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心も体も元気であり続けるために
〜東京都健康長寿医療センター研究所を訪ねる〜

取材日:平成29年8月29日 更新日:平成29年11月10日

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日本は平均寿命の長さを誇る長寿国ですが、心も体も健康な状態で長生きしたいというのが理想ですよね。いかに“健康寿命”を延ばすか、そのためにはどんなことに気をつければよいのか…。そんな思いに応えてくれるのが、長年にわたり高齢者に特化したさまざまな調査や研究を行っている、東京都健康長寿医療センター研究所です。病院と研究所を併せもつ最新の施設があるのは、お隣の板橋区。さっそく取材に行ってきました。
地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所
社会科学系 副所長:新開 省二(しんかい しょうじ)さん
■所在地 板橋区栄町35-2
■ホームページ:http://www.tmghig.jp/J_TMIG/J_index.html

健康長寿のための研究とは?

 訪ねたのは、センター研究所の社会科学系の副所長を務める新開省二先生。社会科学系の研究は、高齢者を取り巻く社会的な仕組みや予防に関するテーマが中心です。

 「私たちが取り組んでいるのは、健康長寿の疫学研究です。地域の65歳以上の高齢者を対象に、健康診断や物忘れチェック、生活状況、認知機能の検査などを実施してデータを集め、継続的にその後の健康状態の推移を見ていくというもの。その結果を分析して、福祉の専門家の協力も仰ぎながら、高齢者ケアの仕組み作りを考えていきます。高齢者が地域で安心して暮らせるモデルケースを作り、最終的には全国で展開することを想定しています」

 この結果は今年度のうちにまとめられ、平成30年春頃に発表予定とのことです。また、現在の医療に対するさまざまな提言も行っています。

 「現在の薬の処方や健康診断の基準は、幅広い年代を対象としているため、必ずしも高齢者に即しているとは限りません。例えば、年齢に応じた処方基準を設ければ、高齢者に対して過剰に行われている治療を抑えることができます。そういった研究を東京都や国の委員会と連携し、施策に活かしていくのも、この研究所の役割のひとつなんですよ」

健康寿命を保つために大切な、フレイルの予防

 高齢者の健康について考えるとき、特に気になるのが認知症ではないでしょうか。しかし、新開先生は、認知症という1つの病気だけを見るのではなく、老化や生活全般を含めた“健康長寿”という視点で考えることが大切だと話します。

 ここで大切なのが、老化による虚弱状態を意味する「フレイル」というキーワード。心身機能・生活機能・社会機能が低下し、放置すれば要介護に陥る危険な状態のことで、認知症状態もフレイルに含まれます。健康寿命は、フレイルの有無やその程度によって大きく影響するので、フレイルにならないための予防対策はとても重要というわけです。

 「高齢期の予防策のポイントは、体力・栄養・社会参加の3点。脳と体は連動しているので、足腰が弱ってくると脳の低下も早い。日頃から体を動かし、筋力をつけておくことが大切です。体を動かしていれば食欲も落ちず、栄養不足になることはありません。特にたんぱく質は、高齢者に不足しがちな栄養素なので、意識して摂るようにしてほしいですね。また、家に閉じこもって人と会う機会が少なくならないように、趣味やボランティアなど社会参加を心がけてください」

 つまり、体力・栄養・社会参加の3点を意識して実践することが健康長寿につながり、認知症の予防にもなるということですね。ちなみに新開先生の研究では、歩く時、いつもより歩幅を10㎝広くするだけで体力維持につながることがわかったそうですよ!

健康長寿のための12か条

 今まで新開先生が取り組んできた疫学研究の結果をもとに、平成29年6月に策定されたのが、「健康長寿新ガイドライン」です。単なる病気の予防策ではなく、健康寿命を伸ばすための具体的なポイントがまとめられています。

 「平成12年にも健康長寿ガイドラインを発表していますが、今回は多岐にわたる専門家の意見も取り入れ、よりわかりやすいものにしました。その中心となるのが、日常生活で気をつけたい指針をまとめた『健康長寿のための12か条』です」

 具体的な内容をご紹介しましょう。
①食生活(いろいろ食べて、やせと栄養不足を防ごう!)
②お口の健康(口の健康を守り、かむ力を維持しよう!)
③体力・身体活動(筋力+歩行力で生活体力をキープしよう!)
④社会参加(外出・交流・活動で、人やまちとつながろう!)
⑤こころ(めざそうウェル・ビーイング。百寿者の心に学ぼう!)
※ウェル・ビーイング…身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること
⑥事故予防(年を重ねるほど増える、家庭内事故を防ごう!)
⑦健康食品やサプリメント(正しい利用の目安を知ろう!)
⑧地域力(広げよう地域の輪。地域力でみんな元気に!)
⑨フレイル(「栄養・体力・社会参加」3本の矢で、フレイルを防ごう!)
⑩認知症(よく食べ、よく歩き、よくしゃべり、認知症を防ごう!)
⑪生活習慣病(高齢期の持病を適切にコントロールする知識を持とう!)
⑫介護・終末期(事前の備えで、最期まで自分らしく暮らそう!)

健康長寿を目指すのは今からでも遅くない!

 健康長寿に向けて、具体的にやるべきことがわかってきましたが、シニア世代になってからでも遅くないのでしょうか…?

 「約3,000人の高齢者を17年間調査した研究では、65歳の時点での認知能力や体力の状態が、その後の健康長寿に影響することがわかりました。65歳でどのような状態にあるかは、それ以前の生活習慣が関係しますから、中年期からの健康に配慮することが望ましいですね。とはいえ、65歳からでも遅いということはありません! 健康長寿を心がけた生活を送ることで、認知症の発症などを遅らせることはできます」

 年齢と共に、興味のあることや体力、社会活動の形は変わっていくもの。それぞれの生活の中で、「健康長寿のための12か条」をできることから実践し、心も体も元気な“健康長寿”を目指しましょう!

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オーパちゃん

認知症対策を含めて「フレイル」防止への注意が重要で、シニア世代前期では生活習慣病の予防、そして後期高齢者世代では栄養の摂取など体力保持が大切であること、医療検査結果の標準値も若い世代とは区別して考える必要があるとのお話は、私にとって特に注目したい新知識でした。
センターの2階にある「養育院・渋沢記念コーナー」や情報コーナーには自由に出入りできますし、建物の周囲は昔から桜の名所で、いろいろな草花が育てられて恵まれた雰囲気になって普通の病院とは全く異なった佇まいです。散歩がてらに、気楽にシニア世代の皆さんの見学をお勧めしたいと思います。

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現在の医療では、認知症の進行を緩めることはできても止めることはできないと言われています。ならば予防に視点を移して、本人や家族が思える気づきや危険信号、認知症に移行するような物忘れとはどのような状態なのかということに関心があり、取材に臨みました。
実際の取材では、認知症ばかりでなく、健康長寿を保つためには、生活習慣の改善、生活習慣病の予防が重要というお話を聞くことができました。生活習慣の改善は若ければ若いほど効果的とのことですが、もう若い頃には戻れないので、今からでも生活習慣を改めようと考えさせられました。

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新開省二先生。疫学研究の第一人者であり、講習会を開催したり、テレビ番組に出演されたりしています

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「健康長寿新ガイドライン」策定のリリース資料

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東京都健康長寿医療センターの歴史は長く、その前身は、明治時代の実業家・渋沢栄一が院長を務めた養育院。現在は、高齢者専門の病院と研究所が一体化し、平成25年に新施設がオープンしました

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センターの2階には「養育院・渋沢記念コーナー」が設けられ、養育院施設の歴史が紹介されています。貴重な資料や写真、書籍など実物が展示されています

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情報コーナー「なるほど!からだラウンジ」では、健康と生活に役立つ資料の閲覧や頒布、図書の販売も。自由に飲食ができる休憩・待合スペースとしても利用されています

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センター敷地内にある渋沢栄一銅像は、板橋区登録有形文化財に指定されています。大正14年建立

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サポーターの取材風景。質問に熱心に答えてくださる新開先生