152
カテゴリ
昭和レトロのパン屋さん
~練馬・丸十ベーカリー~

取材日:平成28年12月21日 更新日:平成29年1月25日

sprepo152_top
全国に点在する「丸十ベーカリー」が練馬区にもあるのをご存じですか。練馬駅南口から徒歩20分ほどの環状七号線を渡ったところにある店舗は、創業から67年。店内は昭和レトロな佇(たたず)まいで、対面式の大きなショーケースの中には、昔から変わらないパンが並びます。週末は外にまで行列ができるほどの人気店。その魅力はどんなところにあるのでしょうか?
丸十ベーカリー
店主:堀内 公英(ほりうち きみひで)さん
■所在地 練馬区豊玉中2-14-1
■電話 03-3991-2614
■営業時間 9時〜20時
■定休日 月・火

丸十ベーカリーの由来

 出迎えてくださったのは、「丸十ベーカリー」店主の堀内さん。御年78歳で、まだまだ現役でパンを作っていらっしゃいました。お店の由来は、堀内さんの祖父の代まで歴史をさかのぼることになります。

 イーストによる製パン法を日本で初めて開発したのは、丸十の始祖である田辺玄平翁です。明治時代にアメリカで学び、帰国後イースト菌の研究に励んで、ようやく今のようなふっくらしたパンを作る製法を確立しました。その新しい製パン法を習得するため、全国から集まった弟子たちが田辺家の家紋である『丸十(まるじゅう)』を商標に掲げ、製パン法とともに全国に「丸十ベーカリー」が広まったとのことです。

 この時、玄平翁の同志として彼の元で製パン法を学び、現在の甲州市でパン屋を始めたのが堀内さんの祖父でした。二代目となる堀内さんの父親は、昭和初期に上京し、ここ練馬区で開店したのは、昭和24年でした。

 「私は長男なので、ごく自然に三代目として父の職業を継ぎました。父の元でずっと修行をしてきたので、父が作ってきたパンを同じように作り続けています」と話す堀内さん。今は、後継ぎの息子さんと一緒に厨房(ちゅうぼう)へ入り、毎日パンを焼いています。

対面販売を続ける思いとは?

 最近では珍しい対面販売にこだわるのはなぜでしょうか?

 「商品であるパンを大事にしたいのです。ケースの中なら衛生的でお客さんもその方がうれしいでしょう。もうひとつは、お客さんとの会話です。スーパーやコンビニではしゃべらずに買い物を済ませられますが、対面販売だと必ず店員と会話をするんですよ。いちばん大切なお客さんの声をじかに聞ける場なので、このまま続けていきたいと思っています」

 ここのパンはどれも庶民価格(110円〜150円が中心)で、私たちにとってはありがたい限りですが、何かご苦労などはありますか?

 「苦労だと思ったことはありません。長い間やっていますから、お客さんに喜んでいただければ十分です。店員たちの給料が払えればいいと思っていますから。パンの価格にはこだわりませんし、もうけようなんて考えは一切ありませんね」

 お客様を一番に考えるこの気持ちが、地域の皆さんに長く愛される理由なのかもしれませんね。

人気ナンバーワンは「あんぱん」

 「パン作りは易しいようで難しい」と、堀内さん。
 「小麦粉や卵など材料にはこだわっています。良い材料を使って良いパンができた時は最高にうれしいですね」と言います。

 一番好きなパンは、お店の人気ナンバーワンと同じ、あんこがたっぷり詰まった「あんぱん」とのこと。持ってみると見た目以上にずっしりと重みがあり、しっとりとしたあんは甘すぎず、やわらかいパン生地との相性も抜群でした。
 作っているパンは約70種類というから驚きです。その中には、大正時代、脚気(かっけ)予防に尽力したという玄平翁の意をくんで今も作り続けている「玄米パン」もあります。

 「はやりのデニッシュ系やハード系のパンは作りません。あんぱんやクリームパンやジャムパンのような菓子パンをはじめ、焼きそばパン、コロッケパンなどコッペパンを使った調理パン、カレーパン、サンドイッチ、食パンなど、昔ながらの製法で、昔からあるパンを作っています」

 調理パンは午前中には、ほとんど売り切れてしまうというほど人気の丸十ベーカリー。取材中も途切れることなくお客さんがお店にやってきて、ケース越しにおしゃべりと買い物をして帰っていきます。週に何度か利用するという男子学生は、「おいしくて安くてボリュームもあるのでお気に入りです」と話してくれました。

モットーは「楽しく暮らすこと」

 堀内さんの1日は、毎朝4時に起きてパンだねを仕込むところから始まります。昼食は仕事の合間にパンをかじる程度で、閉店の20時まで忙しく働く毎日。寝るのは22時から23時だそうです。

 「70歳を過ぎると体が思うようにいかないこともあるけれど、毎日仕事をするのが一番いい。元気に過ごす秘訣(ひけつ)? 人の悪口は絶対に言わないことだね。いいことしか言わない。何でも楽しくやりたいからね」

 そんな堀内さんを支えるのは、奥様の由紀子さん。ポテトサラダや卵などのお総菜と調理パンを担当しています。カレーパンを揚げたり、サンドイッチを作ったり、お客様の対応をしたり…と、座る暇のないの奥様を、堀内さんは「ほとんど立ちっぱなしで忙しいけれど、本当によくやってくれています」と、ねぎらいます。

 パンを通じてお客様との交流が生まれ、人の温かさが感じられる丸十ベーカリーには“昭和の懐かしさ”があふれていました。ひとくち食べればホッとする、いつまでもそんなパンを作り続けていってほしいと思います。
 本日はありがとうございました。

spcomtitle

プラッシー

子供と一緒に初めてこのお店に来てから、もう25年が経ちます。その頃売られていた「シベリア」や「甘食」はもう無いのに、来るたびに思い出します。昔と同じ味で同じスタイルを貫いていらっしゃるから、忘れてはいけないいろいろなものがパンに詰まっているのですね。

ハニー

「ご近所さんもお客様も従業員もみんなお仲間」とおっしゃるご主人の人柄が来店者を幸せにするのでしょうか。昔からの常連さんたちにたくさんの方が交じり合い、大きな家族のようなコミュニティーができていました。ご近所にこんなお店があったら通ってしまいそうです。

sprepo152_01

パン職人ひと筋の堀内さん。気さくな雰囲気と明るい笑顔が印象的です

sprepo152_02

日本のパンの原点である「丸十」のマーク。田辺玄平翁が丸十製法を指導後、弟子にのれん分けした店は、現在全国に約40店舗

sprepo152_03

丸十ベーカリーの入り口。“Marujuu Bakery”と書かれた看板が目印です。広いガラス窓からは店内や厨房の様子が見えます

sprepo152_04

常連のお客さんとの会話が弾む対面販売。中央は奥様の由紀子さん

sprepo152_05

一番人気のあんぱん(写真は、こしあん130円)。食べ応えも十分です

sprepo152_06

大きなショーケースに並ぶ調理パンや菓子パン。目移りしてしまうほど豊富な品ぞろえです

sprepo152_07

厨房で息子さんと一緒にパンを作る堀内さん

sprepo152_08

店内に掲げられた段ボールの宣伝広告は、お孫さんが書いたもの