亡くなった配偶者の分まで楽しく生きる
~「没イチの会」の考え方を知る〜

取材日:平成29年12月18日 更新日:平成30年1月25日

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バツイチではなく没イチとは、配偶者を亡くして単身になるという意味。夫婦といえど、いつかはどちらかが必ず没イチになります。総務省の国勢調査によると1990年から2015年の25年間で65歳以上の没イチ率は1.5倍に増加し、2015年は男女合わせて864万人。圧倒的に女性が多いという結果。いざ当事者となったその時、どのように受け止めて生きていくのか? そのひとつの形となる「没イチの会」に取材してきました。
没イチの会
発足人:第一生命経済研究所 主席研究員 小谷 みどり(こたに みどり)さん
■ホームページ(小谷みどりさんのレポート紹介ページ)
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/members/kotani.html

配偶者を亡くした仲間が集う、ゆるい会

 「没イチの会」の呼びかけ人は、第一生命経済研究所の主席研究員、小谷みどりさん。立教セカンドステージ大学(50歳以上のシニアを対象とした生涯学習の場)で、「死生学」の講師もしています。

 「没イチの意味は、配偶者を死別で亡くして単身となった人のこと。『没イチの会』発足のきっかけとなったのは、私が授業を受け持つある受講生でした。その人は配偶者を亡くして、入学当時は本当に暗い顔をしていたのに、授業に出て仲間と過ごすことで少しずつ明るい表情になってきました。改めて毎年のクラスを見回してみると、意外にも没イチの受講生が多かった。同じ境遇の人たちで集まって何かできないか、と声を掛けたところ、受講生の中から幹事役を務める人が出て、2年前に発足しました」

 「没イチの会」の活動はどのようなことをするのですか。

 「50~70代の10数名が集まるシンプルな飲み会です。この2年間で11回開催していますから、2~3か月に1度のペースでしょうか。特定のテーマについて話し合うということはありません。メンバーは受講者限定で、全員が没イチという課題で集うテーマ・コミュニティなので、『遺品の整理のいつ頃した?』『亡くなった配偶者の親戚づきあいはどうしてる?』などといった話題を自然に出しやすいゆるい会です」

 没イチということで、心情を共有する安心感があるのかもしれませんね。飲み会の他に、時には’80年代サウンドのディスコに昔を懐かしんで行くこともあるとのこと。

悲しみを分かち合う段階から一歩進んで

 取材前は、悲しみ合う会のようなイメージを抱いていたのですが、そうではないようですね。

 「配偶者に限らず、子どもや友人など大切な人を亡くした人たちが集まり、悲しみを分かち合う『わかちあいの会』は、全国の自治体や保健所などに多く存在します。そういった会では、それぞれの体験や思いを語り、心理カウンセラーのアドバイスなどもあるようです。いわば悲しみの中にいる人たちの会です。でも『没イチの会』はそれとは違います。そういった段階を経て、単身で生きていく中で、ちょっとプラスとなるような会です」

 「わかちあいの会」と「没イチの会」は、住み分けができているということですね。そもそも没イチの人たちは「さまざまな偏見にさらされている」と小谷さんは語ります。

 「60代のメンバーが多いのですが、同窓会などに出ると、『定年後は妻と旅行を楽しんでいます』という同窓生が多い。そんな中で『妻とは死別して…』と話すと、周りの空気が変わってしまう。一気に哀れみの目で見られ、会話が弾まなくなることがままあります」

 それだけでなく、没イチになって一人で趣味などを楽しむようになると、「あの人は悲しみもせずに、すっかり自由になって」と、言われのないバッシングを受けることも。その一方で、「ずっと悲しんでいるよりも、楽しんでいるほうが亡くなった人も喜びますよね」と言われることもあるそうですが、小谷さんはそれにも共感しません。

 「一番かわいそうなのは、やむなく死に至った配偶者だと思います。生きていれば、まだいろいろなことができたかもしれない。だから、亡くなった人が人生を楽しめなかった分、残された人が楽しんであげよう。それが供養になると私は考えます」

 聞けば小谷さん自身も、40代前半で配偶者を亡くしています。その死は突然で、悲しむ間もなかったとのこと。それなのに世間は、いろいろな目で自分を見る。そこに一石を投じたい、と言います。

 「だから『没イチの会』の別名は、『死んだ配偶者の2倍人生を楽しむ使命を帯びた人の会』。入会条件は、涙に暮れていないことです」

「没イチの会」がもっと増えれば、世間の目も変わる

 「正確に調べたわけではありませんが、『わかちあいの会』の次の段階に当たる『没イチの会』のような存在はあまり聞きません。でも、悲しむだけでなく前を向こうとしている多くの人が存在するのは確かなこと。地域の中からでも『没イチの会』を始めることはできるので、価値観を語り合える場が増えていくといいな、と思っています」と小谷さん。

 核家族化する現在では、子どもがいても独立後に同居を望まないことも多く、没イチになる確率も上がります。そんな方たちが集まってお茶を飲むこともあるでしょうが、テーマ・コミュニティとして「没イチの会」のような意識を持ったら、明るい前向きな風が吹きそうです。

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小路

つらい時期を乗り越えた後の人生を前向きに捉えられるかどうかで、その後の人生は大きく変わる。亡くなった人が叶わなかった分も思いきり生きよう。その認識のもとに集い、楽しいひと時を過ごす。「没イチの会」は、つらい経験をした者が元気と希望を取り戻す得難い場であると思った。今後、団塊の世代が高齢者の多数を占めていくのに伴い、同様の会が地域でできていくのではないだろうか。

かぐや姫

高齢化・核家族化が進む現代、配偶者との死別後、一人暮らしになって、孤独感や喪失感に苦しむ人が多いそうです。主宰者の小谷さんご自身、ご主人を亡くされているのですが、「次はみんなでディスコに行くのよ」と明るく話されます。悲しみから抜け出た方々の「没イチの会」は、趣味や仕事という自分の世界を持ちながらも、やがて誰にでも訪れるこのような時に、大きな支えになると思います。地縁の恩恵も大きいですから、私が住む地域にも、このような会ができればいいなと思いました。

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「没イチの会」の呼びかけ人である小谷みどりさんは、関西弁でテンポよく話します。専門分野は死生学、生活設計論、余暇論で著書多数

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「没イチの会」のメンバーは、立教セカンドステージ大学の受講生であり、没イチの方たち。それが共通意識となり、ことさら没イチを強調するでもなく、楽しく会を続けているとのこと

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書類の婚姻関係を記す欄に、「未婚」「既婚」「離死別」しか選択肢がなかったことに違和感を覚えたという小谷さん。「離婚と死別ではまったく意味が違うのに、なぜ同じ扱いなのか」。没イチという言葉が広がれば、世間の意識も変わっていくのかもしれません

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練馬区の高齢単身世帯数の増加率(平成2年対平成27年)

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練馬区の高齢単身世帯数の推移(平成2年〜平成27年)

25年間で練馬区の高齢単身世帯(65歳以上の一人世帯)は約4.4倍、そのうち75歳以上は6.4倍、85歳以上は14.4倍に増えています。年齢上がるにつれ、増加率が大幅に上昇していることが分かります。

(上記2つの表)
国勢調査等で振り返る練馬区より

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サポーターの取材の様子