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石神井公園ふるさと文化館分室に行ってみませんか
〜文学と音楽が共存する空間〜

取材日:平成28年10月20日 更新日:平成28年12月12日

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石神井松の風文化公園の中にある、瀟洒(しょうしゃ)な白い2階建ての建物。この公園管理棟の中に、平成26年4月、石神井公園ふるさと文化館の分室(以下、分室)がオープンしました。「オーディオの神様」と呼ばれた芥川賞作家・五味康祐のオーディオルームが公開されていることでも有名ですが、どのような施設なのでしょうか。取材とオーディオの試聴へ行ってきました。
練馬区立石神井公園ふるさと文化館分室
分室長:山城 千惠子(やましろ ちえこ)さん
オーディオ担当:上岡 正道(うえおか ただみち)さん
■所在地 練馬区石神井台1-33-44(石神井松の風文化公園管理棟内)
■電話 03-5372-2572
■開室時間 9時〜18時
■休室日 月曜(祝休日の場合は、その直後の祝休日でない日)、年末年始、展示替え期間
■URL http://www.neribun.or.jp/furusato.html

優雅な空間はクラブハウスの名残り

 公園管理棟のエントランスから一歩中へ入ると、そこは吹き抜けのホール。ステンドグラスが美しい半円形の窓やアールデコ調の建築様式、カーペットを敷き詰めた階段など、公共の施設とは思えない優雅な雰囲気が醸し出されています。

 「かつて日本銀行グラウンドのクラブハウスだった建物をそのままいかして使っているので、あちこちにその名残があるんですよ」と説明してくださったのは、分室長の山城さん。
 なるほど、壁には日本銀行の紋章であるライオンのレリーフがはめ込まれていました。

 2階には、緑豊かな石神井松の風文化公園を見渡せる多目的ホールがあり、四季折々の変化を感じられる開放的な設計。広い和室もあり、さまざまなイベントで利用されているそうです。

練馬区ゆかりの文化人に触れられる常設展示室

 博物館の役割を担う本館に対して分室は、練馬区ゆかりの文化人を展示紹介する文学館という位置付けとのこと。さっそく、山城さんに館内を案内していただきました。

 「1階には、石神井公園の近くに長く住んだ小説家・檀一雄の書斎が再現されています。机や電気スタンド、火鉢や鉄瓶も実際に檀一雄が使っていた物で、ご長男が保管していた石神井や九州から運んできました」

 「練馬区ゆかりの文化人」展示室には、檀一雄をはじめとする文化人たちの資料や写真などが並びます。彼らの若かりし時代の写真からは、当時の生き生きとした交流の様子が伝わってくるようです。瀬戸内寂聴や松本清張が練馬区に住んでいたことなど、新たな発見もありました。

 また、展示室では、年に4回、企画展示が催されています。昔から日本で使われてきた季節のくらしの道具や風物を描いた俳句や随筆、小説などを紹介したり、剣の道に生きた柳生家の魅力を多角的に紹介したり…と、他にはないオリジナリティーにあふれたテーマが特徴です。

五味康祐のオーディオ展示室で蘇(よみがえ)る音

 「文学館的要素のたくさんある分室ですが、他の文学館と大きく違うのは、“音楽のある文学館”だということ。オーディオ展示室を備えている文学館は都内ではここだけで、全国的にも珍しいんです」

 そのオーディオ装置は、五味康祐が所有していたもの。柳生十兵衛などの柳生一族を扱った作品で知られる芥川賞作家です。「オーディオの神様」と称されるだけあり、数々の貴重な機器や資料などが2階の展示室に並び、定期的にレコードコンサートや音出しの試聴が行われています。

 分室で展示されるようになったのは、平成19年に五味康祐の遺族が亡くなられたことがきっかけでした。オーディオ装置や収集したレコードなどの貴重な遺品を散逸させてはならないと、練馬区が保管をすることになったのです。
 しかし、こうしてレコードを聴けるようになるまでには大変な苦労があったそうです。オーディオ担当の上岡正道さんにお話を聞きました。

 「五味康祐が“貴婦人”と呼ぶほどこよなく愛したタンノイのスピーカ―は、遺族が保管している間はほとんど使われなかったため、引き取った時はまったく音が出ませんでした。『蘇らせたい』という一心で、メーカーの輸入代理事業者に見てもらったり、音出しを繰り返したりして、少しずつ音が出るようになりました」

 乾燥している日はかたい音に、湿度が高い日はこもった音になるなど日によって音が違うため、上岡さんは「オーディオは生き物」と言います。

散歩のついでに文学も音楽も楽しめる場所

 タンノイ・オートグラフがあるオーディオ展示室では、7月と8月を除き毎月レコードコンサートが開かれています。この音を聴くために、定員20名のところ、毎月2〜3倍の応募がある狭き門なのだとか。北海道から沖縄まで、日本全国から熱心なファンが集まります。

 毎週火曜と木曜は、メンテナンスのための音出しが行われ、こちらは自由に聴くことができます。あくまでも音出しのための作業なので、どんな曲がかかるのかは上岡さん次第。取材日はモーツァルトのトルコ行進曲がかけられ、高音から低音まで澄みわたり、温かく、優しい音色を楽しみました。

 最後に、山城さんからシニア世代に向けてのメッセージをいただきました。
 「分室では、地域との交流を深められる講座やイベントも数多く開催しています。三宝寺池からはすぐ近くなので、散歩がてらぜひ寄ってみてくださいね」

 自然豊かな環境の中で、文学と音楽を楽しむ穏やかな時を過ごしてみませんか。

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かぐや姫

広い芝生と松林の中の石神井公園ふるさと文化館分室には、散歩の途中たまに立ち寄らせていただいています。今回、取材して、「音楽がある文学館」として改めて魅力的な施設だということがわかりました。五味康祐のオーディオで聴くレコードの音は温かく、優しかったです。

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取材後、「五味康祐のオーディオで聴くレコードコンサート」に参加しました。シニア20名が聴き入る後ろ姿は人生と音楽が交互に作用しているかのようでした。不協和音も調和もあるクラシック音楽から、悲しみの必要性を知るのかもしれませんね。

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「練馬にゆかりの文化人」というキーワードから、これほど面白いコンテンツを次から次へと発信できるなんて、すごい! とすっかり分室ファンになりました。ちょっとハードルが高いと思いがちなクラシック音楽や文学、アートなども、ご近所の縁を感じると、ぐっと身近になるから不思議です。

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「エントランスホール」。随所に施された豪華な内装は見どころ満載! 1階にはカフェが併設されています

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分室長の山城千惠子さん。優しい語り口の中にも、文学に対する熱い思いが感じられます

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常設展示の「檀一雄の書斎」。太宰治や坂口安吾、草野心平、中原中也など多くの作家や芸術家が集う拠点となった場所

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サポーターの取材の様子。貴重な資料もたくさん見せていただきました

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2階の「多目的ホール」では、音大生によるサロンコンサートも行われます

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2階の「五味康祐資料展示室」。彼の文学と音楽に関するさまざまな資料や写真を見ることができます

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ご自身もオーディオが大好きで、五味康祐を尊敬してやまない上岡さん。「音が出るようになったオーディオは、元気になった我が子を見るよう」

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公園管理棟の目の前に広がるグラウンドは「多目的広場」。団体利用のない時間帯は一般開放されています