サポーター体験記
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NHK大河ドラマ「平清盛」舞台裏秘話第30話〉「平家納経」復元までの道のり~小峰和子さんを訪ねて~

NHK大河ドラマ「平清盛」舞台裏秘話
NHK大河ドラマも回を重ねること50年、節目を迎えた作品「平清盛」が今年から始まっています。7月には第30話「平家納経」が放映されましたが、その撮影現場に立会い、平家納経の復元をはじめとして、撮影に必要な様々な情報を提供した方が、ここ練馬区にお住まいです。その人、観蔵院曼荼羅美術館 館長 小峰和子さんをお訪ねし、お話をうかがいました。

観蔵院曼荼羅(かんぞういんまんだら)美術館 館長 小峰和子(こみね かずこ)さん

■プロフィール
1943年埼玉県本庄市生まれ。仏画家。ご主人は仏教学者の小峰彌彦氏(前大正大学学長)。1981年より現代仏画の第一人者 染川英輔画伯に師事。大正大学オープンカレッジ等の講師や寶蓮寺(亀戸)仏画教室主幹としても活躍され、1999年からNGO活動としてネパールの小学校で子どもたちの支援活動も行われています。著作に「大人のぬりえ塾・百人一首画帖1・2」・「十三仏の描き方と鑑賞」他多数。

所在地
練馬区南田中4-15-24
電話番号
03-3996-6858
ホームページ
http://www.k3.dion.ne.jp/~kanzoin/
開館時間
毎週土曜日と日曜日10時〜16時(入館は15時半まで)
※11/1〜11/5特別展(拝観料無料)の直前・直後の土・日曜、11/6〜11/30、年末年始は休館。寺院の都合で臨時休館する場合もあります。ご来館前のお電話でのご確認をお勧めします。
拝観料
一般500円(20名以上300円)、大学生・高校生300円、中学生以下無料
交通アクセス
西武池袋線・練馬高野台下車徒歩10分、石神井公園下車徒歩15分

「平家納経」とは

「平家納経」とは 南田中にある観蔵院併設の曼荼羅美術館。NHKとのご縁やドラマ制作の裏話をうかがってきます!
南田中にある観蔵院併設の曼荼羅美術館。NHKとのご縁やドラマ制作の裏話をうかがってきます!

平家納経は、平清盛が長寛2年(1164年)に一門の繁栄と極楽往生を願って厳島神社に奉納した法華経のことで、総数三十三巻の巻物とその経箱を指します。各巻の表紙や見返し、料紙(りょうし)(※1)等に金銀箔を施し、巻物の軸には水晶などの宝石を使用。その両端には金銀の透かし彫りの金具をつけるなど、最高水準の工芸技術の粋が駆使されており、華麗かつ絢爛な意匠に圧倒されます。現在は国宝として厳島神社に納められ、本物を目にする機会はほとんどありません。
(※1)料紙とは、文書をはじめ典籍、経典等の文字を書くときに使用する紙のこと。

写経の歴史

写経の歴史 仏画家として平家納経の再現にあたった小峰さん。書家の先生とともに写経指導にも携わりました。
仏画家として平家納経の再現にあたった小峰さん。書家の先生とともに写経指導にも携わりました。

奈良時代、日本の朝廷は国家安定策として仏教の普及を考え、そのために国営の写経所を設置して写経を大々的に行います。写経用の紙は、黄檗(きはだ)や丁子など天然染料で染めることもありました。当初、このように染められた紙は虫害を防ぐことが目的でしたが、平安時代に入ると徐々に美麗になり、やがて、経典自体に荘厳さをもたせるために、紫色または紺色の紙に金銀泥で経文を書写したり、金銀の箔で装飾した装飾経が作成されるようになりました。清盛の威を借り、贅を尽くした平家納経はこの時代の最高傑作のひとつといわれます。

再現された平家納経

再現された平家納経 国会図書館等に何度も足を運び、文献をもとに再現。料紙に精通した方の協力も欠かせなかったそうです。
国会図書館等に何度も足を運び、文献をもとに再現。料紙に精通した方の協力も欠かせなかったそうです。

小峰さんがNHKからの依頼を受けて行った、料紙の提供や書家の先生を入れての写経の指導など「平家納経」のシーンに欠かせない撮影裏話をお聞きしました。 小峰さんの作品を拝見すると、紺色に染めた料紙に金泥で境線(経文の各行を区切る線)を引き、金泥で文字を書いたものや、切箔(箔合わせをした金銀箔を細かく裁断したもの)を置いたり、野毛(金銀箔を竹刀で数ミリの細長い線に裁断したもの)を散らしたり、砂子(金銀箔を竹筒などに入れて細かく砂状にしたもの)を撒くなどして、草花、蝶、鳥あるいは抽象的な文様などを装飾したものが美しく、華麗に再現されています。すべて手作業で行われるその細かな細工、色彩の美しさ、醸し出す雅の世界…テーブルの上に広げられた料紙の一枚一枚から、私たちはしばらく目が離せませんでした。

 丁子で染められた料紙に、繊細な細工。茶、青、緑で書かれた経文。美しさについ溜め息が…。
丁子で染められた料紙に、繊細な細工。茶、青、緑で書かれた経文。美しさについ溜め息が…。

様々な出会いに導かれ、復元へ

様々な出会いに導かれ、復元へ 紺色と金泥の上品なコントラストが絶妙。光を受けて輝く金は、栄華を極めた平家そのもの。
紺色と金泥の上品なコントラストが絶妙。光を受けて輝く金は、栄華を極めた平家そのもの。

小峰さんと平家納経との出会いは、今から13年ほど前のこと。上野東京国立博物館・平成館で開催された国宝展、そのレセプション会場でたまたま一人になったときに、射し込む光に照らされて招かれたように足を運ぶ先には「平家納経」が…。じっと見つめているとその瞬間、そこから後光が差すような不思議な法悦感に身体が満たされたといいます。さらには、ラピスラズリ(※2)としては珍しい、薄い紫色の絵の具との出会いがあり、いつかこのラピスラズリで平家納経を描きたいと思い続けることに。その後、時を経て、仏画を大学やカルチャーセンターで教えていた関係で、料紙研究者や書家の方々との出会いが続きました。様々な出会いのおかげで、NHKからの「2週間で完成を!」という難しい依頼にも「できるかもしれない」と思える、内なる力になったといいます。

(※2)ラピスラズリとは、青金石・瑠璃のことで、古来より聖石として親しまれています。語源はアラビア語の深い夜空の色の意味で、濃紺色が一般的。古代エジプトでは宇宙的な真理へと導く神聖な石として大切にされ、仏教の世界では極楽浄土を飾る七宝のひとつ。

 経文の前頁に配置される「見返し絵」。艶やかな十二単姿の女性が剣をかざしている姿も。
経文の前頁に配置される「見返し絵」。艶やかな十二単姿の女性が剣をかざしている姿も。

「人の縁とは、あるときは助け、あるときは助けられる…不思議なものです」と小峰さん。今回のNHK大河ドラマの関係者との出会いも、曼荼羅図が取り持つ、ちょっとしたご縁から生まれました。

 小峰さんの作品のひとつ。線刻でつくられた東大寺大仏殿の「蓮華蔵世界」を1枚の絵に表現。
小峰さんの作品のひとつ。線刻でつくられた東大寺大仏殿の「蓮華蔵世界」を1枚の絵に表現。

2005年日本EU市民交流記念事業(外務省・文化庁共催)で日本文化紹介のため、総勢50名もの一団で、チェコ(プラハ城)・ポーランド(旧宮殿)・イギリス(ロンドン大学)などを周る機会に恵まれました。そこでは僧侶らによる声明、雅楽や舞楽が演じられ、荘厳な雰囲気を醸し出しました。そのバックには観蔵院所蔵の両部曼荼羅が。これは約1300年前の曼荼羅を18年もの歳月をかけて染川英輔画伯が経典をもとに忠実に再現したものですが、1枚約250キロもあるため、実物を日本から運び込むことができません。そのため、高度なデジタル技術を用いてコピーした作品が展示されました。演奏後に行った曼荼羅の説明では、参加者の皆さまに強く興味を持っていただき、文化交流は世界平和につながると感じたそうです。


あるとき、この両部曼荼羅を収録したDVDが、NHK大河ドラマ担当者の目に留まりました。そのご縁で第15話「嵐の中の一門」に観蔵院両部曼荼羅が登場しました。その折、「清盛が厳島神社に奉納した国宝『平家納経』の再現をしているんですよ」とお話ししました。 その後、第30話「平家納経」の収録が近づいた5月にその関係の方から「平家納経のシーンの資料提供をお願いできませんか」と依頼の電話が入りました。

 ドラマで写経に失敗するシーンに使われた作品。三行目に書き損じた文字が。
ドラマで写経に失敗するシーンに使われた作品。三行目に書き損じた文字が。

それからが大変です。書写を失敗するのを考えてのことでしょうが、1枚つくるのに普通なら3日ほどかかる作業に「同じ作品を2枚ずつ作ってください」との依頼もありました。また25話「見果てぬ夢」、26話「平治の乱」に出てくる後白河上皇への箴言(しんげん)として側近が見せる白楽天「長恨歌」の挿絵は「4日で仕上げて!」と依頼され、締め切り時間にバイクで受け取りに来られた助監督さんに側で待っていただき、完成品を提出…なんてことも。


「テレビ放映の際には、ほんの一部しか映りませんでしたが、美しい映像に我ながらびっくりいたしました。またひとつの事を通して大勢の人がいろいろな所で協力してくださり、素晴らしいご縁をいただきました」そうおっしゃる小峰さん、努力の成果が次なるご縁につながることを確信しているようでもありました。


これからは今以上に文化交流に力を入れなければという、インタビュー最後の小峰さんの言葉には、とても説得力があり、いつまでも心に残る一日でした。

サポーターの取材後記

おこたん
国宝として広島の厳島神社に納められている実物の納経は見ることも叶いませんが、史実に基づき再現された納経の一部と数々の料紙を見せていただきそのあでやかさと雅な色合いにはうっとりするばかりでした。「この伝統文化は絶やしたくないものです。」とおっしゃる小峰さんの言葉には頷くばかりでした。
momo
2.3×2.1mの巨大な曼荼羅図が掲げられている美術館を通り過ぎ、取材用に用意された奥の部屋に入るとテーブルの上には、美しい「平家納経」の復元図が置かれていました。その色彩、意匠には圧倒されます。古人の色彩感覚、それが醸し出す日本人の手わざによる美術工芸品の数々、ものづくり文化を誇りに思うとともにその再現に立ち向かった小峰さんのパワーに乾杯!

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