーの発祥は板橋の工場からでした。営業&総務&経理の機能は、もともと千代田区にあったんです」

現在の妻倉社長は4代目。営業畑の出身で、大手製作所に勤務していたそうです。

「名称は『日本化鉄工業(株)』からですよ。カタカナで略すとニッカなんですけど、有名なお酒と混同されちゃうでしょ?(笑)それで、伸ばすことにしたんですよ」

創業70年の老舗ですが、もともとは軍需産業の会社だったそうです。戦争当時は、鉛や錫(スズ)の軍需利用だけなく、絵の具そのものも、例えば戦意高揚などのポスターなどに、多く利用されました。戦争が終わり、残りの材料を平和利用できないかと、初代社長が考え、絵の具のチューブを作ったのが始まり。確かに皆さんになじみ深い絵の具は、鉛に包まれてますね!ギュッと握ると中身が飛び出しちゃって、友達の服を汚しちゃった、、なんて経験、あるのではないでしょうか?

「当時の絵の具は輸入ものが大半だったことと、ちょうど終戦を迎え、『デザイナー』という職種が台頭し始める時流に乗れて、会社は大きくなったんですよ」

 倉庫に大切に保管されている、かなり昔の製品。今改めてみると、デザイン性の高さに驚く。
倉庫に大切に保管されている、かなり昔の製品。今改めてみると、デザイン性の高さに驚く。

今や輸出先は北京/中国/台湾/韓国/タイ/アメリカ/オランダ/ドイツなどなど。基本的に小売りはしていないのに、あの“世界的に有名な日本アニメのスタジオ”の影響からか、全世界からメールが来るそう。

「本当はハンズさんとか世界堂さんとかのお店で買ってほしいんだけど、こっそり対応しちゃうんですよね」

妻倉社長は、頼まれると嫌とは言えない性格のようです。

―――絵具業界について教えてください。
「絵具屋さんも一時は40社以上あったんですよ。でも今は10社程度。ブランド品(定番)以外にOEMなども製造しています」(OEM・・・original equipment manufacturing=相手会社の発注品の、相手先ブランドの形をとった生産のこと)

―――ニッカー絵の具の製品の特色などはありますか?また製品のラインナップを教えてください。
「まず、何と言っても発色がいい。それから混色しても濁らず、黒ずまない。素材にこだわりがある点でしょうか。例えば100円ショップなどで買える商品は中国で大量生産です。一つの選択肢ですが、いいものはやはり、質に差が出ますよ」

ニッカー絵具では、絵の具だけでなく、『クレイ』という粘土細工用のカラーも作っています。あの後ろにさりげなく置いてある人形がそうですね。

「まさに顔が命、なんですね。発色にとても苦労しました。発色と言えば、あのスタジオの発色も大変でしたよ。例えば『リボンの赤』をたった一色作るだけでも、80回くらい試作品を作ります。向こうがこだわるからこっちも意地になっちゃってね(笑)。とことん付き合いますよ」

知る人ぞ知る、『日本のアニメーション制作』四つの源流のうち、練馬区には東映動画と虫プロダクションの二つがありました。このスタジオの他にも数々の有名アニメーターを輩出しており、日本のアニメ文化の礎を築いた草分けの地、と言っても過言ではないでしょう。
彼らを支えた努力や協力の姿勢もあり、世界中のアニメーターから絶大な支持があるのが同社製品の特長でもあるのです。

人が集まる、緑にあふれる!自称「地域密着型企業」

―――入口のツタのからまるテラスも社長が作られたとか?
「そうですよ。あのテラスは地域にも開放しているので、近所の人も休憩にしばしば訪れます。涼みに来たり一服したり。私は会社というのは、もちろん経営という頭脳も大事なんですが、何よりハートが大事だと思うんです」

地域での雇用も積極的に行っているそうです。

「例えば内職なんかは工賃は安いかもしれないけど、お子さんのいる家庭だと、なかなか決まった時間に外に出にくいですよね?だから資材をもっていってあげるんです。で、時給ではなく、頑張った分だけ、きちんと払います。そうやって、地域の皆さんの力を借りながら、大きくなっていったので、恩返しみたいなものでしょうか」

働きやすさもちゃんと考えている社長。パートのかたは16名と多いですが、離職率が低いそうです。インターンシップの受け入れにも積極的で、中学&高校で年間10校ほど受け入れています。

「そうだ、これから暑気払いなんだよ。午後一件、打ち合わせ終わったら、材料の買い出しに行くんだよ。BBQするんだ。
インターンシップの学生の送別会と、パートのかた達とその家族を交えた、慰労会を兼ねた暑気払い!」

社長が行かなくてもいいと思うのですが・・・。「食材にこだわりがあるし、俺がやりたいんだよ」実に人情味に溢れています。

練馬区との深い関わりと「入門者」へのアドバイスとは?

―――練馬区でのエピソードは何かありますか?
「手塚先生が、カラーの依頼をしてきたことかな。当時、TVはモノクロでしょう。色は黒から白までのグレートーンでNo.1~No.6の6段階しかなかった。それが普通だった。ところが先生は『3と4の中間のを作ってほしい』と要望され、それで3.5の色味を特別に作成したんですよ。これが『鉄腕アトム』のブーツに色になったんです」

おお!そう考えると、皆さん世代はグッとくるものがありますよね。

「でも1年くらいでTVがカラーになっちゃって、あまり使わなかったけど(笑)。ちなみにカラー化した後は、ブーツの色はカーマイン(赤)指定になりました」

また、練馬区の独立70周年を記念してつくられたオリジナルグリーンの5色の絵の具も、ニッカーさんが手がけています!

 幻の3.5グレー。マンガの神様のこだわりは、練馬の工場にも息づいています。
幻の3.5グレー。マンガの神様のこだわりは、練馬の工場にも息づいています。

―――絵の具の奥深さが少し、わかりました。入門者/初心者へのオススメ商品などありますか?
「そもそも無理矢理絵の具である必要はないと、私は思ってます。一番大事なのは、やる気とか興味。そこに文字通り『ちょっと色を付けてあげる』のがうちの役目。色がどれだけ美しいか、そして色がどれだけ難しいか、そういう“発見する歓び”を提供したいね。あ、そうだ。せっかくだから、マーブリングの体験していってよ」

マーブリングとは、水に特殊な溶剤を混ぜ「水面に浮いた絵の具を別のものに転写する技法」。きれいな渦を描き、そこに石などをそっと落とすと…あっという間に石に色が着きます。これは面白い!

 白い石が一瞬にしてカラフルな宝石に!水があるのに色落ちしないのは、とても不思議。
白い石が一瞬にしてカラフルな宝石に!水があるのに色落ちしないのは、とても不思議。

会社の最近の活動としては、東京芸大とコラボして、茨城県の取手市に壁画を作成する支援などを皮切りに全国展開中です。すぐに落書きされるそうですが、作品は特殊な塗料でコーティングするので、洗浄して落書きは落ちても作品は残ります。

「ああいう落書きも、スピード感と完成度から考えると、もはやアート。なんとか日の目を見せてあげたいとは思っているだけどね」社長の想いが溢れます。イベントも多数開催していますので、皆さんが社長に会う日もそう遠くないのかも?!

取材をしてみて、知ってるようで知らない絵の具の製作工程を理解できました。また、妻倉社長にインタビューする中で、練馬区にこんなに業界や世界中から愛される会社があることを知りました。地域とのつながりもとても大事にされていて、温かい気持ちになる時間でした。今度、テラスに出かけてみようと思います!

サポータの取材後記

豆柴
小さい時に絵画教室に通ったことがある。当時を想い出しながら東武練馬駅から徒歩7分、住宅街に本社兼工場があった。超ベテランの技術顧問氏に、まず工場内を案内して頂く、心臓部まで見せて頂いたが、材料の多さ、色合の多さに驚く、対応するため、多品種少量生産ゆえ製造工程はシンプルだが多くの工夫がなされ技術の伝承がなされている。社長の絵の具作り一筋、品質へのこだわりが、多くの顧客、ファンを惹きつけている。社員を厳しくも大切にし、かつ効率的な経営が、昨今の嗜好の多様化など業界が変容する中で力強く時代を先取りされる経営を可能とされているのであろう。
取材後、マーブリングを初体験、懇切丁寧に指導を受け、素晴らしい絵模様が出来上がった。早速自宅の本棚に飾ったが、また材料を仕入れたいと思っている。社訓は『never ,never ,never』決してあきらめないということ。力強い社長の言葉から、組織運営は、どうあるべきかを改めて知った。
オーパちゃん
練馬区の産業に「絵の具のメーカー」があることは初めて知りました。頂いた「ニッカー美術材料」カタログから製造されている色種ばかりでなく用途の多様性など製品の種類の多さに驚きました。それをしっかりと品質管理されて製品化されている様子、それに加えてあたたかい妻倉社長のお人柄と自信に満ちた経営のご様子、大変素晴らしいということが取材後の印象です。
早速ニッカー絵具のホームページhttp://nicker-enogu.com を開いて見ましたら先ず「東武練馬」駅付近の絵がかれたカット、それに動画で“背景の描き方”が目に止まります。動画を見て早速ニッカー絵具を使ってみたくなりました。
妻倉社長さんのお話で、ニッカーの製品は遠く絵の具の本場、オランダ・ドイツにも取引されておられるとのこと、品質の良さ、行き届いた品質管理が世界的に認められている為でしょう。練馬区の誇れる街工場です。

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