サポーター体験記
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障害者と地域をつなぐ、こだわりパン~NPO法人たしざん~

障害者と地域をつなぐ、こだわりパン
障害があっても住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、グループホームの設立を目指しながら、パン作りとカフェを運営している「NPO法人たしざん」。閑静な住宅街にある一戸建ての1階と庭のテラスを利用して営業しています。どのような思いで活動をしているのか、また、私たちに支援できることはあるのでしょうか。そんな視点でお話を伺ってきました。

NPO法人たしざん

代表:前田 典子(まえだ のりこ)さん

所在地
練馬区東大泉7-46(大泉学園駅南口より徒歩10分)
パンの販売時間
金曜・土曜の10時30分~18時30分(カフェは11時〜16時)
電話
03-6316-9541
ホームページ
https://tashizan-knight.crayonsite.net

まずは自分たちの子どもの支援から

まずは自分たちの子どもの支援から 前田典子さんは、重度障害者のグループホームを作ることを目指して活動を続けています
前田典子さんは、重度障害者のグループホームを作ることを目指して活動を続けています

「NPO法人たしざん」は、東大泉の住宅街にある一軒家。パン屋さんののぼり旗、庭のテラス席と日よけパラソルが目印です。代表の前田典子さんが出迎えてくださり、ご自宅のカフェでお話を伺いました。

「現在、金曜と土曜は自宅でカフェを開き、パンの販売もしています。火曜は大泉生協病院そばの『あおぞら虹のカフェ』、木曜(不定期)は『街かどケアカフェけやき』、土曜は『はつらつセンター大泉』でパンの出張販売も行っているんですよ」

 NPO法人たしざんのカフェの外観
NPO法人たしざんのカフェの外観

――このような取り組みを始めたきっかけを教えてください。

「20歳の息子には重度の知的障害があり、高校卒業後は福祉作業所に通わせたいと思っていたのですが、職員の方から『これもできない、あれもできない』と言われ、入所できませんでした。息子は手先がとても器用なのに…。社会とつながる場がどうしても欲しかった。また、近隣に重度障害者を受け入れてくれるグループホームがないこともあり、『それなら自分たちで作ろう』と思ったのがきっかけです」

親が病気になった時などは、グループホームがないと本当に困りますね。たしざんのメンバーの一人は、重度知的障害の息子さんを泣く泣く北海道の施設に入所させたそうです。

「同年代の若者がいて、親が日帰りできる施設は北海道しかなかったんです。でも、閉ざされた施設で生活をしていると、地域で生活することは困難になると言われています」

 2018年3月、女子マルシェに出店してパン販売をする前田さんと息子のYさん
(写真提供:前田さん)
2018年3月、女子マルシェに出店してパン販売をする前田さんと息子のYさん
(写真提供:前田さん)

――北海道で日帰りとは…。現状はそういった状態なんですね。

「ご高齢の親御さんで、自宅で障害のある子どもの世話をしている方にお話を聞くと、『どうせこの子は何も分からないから』と言われます。でも、私はそうは思いません。この子たちも感じて分かっている部分は、絶対にあります。慣れ親しんだ地域で暮らし続けるためには、グループホームは欠かせないという思いから、平成27年4月にNPO法人を立ち上げ活動を始めました。1年が経ちましたが、現在は実績づくりという段階です」

パンが結ぶ、地域や人との関わり

パンが結ぶ、地域や人との関わり カフェのテラス席(左)、米粉ショコラアーモンド(右)
(写真提供:前田さん)
カフェのテラス席(左)、米粉ショコラアーモンド(右)
(写真提供:前田さん)

――法人化したこと、また、事業としてパン屋さんを始めた理由について教えてください。

「NPO法人にしたのは、補助金の割合が高く、助成金を受けやすいというメリットがあったからです。設立以前は、月に一度、自宅でガレージセールをやっていたんですが、パン作りを習ったことがあったので、作って販売したところ、お客様から好評で『もっと販売する日を増やしてほしい』との要望をいただきました。そうした経緯で平成27年7月に『ふくしパン工房たしざん』をスタートしました」

 Yさんは高校生の時から、ご近所の掃除をずっと続けています
(写真提供:前田さん)
Yさんは高校生の時から、ご近所の掃除をずっと続けています
(写真提供:前田さん)

――手作りパンには、なにかこだわりがありますか。

「理事の一人が長年、福祉施設に勤めていて、『アレルギー対策は絶対に必要だ』とアドバイスをしてくれました。そこで米粉パンに取り組みましたが、コツをつかむまでどれだけ失敗したかわかりません。米粉パンがメインですが、シニア層に人気のある小麦パンも作っています。穀物と水だけで培養した『あこ天然酵母』を使い、食材は厳選した無添加にこだわっています」

カフェの窓側にある商品棚には手作りパンが並んでいて、取材中もお客様が買いにみえます。地域の方がほとんどで、米粉食パンが一番売れているそうです。

何より地域とのつながりが大切

何より地域とのつながりが大切 ピアノで得意の曲を披露してくれたYさん
ピアノで得意の曲を披露してくれたYさん

「助成金を利用して家にあったピアノをリニューアルし、『ふくしピアノカフェ』を始めました。カフェの営業時間はお声がけいただければ、どなたでもピアノを弾いていただけます。地域のお子さんがしばしば弾きに来ることもよくあります。13時からは息子がアマチュアピアニストとしてコンサートを開くのですが、ホームページを見て、わざわざ来てくださる方もいらっしゃるんですよ」

――NPO法人たしざんの活動をするなかで大切にしていることは何ですか。

「地域の方に理解してもらうことが大切だと考えています。障害者の作業所ができるとなると、住民の反対運動が起こることもあります。息子が地域で役に立てることは何かと考え、高校生の時から、ご近所の掃除をしています。そんなこともあり、以前住んでいた所より好意的に見守ってくださいます」

 カフェの横が厨房。助成金のおかげで本格的なパン焼き用のオーブンが買えました
カフェの横が厨房。助成金のおかげで本格的なパン焼き用のオーブンが買えました

――活動するなかで悩みはありますか。

「財力と人材が足りず、小さな自主事業しかできない歯がゆさがあります。あゆみは亀より遅く、前に進んでいるのか分からなくなります。でも、作業所を作るには、事業者・利用者・地域の三者の対応が必須になるので、まず3年間は今の事業を継続して土台を確立させ、作業所に転換できる時に備えようと思っています」

農業と福祉の連携で、地域の新しい展開を

農業と福祉の連携で、地域の新しい展開を 畑を耕し、種を蒔いて…収穫した色とりどりの野菜たち
(写真提供:前田さん)
畑を耕し、種を蒔いて…収穫した色とりどりの野菜たち
(写真提供:前田さん)

――会社勤めをしているご主人は会計とパンの配達に協力してくれますが、パン作りは前田さん一人が担当。前日の仕込みがあるため、週5日の稼働ですが、実質は年中無休とのこと。フル回転の前田さんですが、これから取り組みたいことはありますか?

「農業と福祉がつながる農福連携で、地域に新しい動きを作りたいと思っています。農業は基本的に野外なので、障害者が作業している様子が地域の人の目に触れます。それに農業にはいろいろな作業があるので、その人の特性に合った作業をすることができます。ちなみに、息子は私よりほうれん草の種まきが上手なんですよ。それに高齢化して人手の足りない農家さんにとっても、働き手の確保になり、農地を守ることにもつながると思います」

農福連携を何年も前からやりたかったという前田さん。生産緑地法では農地の賃借が禁止されていることがネックでしたが、やっと一部改正の動きがあるので、前へ進めるのでは…と期待しているそうです。

「たしざん」という名前に込めた思いとは

「たしざん」という名前に込めた思いとは サポーター取材の様子。前田さんのひたむきさに涙ぐむ場面も…
サポーター取材の様子。前田さんのひたむきさに涙ぐむ場面も…

「先にお話したように、息子は『これもできない、あれもできない』と言われました。でも、やっていけば『これもできる、あれもできる』と、できることがひとつずつ増えていきます。そして、この活動を理解し受け入れてくれる方も、一人、また一人と、増えていきます。そんな風に足されていくイメージで『たしざん』と付けました」

――ボランティアなどでお手伝いできることはありますか。

「はい、ぜひお願いしたいです。現在、理事が3名いますが、会社勤めや体調の関係で時間がなかなか取れません。特にイベント時のパンの袋詰めなど人手が足りません。これから農福連携が実現したら、さらに人手が必要になるので、ご協力いただける方はお声掛けいただけたらうれしいです」

細い体にパワー満タン! 弾ける笑顔の前田さん。障害者も一緒に暮らし続けられる豊かな地域を夢見て、力強く前進しています。ボランティアはもちろん、私たちがパンを購入したり、カフェを利用したりすることも、障害者の就労支援につながるので、できることから応援していきたいですね。

サポータの取材後記

かもめ
取材後に見せていただいた厨房のオーブンが、大きくて本格的なことにビックリ。一人でパン作りを担い、さらに7月、8月は1周年記念月間でイベントが目白押しの前田さん。その底知れぬバイタリティーに頭が下がりました。米粉パンはパンの概念を打ち破るほどのモッチモッチ感がありますが、私は小麦パンが好みです。えっ、これってやはり、私は立派なシニア? そして何と言っても、Yさんのピアノを弾く手の美しいこと。王子様のように細くて長い指に、耳だけでなく目までうっとりの幸せなひと時でした。
豆柴
大泉学園駅から徒歩10分、商店街を抜けた瀟洒(しょうしゃ)な住宅の前で、前田さんが調理の白衣姿で出迎えてくれた。活動状況、今後の抱負など前田さんの元気な話しぶりにこみ上げるものを感じた。社会はどのように手を差しのべているのか、そして今後のあるべき姿は…。農福連携は私にとって初めてのテーマであった。まさに「たしざん」、一歩ずつの歩みが先例となり、大きなうねりになることを期待したい。ささやかながらも私ができることがあれば支援をしたいと思った。ご子息がピアノで2曲披露し、しっかりとした演奏に感銘を受ける。家族に重度の障害を抱えながら、NPOを運営することは大変だと思う。近隣の道路の清掃などで地域からは理解を得ているとの言葉にほっとしたが、日常の苦労を伺い身につまされる思いの時間だった。元気に困難を乗り越える前向きな姿勢に、頑張れ! 前田さん。

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